彦四郎の中国生活

中国滞在記

中国の司法(法治)、人権について思うこと❻―社会主義核心価値観「自由」「民主」「法治」とは②

2018-12-23 15:09:56 | 滞在記

◆前号のブログ記事で、「中国社会主義核心価値観」12のうち、次の四つが未記入でした。「敬業」「誠信」「友善」「公正」。

 2018年10月の「第十九大会」において、「国家主席」の在籍任期を2期10年までとするという規定を撤廃し、2022年以降の習近平氏の長期政権が実現可能となったことに関しては、国外からも驚きの声が上がった。このような状況に関して、中国国内でもさまざまな声があったと報道されていた。。(「朝日新聞記事8月上旬—「習氏崇拝 批判が続出 党宣伝部、直接的な礼賛抑制か」 )   日本のインターネット報道には、「中国のインターネット記事で、若い女性が車のバックを誘導させる写真。これは、習近平氏が10年間までの任期制度を撤廃し、中国の民主をバック(後退)させたことに対する批判」と報道された記事(2018年4月24日)などもあった。

  2018年4月7日に中国の上海でおこった出来事についての日本のインターネット記事(7月中旬)。この記事の見出しは「習氏看板に墨をかけた女性が消えた—中国の湖南省出身で上海に住む董瑶璋さん29才」となっていた。「7日の午前6時頃、董さんは習近平国家主席を支持しないという内容や習近平ポスターに墨をかけるパフォーマンスの動画を発信。当日の午後2時28分、制服を着た男たち数人が家を訪ねて来たと、ドアの覗き口越しに映る公安関係者らしい男たち写真付きで董さんがツィート発信。その後、拘束されたか。」という内容だった。

 2018年8上旬、日本の朝日新聞には、「精神病院に送られた娘を返して—父の訴え」という記事が掲載されていた。「習氏看板に墨をかけた女性—父、"娘返して"—理由なく精神科病院に―父が声明文を出す」という内容だった。董瑶璋さんは、湖南省の精神科病院送りとなっていたようだった。日本でも公共物に墨をかけて汚す行為は「公共物損壊」にあたるとして拘束に値する行為となるが、その後董さん父・娘はどうなっているのだろうか心配でもある。

 2018年12月18日付の日本のインターネット記事。書いた人の名前は「志葉玲」。名前からして中国人のようにも思えるが、日本人かもしれない。「中国当局、100万人を強制収容所に―新疆ウイグル自治区での"民族抹殺"、生還者らが告発」という見出しの記事。それによると、「先月、人権団体・アムネスティ インターナショナル日本の招きで来日したオムルベク・アリさん<強制収容所から生還>らと集会を開催」とあった。

 米中貿易戦争が始まり、政治的にも経済的にも対立を深める米中関係の中、欧米からの「ウイグル人収容」に関する国際的人権問題への批判が高まってきている。このような国際的な批判の高まりを受けて、中国外交部は、これまでは このような収容施設の存在を否定していたが、「これは職業訓練の施設であり、中国語の学習やさまざまな職業訓練をしている施設だと」し、「海外で報道されているような収容所の実態は間違ってる」と反論している。

 2018年7月10日ごろ、「ノーベル平和賞受賞・民主活動家の妻である劉霞さん」が 2012年以降の6年間にわたる自宅軟禁を解かれ、ヨーロッパのフィンランドへと出国した。亡くなった夫の命日にあたる7月13日、ドイツのベルリンで追悼式典に参加をする。フィランドの空港に到着した劉さんは、長年の軟禁状況から解放されたのを確信し、「弾けるような喜びの笑顔」を見せていた。

◆中国の司法(法治)、確かに治安的な状況はとてもよくなったとは思う。しかし、「思想信条・表現」の権利や自由は、こと政治体制にかかわる「民主」に関しては、なきに等しいかと思う。中国のほとんどの庶民は、「触らぬ神に祟り(たたり)なし」の言葉のように、政治的なことには口をつぐむ。「民主?そんなことに首をつっこむ者が愚か者なのだ」という感じかと思われる。今の中国社会で生きるための賢明な選択なのかもしれない。それぐらい このことは徹底して「敏感」な問題だ。

