彦四郎の中国生活

中国滞在記

光る君へ―紫式部が生涯でただ一度、都を離れて暮らしたまち「越前たけふ」

2024-02-16 08:15:47 | 滞在記

 中国に行く前に故郷の福井県南越前町で暮らす母と会い、故郷の友人たちと一杯飲みをしておきたかったので、2月11日(日)に福井県に向かった。この日の早朝に妻がパンを作り、「南越前町のお母さんに」と渡してくれた。途中、滋賀県高島市の道の駅で母に二つのお弁当を買った。

 午後2時頃に南越前町河野地区の糠漁港に到着。付近の山々の斜面には越前水仙。寺のうしろの山にある墓に行き、「また2月25日から中国に行ってきます」と亡き祖父母や父母にしばし別れのあいさつをした。(私の実母は、私が6歳の時に33歳の若さで亡くなっている。)

 妻が作ったパンを、母は心待ちにしていたようだった。弁当も渡し、午後3時すぎ頃に家を出て、車で30分ほどの越前市(武生市[[たけふし])に向かった。この日の夜には友人たちと居酒屋で酒を飲むことになっているので、JR武生駅前のビジネスホテルに宿を予約していた。

 越前たけふの大虫地区に入ると、越前富士とも呼ばれる「日野山(ひのさん)」(標高795m)が見えてきた。この大虫地区のちょっと高い場所からは、越前武生市街や町を取り囲む山々、そして、福井県と岐阜県、滋賀県との県境にある標高1200m~1600mの高い山々(三国岳・武周ケ岳・冠山・能郷白山・屏風山・平家岳など)がよく見える。また、山々の北方の奥には石川県と岐阜県の県境にある白山(2702m)も望むことができる。この季節、標高の高い県境の山々は神々しいほどに真白い雪に包まれる。(※高校の3年間、この越前武生市内に下宿していた。下宿の2階の部屋からは、冬にはこの光景がよく見えた。)

 JR武生駅には「2024年3月19日 越前たけふ駅―北陸新幹線開業 あと36日」の看板が見える。(北陸新幹線 金沢―敦賀間の延伸)  「"かこさとし" "いわさきちひろ"のふるさと越前市」の看板も。友人たちと会うまでに1時間ほどの時間があったので、私の母校(武生工業高校)や下宿だったところの近くにある「紫式部公園」に久しぶりに行ってみることにした。

 2024年度NHK大河ドラマ「光る君へ」の主人公・紫式部が若い時に、父の赴任[越前国守](996年)に伴って1年間余り暮らしたのが、当時、「越前国府」があったここ越前たけふ市。「京都―越前」の旅を経て、式部の生涯でただ一度だけの都を離れての地方暮らしの地だった。

 越前たけふ市の「紫式部公園」は1985年頃に作られているので、もうすでに40年余りを経ている。(出入り自由)  公園東門口に「寝殿造りと釣殿―国府の公館は寝殿造り」との説明板。霊峰・日野山や武生盆地を囲む山々を借景に池や築山を配し、平安時代の庭園を再現した全国で唯一の寝殿造り庭園がここでは観られると記されている。公園内には、『源氏物語54帖』にでてくる四季の花々などの植物を見ることもでき、黄金色の紫式部像もある。

 雪を頂いて白くなっている日野山がここからはよく見える。この季節、紅梅・白梅が開花し、高貴で少し甘いような香りを漂わせていた。『源氏物語』に登場する花で最も多く登場するのが、桜、藤、梅。物語の「宇治十帖」には、薫の纏う香りが梅によそえられたり、対抗する匂宮が梅を愛して、その香りを身に漂わせていたことなどが書かれてもいる。(※中国の福建師範大学の教員になった2015年に、「日本古典文法」の授業も担当することになり、この『源氏物語』も夏休み中に通読せざるをえなくなることもあった。)

 公園内には、紫式部がここ越前などで詠んだ和歌の歌碑もいくつかある。「ここにかく 日野の杉むら 埋(うず)む雪 小塩の松に けふやまがへる」(初雪が降り目近に日野山の杉むらを埋むほどに雪が降り積もった。京の都の小塩山の松にも今日は雪が散り乱れて降っているだろうか。) 越前の地で迎えた初めての冬、降り積もる雪の多さに驚きながら、都への思いを詠んだ歌だ。都と地方の違いを松と杉・雪の描写で対比させて詠んだ一首。

 「春なれど 白嶺のみゆき いや積もり 解くべきほどの いつとなきかな」(春になりましたが、こちらの白山の雪はいよいよ降り積もって、おっしゃるように解けることなんていつのことかわかりません[私の心もいつ解けるかわかりません]。) のちに式部の夫となる藤原宣孝が、「春には敦賀にいる宋人を見に越前に行き、あなたに会いたい」とよこした手紙に答えて詠んだ歌と言われている和歌だが、越前の式部のもとに伝わる宣孝の浮気のうわさに気をもんでいる式部の心のうちがよくわかる一首だ。

 ここ越前で詠んだ歌ではないが次の一首もある。「身のうさは 心のうちに したひきて いま九重に 思ひみだるる」(宮仕いに出ても、わが身の憂さはいつまでも心の中についてきて、今、宮中であれこれと心が幾重にも乱れることだ。)

 「紫式部公園」の西となりには、「紫ゆかりの館」[紫式部と国府資料館]がある。2021年にリニューアルされた「紫式部と越前」に関する資料館(ミニ博物館)は入場無料。売店もある。]紫式部が越前国府で過ごした青春の日々を描く絵物語風の大型映像などもある。

 館内の御簾(みす)の向こうにたたずむ長い黒髪の平安女性、当時の庶民と平安貴族の食事の比較、「光る君へ」で紫式部を演じる吉高由里子さんの、「越前たけふ」に対する思いへのインタビュー記事。

 「京から越前国府へ」、当時の紫式部の父や式部が京の都から越前国府までの旅を再現した(1996年)写真や資料の展示は見ごたえがあり初めて知ることも多い。(996年の紫式部越前下向から1000年を記念して、旅を再現した。)

 今年2024年10月には、「紫式部プロジェクト推進協議会」(代表:越前市市長)は、全国からこの越前下向行列の参加者を募り、京都市から越前たけふ市までの移動距離約150kmのうち、複数の区間で平安貴族の行列を再現し、宿泊も経ながら越前市を目指すイベントを予定している。

 2024年1月7日から始まったNHK大河ドラマ「光る君へ」(大石静脚本)、1月8日に日本に帰ってから毎回欠かさずに視聴している。これまでの大河ドラマ空白の「平安時代中期」の物語だが、まあ、脚本がなかなか優れている感はある。2月25日に中国に戻ると日本のテレビが視聴できなくなるのがとても残念だ。

 昨日、録画していた「浅見光彦シリーズ 第27弾―(越前)竹人形殺人事件」を視聴すると、ここ「紫式部公園」での場面もあった。

 

 

 

 


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