彦四郎の中国生活

中国滞在記

中国、隠蔽された3週間が世界の人々の運命を変えた—日本のフジテレビが3月20日に放映した番組より

2021-05-06 05:50:41 | 滞在記

 日本のフジテレビでは、今年2021年3月20日に『土曜プレミアム 報道スクープSP  激動!世紀の大事件8』 を放送(午後9時)。この番組で、新型コロナウイルス発生当初、中国・武漢で行われていた隠蔽(いんぺい)の真相が事実に基づいた手記やインタビューをもとにした再現ドラマで伝えられた。新型コロナウイルスが世界で最初に確認されたとされる中国・武漢の「武漢市中央病院」で、この未知のウイルスの存在にいち早く気づき、誰よりも早く警鐘を鳴らした女性医師がいた。この病院の救急病棟で、主任を務める艾芬(アイ・フェン)医師だ。艾医師は、2019年12月に院内の患者から「SARSの一種(後に新型コロナウイルスと判明)」が確認されると、その危険性を病院の同僚医師らに伝えた。

 しかし、この警鐘を、病院の監察課幹部(中国共産党の方針を守っているか監視する部門)から艾医師らは12月31日に強い叱責を受け身分を保証しないとも告げられ隠蔽を指示。病院内の医師・看護師・スタッフなどにも、「家族にもSARSの事など言わないように。伝えるにしても例えばSARSなどの敏感な言葉は使わず、インフルエンザが流行っている。そう伝えなさいと指導を受けたんです」と、今回のフジテレビの番組では、新たにこの病院の看護師である張看護師(仮名)の証言を伝えている。

 そうして病院が情報を隠蔽している間に感染拡大が武漢市内で急激に広がり、医療崩壊が起こってきている。1月16日、武漢市中央病院の幹部会議に出席した艾医師は、病院内での感染対策を進めるべきだと強く訴えるも、再び病院の監察課や上層部から次のような叱責を受けている。「あなたたちはきちんとした医療常識が必要である。ベテランの医師はこのようなパニックを起こしてはいけない。ヒトヒト感染などなく、この肺炎は防げるし、治せるし、コントロールもできているのだから」と。驚くことにこの1月16日時点でも病院上層部たちはヒトヒト感染を認めていなかった。医療崩壊が完全に起きている武漢市の感染の急拡大の状況があるにも関わらずである。

 この年、1月25日から予定されていた「春節」。ほぼ10日ほど前から、人々は故郷に帰省を始めたり、中国全土では春節の到来を待ちかねて大きな宴会が開かれ始めたりする。武漢市でも4万人規模の料理持ち寄り大宴会が1月中旬に行われていて、あっと言う間に感染が爆発的に広まった。中国政府がこのような武漢の状況に、鍾南山氏らを派遣して、緊急調査、中国政府は1月20日にようやくヒトヒト感染を認めた。しかし、そして武漢は1月23日に都市封鎖をされたが、春節を目前にして武漢市民1100万人のうち、500万人がすでに帰省や旅行のために国内外に移動していたあとだった。新型コロナウイルスは国内外に瞬く間に感染を広げていき世界はパンデミックとなっていった。

 1月16日の数日後、前出の張看護師らが見たのは光景はとんでもない光景だった。「救急科の前に、数百メートルの列ができていたんです。心が折れそうになりました。患者が多すぎるのです」。その後、中国全土のみならず、世界に拡大しパンデミックとなった新型コロナウイルス。番組で張看護師は後悔の思いをこう語っていた。「あの頃、うちの病院で口封じなどせず、きちんと外に情報を提供して、みんなで防護意識を高めていればこんなことにはならなかったと私は思います。」(張医師[仮名]へのフジテレビの独自インタビューによるもの)

  艾医師は、中国国内での感染拡大が峠を越した3月、中国の雑誌『人物』にこの感染拡大に至る過程の手記を発表したが、中国政府はこの雑誌を回収、さらにネットに掲載された手記に関する記事も瞬く間に削除されてしまった。しかし、その内容を世界に伝えようとした中国の人々が、さまざまな言語やモールス信号、点字などに変換して発信。番組はこの手記には何が書かれていたのか、艾医師と同じ病院で患者と向き合ってきた看護師が初めて取材に応じ、新型コロナウイルス感染が確認されるまでの経過、監察課の幹部らによる隠蔽がどのように行われていたのかについての生々しい証言などをもとに、ドラマで再現し、知られざる真相に迫っていた。

※2021年1月7日付の私のブログに、この艾医師関連の記事「医師・艾芬『一人の医師として当然のこと―COVID19隠蔽文書掲載 月刊誌『正論』の世界的スクープ」にも詳しく掲載しているので、機会あれば一読ください。

 新型コロナ感染が発見されて1年と6カ月余りが経過した昨日2021年5月5日、世界の感染者数は約1億5500万人に上った。世界人口70億人のの47人に1人が感染した割合となる。死者は約323万人にのぼる。変異種や二重変異種の登場によって、この世界的パンデミックはいつまで続くかわからない。この中国・武漢における隠蔽工作がなければ、この世界的な惨事はおそらく防げたであろう。このことは、まぎれもない事実なのだが、中国政府はこのことを認めようとはしていない。「輸入された食品からのウイルス拡散の可能性もあり、中国も被害者だ」という立場を強硬に堅持し続けているし、この武漢における隠蔽の事実について世界に向けた謝罪も一言もない。

 そして、2022年2月の北京冬季オリンピックで、「世界に先駆けてコロナに打ち勝った」ことを大々的に国内外にアピールする予定だ。今年の東京五輪が中止、もしくは再延期となれば、とりわけ「人類として初めてコロナに打ち勝った国・中国での人類史で誇るべき初のオリンピック大会」としてのアピールをしてくるだろう‥。

 ブリンケン米国務長官は2021年4月11日、米国NBC放送のインタビューで、「中国が新型コロナウイルスへの初期対応に失敗し、事態を拡大させた」とし、「中国責任論」を主張した。「新型コロナの初期段階でやるべきことをしなかったことを中国は知っているはずだ」とし、「中国はリアルタイムで国際専門家の(情報)アクセスを認め、情報を共有して真の透明性を提供すべきだった」と述べ、さらに「それに失敗した結果、ウイルスは急速に統制を潜り抜け、そうでなかった時よりもはるかに深刻な結果を招いたと思う」と述べた。

 少なくとも、2019年12月31日から2020年1月20日までの3週間の隠蔽、これが世界の人々の運命を大きく変えてしまったのは事実だ。失われたこの3週間はあまりにも深刻、かつ、許されざるべき隠蔽であったことの真相を、このフジテレビの番組は伝えていた。中国では中国共産党政権となって72年が経過しようとしているが、「中国共産党の政策に誤謬があってはならないし、また、誤謬はない」というのが、この70年間の一貫したテーゼ(綱領)である。

 一党支配又は個人支配の全体主義国家の場合、緊急事態下での対応力の早さには優れている。しかし、間違いを認めない政治政権ほどやっかいなものはない。このコロナ対策で欧米や日本などの民主主義国家は、対策上の間違いや迷走をいくつもしているが、その間違いを認めて、修正していくという点では、全体主義の国家よりも長い目で、または全体的な目で見ると優れている政治制度だ。

 2021年1月4日付の私のブログ記事「『武漢日記』出版への批判の嵐―中国"強まる愛国"―『一つの声しかない社会は健全な社会ではない』も、機会があればせび一読ください。(※『武漢日記』の著者名の方方はペンネーム。本名は汪芳[ワン・ファン]。)

 


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