 ブログ上ではあるが、さまざまな 中国での生活のことを発信をしている私は、中国で暮らすかぎり、まるで、「地雷発見装置をもちながらも、地雷原を歩いているような」、そんな毎日を暮らしている。正直、怖い。昨年2017年の11月のある早朝5時半、まだ外は暗闇。突然に8階にある私の部屋のドアを激しく叩き そして叫ぶ声がした。恐る恐るドアを開いた。幸いにドアを激しく叩いてきた男は、勘違いをして私の部屋に抗議に来たのだったことがわかって帰って行った。ドアを開ける前、私の頭にまず浮かんび広がる不安は、「とうとう〇〇が来たのか‥‥」ということだった。

◆以上でこのシリーズ記事を終わります。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


中国の司法(法治)、人権について思うこと❺―社会主義核心価値観「自由」「民主」「法治」とは①

2018-12-23 11:47:20 | 滞在記

 中国全土の地方・都市・市街のどこにでも掲示されている12項目からなる「中国社会主義核心価値観」。これは中国がめざす社会主義社会において「社会的状況における重要な社会通念価値12」のことである。「富強」「自由」「愛国」「民主」「平等」「文明」「法治」「和諧」「」「」「」「」。(「人権」という価値観はこの中にはない)   中国共産党成立から100年目にあたる2022年、そして中華人民共和国成立から100年目にあたる2049年、「中国の夢」というスローガンを前面に押し出し、2049年に向けて、この12の価値観を実現しようと、習近平主席・中国共産党一党支配のもと、さまざまな政策に取り組み世界での存在感を大きくしてきている中国。

 「法治」に関していえば、交通ルールーを守ること以外は(特に電動バイクの絶え間ない水の流れのように無茶苦茶な信号無視)中国国内の治安は世界の国々のなかでもかなりいい方ではないかと思う。1年ほど前から、「黒闇社会(地域暴力団組織)」撲滅に向けた中国全土での取り組みなども始まってきている。しかし、「思想・信条」の「自由」や「民主」に関しては、‥‥。

 2015年6月に中国の上海で拘束され、スパイ罪で起訴された日本人女性(日本語学校勤務—当時54才)の判決公判は、3年以上の年月が経った2018年12月7日に ようやく上海市第一中級人民法院(※日本の地方裁判所にあたる)で下された。「懲役6年、5万元(日本円で82万円)の没収」という判決内容だった。

 続く12月10日、北京第二中級人民法院において、2015年6月に拘束され、翌年にスパイ罪で起訴された北海道在住の日本人男性(元航空会社勤務73才)の判決が下された。「懲役12年、20万元(日本円で330万円)の没収」という判決内容だった。中国では2015年以降、8人の日本人がスパイ行為を疑われ拘束されているが、判決が出されたのは、今回の2人への判決で4人に判決が下されたこととなる。

 いずれの公判も、関係者以外完全非公開の中で行われ、どの行為がスパイ罪に当たるのか、起訴内容や判決内容も明らかにされていない。拘束されて行方不明となり、かなりの長期間にわたってその消息がわからなくなることや、起訴内容や判決内容も明らかにされないまま判決が下され、6年も12年もの間の実刑として刑務所に送られる。暗闇の中での、拘束・起訴・判決・刑務所という印象がとても強い。どんな行為がスパイ罪に問われたのかも公開されないので、中国で生活する私たち日本人にとって これは恐怖以外の何物でもない。これも、中国という国の政権の"恐怖心をあおる"狙いでもあるのだろうか。

 2018年5月上旬、日本や韓国の「宗教団体」(エホバ)の人たち約30人が中国の遼寧省や寧夏回族自治区で拘束された。この30人は日本人がほとんどだったが、2週間あまりの拘束を経て釈放されている。宗教団体のエホバは中国では「邪教」の一つとされている。アパート近くの福建師範大学倉山校区の正門近くには、「反邪教キャンペーン」の大型看板が掲示されていたが、その中には、邪教と指定された宗教の種類や法廷での判決の様子の写真などもあった。中国の法廷では、被告の法廷での顔写真は新聞やテレビなどで報道されている。(日本では、写真は公開できないので、似顔絵での報道となる。)

  2013年の9月に中国に赴任して、中国のテレビ報道を見ていてとても驚いたことの一つに、「刑務所の鉄格子の部屋の中で服役している囚人の顔の映像を暈し(ぼかし)なしで放映している」ことだった。そして、「私はこんな罪を犯してしまい、今はとても後悔しています」と言わせて、これを全国にテレビで報道していることだった。このような報道内容は、年間を通じて多く報道されている。

 つまり、中国の「法治」の方法としては、①拘束をして、その後に「拘束の事実」を明らかにするのは、拘束された人の人権という配慮は一切なく、政治的判断で「拘束の事実」を発表する時期を考え判断する。これは、拘束された本人のみならず、周囲の人や国民に恐怖感を与える効果があると考えている。②政治的判断によって、起訴や裁判(公判)時期を判断している。これも当局の匙加減一つだ。③そして、裁判が「公開か」「非公開か」も、政治的判断される。従って、罪状の具体的なことに関してわからない場合もある。これにより、広範な人々に恐怖心を増幅させる効果も狙っている。④服役中の人間に、顔を撮影し、「罪人としての反省」を晒しものにして、国民に「罪を犯す事」の恐ろしさ効果を図る。まさに「当局の匙加減一つ」であり、これは、当局の中心である「中国共産党」に対する、畏怖心を抱かせる効果ととらえているのではないだろうか。

 ちなみに、中国は日本のような「三権分立(司法・行政・立法)」は、憲法上もなっていない。「司法」も「行政」も「立法」も、三権は「中国共産党」の政治を助ける(補完する)ものと位置付けられている。「司法(法治)」の独立ではなく、中国共産党の補完機関という位置づけだ。だから、中国の「司法(法治)」の実態は憲法違反とはなっていない。これが 長年の一党支配社会「民主集中制」の実態でもある。

 「日産・ルノー」のトップであるカルロス・ゴーンが拘束され、現在 東京拘置所において取り調べが行われている。日本の司法に対する批判も起きている。日本の検察の拘留の実態に関する批判で、それはそれで、批判されるべき面もあると思う。だが、拘束も拘留の事実や容疑内容は ほぼ詳しく社会的に公開されている。被疑者の人権の保障もある。中国の司法(法治)の実態と大きく違うところである。

 中国に暮らしていて、「いつわが身に降りかかってくるか」という怖さがある中国社会でもある。

 

 

 


中国の司法(法治)、人権について思うこと❹—「709事件」300人余拘束(中国"法治"社会の現実)

2018-12-22 06:53:33 | 滞在記

 2015年7月9日を中心に、中国国内のさまざまな国民階層、とりわけ弱い立場にある人たちの弁護活動をしていた人権派弁護士といわれる人たち約300人余りが一斉に拘束される事件がおき、世界に衝撃を広げた。この300人の中には、政治の民主化を求める発言が「転覆国家政権罪(国家転覆罪)」という名目で罪を問われた人もかなりあった。拘束は長期にわたり、「食事を与えられず、動くことを許されず、殴られる」という拘置中の状況も伝えられた。2018年4月上旬、日本の報道番組で、「まだ拘束中で生死状況さえわからない夫」の釈放を求めて、北京から天津まで歩きながら妻たちの姿が報じられた。

 2018年8月上旬、日本のNHK報道局の「NHKスペシャル」で、「消えた弁護士—709事件—中国"法治"社会の現実」が報道された。いまだ拘束中の弁護士とその家族、釈放されたが弁護士資格をさまざまな方法で取り消される人の現状などを伝えていた。いまだ拘束中の弁護士の一人が「王全璋」(42才)さん。彼は、法輪功信者(中国では邪教として厳しく取り締まられ、多くの逮捕者を出している)の弁護活動をしたりもしていたようだ。国家主席は複数の候補者から選出されるべきだという発言もしたようで、この発言が「国家政権転覆罪」にあたる重罪として今も拘束中かと思う。王さんの妻は、「夫が生きているかどうかすら、分からないんです」と、安否を憂いながら、日々を過ごしている。面会を求めて裁判所などに抗議活動なとも繰り返してきているが、中国式法治の壁はぶ厚い。

 2015年に拘束された300余人のうち、長期間の拘束を経て釈放に至った人も多い。釈放に至る前に、本人への報道関係者を集めての記者会見が行われる。当局は、事前に記者からの質問内容を準備しており(当局が決めた質問内容)、拘束されていた女性弁護士の一人は、「記者からの質問は20問ほどありましたが、その答えも全て当局から暗記させられました。」と告白していた。「私が悪うございました。反省をしています。」と言わされるこれらの会見は国内外に発信され、国民の目にさらされる。そして、中国式法治の正当性を国民に印象付ける。こうして釈放された弁護士たちは、さまざまな方法でじわりじわりと「弁護士資格の取り消し」に追い込まれ、廃業せざるを得ないでいることも、NHKスペシャルでは報道されていた。

 王さんの妻が住むアパートの部屋には、公安部の警察や国内安全保衛部門(国保)の男たちが時折訪れる。そして、釈放に向けた活動を止めるように圧力を日々かける。「黙れ、あばずれ!まともな言葉も喋れないのか!」などの罵詈雑言を大きな声で叫び威嚇する。

 王さんの妻を支援する数名の女性たちが、王さんを励ますために彼女が住むアパート前に来ると、同じアパートに住む人たちや近隣の住民たち(その多くは女性)や公安・国保関係者が、「売国奴、売国奴のくそばばあ!」との言葉を投げつける。支援者や王さんの妻を嘲笑する近所の女たちの姿。(この人たちは、当局から組織されているのだろうと思う)    部屋のドアの前にもおそらく公安・国保関係者が詰めているのだろう、外に出ることができない状況におかれた王さんの妻は、自室の窓を開けて、ベランダ越しに支援者たちに叫ぶ様子が‥‥。

 この拘束状況に関して、香港や海外メディアが、「王弁護士は1000日以上拘束、何の情報もないが」と 公式会見の場で中国法治関係者に問いかけるが、答えは返ってこない。

 2018年8月上旬に放映された「NHKスペシャル―消えた弁護士」の内容は、以上のようなものだった。

 「冬至」を翌々日に控えた2018年12月20日、日本の報道番組を見ていたら、王さんの妻たちの近況が報道されていた。「女性4人が頭を丸める 夫は拘束中」「髪を切る妻」「中国で妻が頭剃り上げ抗議」「最高人民法廷に抗議も」のテレップが流れていた。

 中国"法治"社会の現実の一面は、中国に暮らす私にとっても「他山の石」ではない。このブログ記事を書くのにも、今年の8月以降「書くべきかどうか」悩みながらも‥‥。中国式「法治」の現実に、やはり私にも恐怖心が起きるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


中国の司法(法治)、人権について思うこと❸—范冰冰の長期拘束問題③、孟宏偉氏の拘束

2018-12-19 15:08:01 | 滞在記

 10月5日に、范冰冰(ファン・ビンビン)さんに関する取り調べ容疑内容とその判決に関する報道が解禁されて、このことに関する中国国内外での報道が数多く行われた。日本でのテレビ報道を閲覧すると、「—相次ぐ"謎の失跡"今、中国で何が—」というテーマで、報道特集されているものもあった。

 10月6日ころ、ヨーロッパにその本部がある「国際刑事警察機構(ICPO)」の前総裁:孟宏偉氏(中国公安省次官)が、中国に出張で行った際に中国国内で拘束されたことや范さんのことに関する内容だった。「世界の警察トップの拘束がなぜ?‥‥。」ヨーロッパに住む猛氏の家族は、10日間前からまったく連絡がとれなくなっていたことで、国際的な捜索を世間に公にもしていたようだった。この拘束に対してICPO側は、中国政府に対して「抗議声明」を出した。孟氏の容疑は収賄などの容疑なのだろうか?容疑内容は明らかにしていなかった。

 この報道番組の日本のテレビ局は、猛氏拘束などに関する街頭インタビュー(中国)を行っていた。街頭インタビューに応じた中国国民の人たちは、「反腐敗はとてもいいよ。私たちと関りのないことだけど。」「拘束は突然じゃないよ。国はとっくに証拠を把握していたし、いいタイミングだ。」と、拘束を支持する人の声。「この話は言いづらいね。こんな偉い人のことについて我々は口をだせない。」「拘束の事実について、早く人々に知らせるようにしてほしいです。隠してはいけません。」と微妙な思いを言葉にする声も。

 猛氏は、2012年まで中国共産党最高幹部メンバー(チャイナ・ナイン9)の一人だった周永康氏(江沢民・元国家主席とのつながりが深い)が重用し、中国の公安関係のNO2まで登りつめ、中国政府の後押しで世界警察のトップにもなった人物だ。習近平氏の政敵の一人とされ、「ハエも虎も叩く」という習近平氏の最大の標的の「虎」となった人が周氏だった。一連の王岐山氏と共同した「反腐敗闘争」で、収賄などの罪で2014年に拘束逮捕され、2015年には「無期懲役」の判決が出され、現在は北京郊外の政治犯が多く収容される刑務所に収監されている。これにより、習近平氏は江沢民氏に対して、大きなダメージを与えることができたとされる。(※中国共産党内部では、チャイナ9になった人は、退任後は、嫌疑があっても罪に問わないという不文律がそれまではあった。)

 2012年当時は、黒々と染めていた頭髪も、2015年の裁判所での姿は白髪となっていた。中国では、白髪というのは政治家として「終わった」というイメージのようだ。周氏の裁判の様子は全国のテレビ局報道で放映された。みんなの前で恥をさらさせるということで、江沢民氏や周永康氏に連なる影響力を徹底排除というのが狙いの報道だった。今回の孟氏の拘束もその一連の最後の仕上げ的な政治的要素が濃厚な拘束・逮捕のようだった。

 上記の日本のテレビ報道では、さらに「謎の失跡—中国当局の狙いは」「脱税146億円の追徴金—ファン・ビンビンさん」「1つは脅し—連絡をつかせないことで、本人や家族に、より恐怖感を与える効果を狙う」「ファン・ビンビンさんはどうしたのだろうということについて、国民に小出しに情報を出していき、"謎の失跡"という 国民への威嚇効果を狙う」「ちゃんと彼女も反省し、謝罪、そして追徴金を払ったのだから、他の芸能人も払いなさいよと威嚇し、国民的にも周知させる効果」「情報を完全コントロール➡恐怖・体制強化を図る」となどと報道がなされていた。

 それにしても、何カ月間もというか、4カ月間も、「拘束の事実」を国民に一切知らせない、家族にも知らせないという情報統制。それによる恐怖感、恐ろしさを国民にも醸成させ、本人にも、国民にも醸成・体感させる操作政治の凄さというか、巧妙さというか。それは、私が中国に赴任し、2年間ほどが経った2015年頃より、日々 強く感じるようになったことでもあった。

 ちなみに、世間に晒しものにされた范冰冰さんだが、12月に入り一応の復活はしてきている。先日行われた、「第18回上海国際映画祭」の開幕式に出演したり、婚約者と談笑する写真などが中国のインターネットに掲載されたりもしている。この范さんは、江沢民氏に連なる勢力などとのつながりも深いとされ、そのコネや人脈により2007年頃より、中国のスターダムに急速に上り詰めて来た人物でもあるとの報道もあった。

 今回、4カ月にわたる拘束・取り調べ、そして「追徴金146億円の支払い」「国民に向けての謝罪」という形にし、禁固実刑判決を伴う裁判起訴は行われなかった。さまざまな政治的な思惑のもとで、中国政府は「このような形での決着」を判断したのだろう。この事件によって、范さんが年間に50億円も稼ぐ「銭ゲバ」との印象を国民にもたれ、かつ脱税までしていたということを認めさせられ謝罪をした。(裁判が行われていないのでその脱税の真偽はわからない) これにより、今までの彼女のイメージは大きく損なわれはしただろうと思われる。国民的に最も人気のある女優は、すでにほかの女優に移りつつある。

(続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

 


中国の司法(法治)、人権について思うこと❷—范冰冰(ファン・ビンビン)長期行方不明、拘束問題②

2018-12-19 09:37:00 | 滞在記

 今年の9月14日頃の日本の報道番組を紹介するインターネット記事を中国で(報道ニュースの動画)見て、范冰冰(ファン・ビンビン)に関する事件を初めて知った。この動画記事のテレップには、「当局が拘束の可能性も―人気女優ファン・ビンビンさん37才が消息不明」「今年5月にファンさんの脱税を指摘するインターネット書き込みが」「税務局に身柄拘束され、調査を受けている可能性がある」「ファンさんのウェイボー、今年6月2日を最後に更新されず」「日本でもコマーシャルに起用されるなど国内外で有名」「9月14日、中国外交部の記者会見の席上、記者が"ファン・ビンビンさんが消息不明になっています。彼女はどこにいますか?"との質問に、報道官は、"そんなこと、外交の問題と何の関係があるのか!"と一言で軽蔑した口調で一蹴。」

 続いて、9月20日頃、日本のテレビ報道番組のニュースの一つとして、范冰冰の消息に関することが伝えられていた。テレビ画面のテレップには、「年収49億円 トップ女優"軟禁"?」「約4カ月間行方不明」「失跡と同じころ、中国で異変が‥‥。俳優・女優などの芸能人への税制というか、税務の管理がすごく厳しくなっている感じがします。中国の芸能人への課税率が、8月1日より"6.7%から42%へと6倍以上に引き上げられた」

 「范冰冰の脱税疑惑を告発した中国国営テレビ元キャスター 崔永元」    (街頭インタビュー)「Q:"ファンさんの失跡の報道について知っていますか? A1:"知っています。ネットで知りました。"   A2:"テレビや新聞や雑誌でも見たことがありません。"」 范さんの弟(18才)がコンサートの中で、「本当に君たちや自分の家族を守れる力が欲しい!とファンに語りかけた。」 范の弟は、姉が長期拘束されて行方不明になっている状況を、彼のファンの前で、間接的な表現「家族を守れる力が欲しい!」を使って伝えていたのだった。

◆これらの范冰冰の消息報道に関しては、中国のインターネット情報の検索を熱心にする一部の中国人には知られていたようだった。だが、一般人にはほとんど知られることはなく、テレビでも新聞でも一切報道されることもなく、報道統制が完全になされてもいたようだった。これが中国での9月下旬までのことだったが‥‥。

 10月3日・4日・5日に私が中国の南京に行っていた最終日の5日、南京市街のバス停近くの「新聞掲示板」に、「范冰冰 道歉了(范ビンビンが 謝罪した)」という見出しの記事が、「南京日報」や「金陵晩報」などの新聞の一面に報道されていた。これは、中国での范ビンビン失跡に関する6月以降に初めて見る范ビンビンの消息に関する国内報道だった。その内容は、「脱税に関しての謝罪の言葉、そして罰金として150億円ちかいお金を支払います」という内容だった。その翌日からは、中国のテレビやインターネット記事でも、このことが多く、全国的に報道されてきた。

◆中国の芸能界では、長年「二重帳簿—何かの番組や映画などの出演料金を、実際に支払われていた額と過少に記載された二重帳簿を作成し、税金申告することが、誰でも行う一般的なこと」として行われていたようだ。では、なぜ、范ビンビンが,狙われて長期間の秘密裏拘束され、取り調べを受け、10月5日での国内報道となったのだろうか。そのことを推測する日本のテレビやインターネット記事も、10月5日以降、多くみられるようになった。

◆次号に続く