彦四郎の中国生活

中国滞在記

中国のオリンピック選手育成システム—世界チャンピオンの揺りかごともよばれる体育学校

2021-08-11 11:13:02 | 滞在記

 中国の中学校や高校にはクラブ活動はほぼ存在しない。大学進学率が50%近くになった中国だが、小学校から高校3年生の卒業までの12年間は、毎年6月上旬に行われる年に1回きりの「高考(ガオカオ)—大学統一試験」でいかに高い点数をとるかということに向けての学校生活の期間となると云っても過言ではない。

 では、1980年よりオリンピックに参加を始めた中国におけるスポーツ選手育成システムとはどんなものなのか。中国には国家と市や省が運営する体育学校というものがある。この学校がオリンピック代表選手をはじめとしたスポーツ選手を育成している基幹の組織だ。体育学校には小学校の低学年から20歳くらいまでの生徒が在学するが、最も年齢的に多い入学年齢は10歳前後だ。1990年にはこの体育学校が全国で3700余あったが、現在では2200余となっている。

 中国には2800余の大学があるが、北京大学や清華大学などを筆頭に大学のレベル順位が歴然とある。それと同じようにこの体育学校も順位がある。各地の体育学校で優秀な者は、さらにレベルの高い体育学校に移籍していく。そんな体育学校の中でもトップクラスの国家重点体育学校がいくつかある。その中の一つが北京にある「什刹海(ションチャーハイ)体育運動学校」だ。

 2018年の3月、郭沫若記念館に行った時にこの学校を見た。天安門広場などのある北京の故宮の北西には什刹海(※「たくさんの湖がいりくんでいる」という意味)というエリアがある。かっての清王朝時代、皇族や高級官僚たちが暮らした屋敷がたくさんあり、現代中国でもこのエリアの中南海などには中国共産党の幹部たちが暮らす。ここのエリアにこの体育学校はあった。(※郭沫若記念館の前にある。)  学校の創立は1958年でこれまでに3000人以上の優秀な成績をおさめたスポーツ選手がこの学校に在籍をした。

 この学校の建物の中心は、地上4階地下2階建ての体育館。例えば地下2階にある体育館は卓球台30数台が並べられている卓球専用の階だ。この地下2階から中国の卓球オリンピック代表選手が多く育ってきている。体育館の屋上には、「少年強 中国強 体育強 中国強」の文字看板が掲げられていた。

 世界選手権やオリンピックなどで活躍した(している)先輩たちの名前や競技名、受賞歴などの一覧表などの看板も校門前に掲示されていた。例えば、この東京オリンピックでも活躍した中国男子卓球界のエースである馬龍(マー・ロン)や中国女子卓球界で2〜3年前まではエースだった丁寧(ディン・ニング)などの名前。馬龍などは小学校4年から遼寧省の体育学校に入学後、その省での成績が特に優秀ということで、中学生になってからこの北京の体育学校に転籍している。

 現在、この学校には800人あまりが在籍していて、午前中は、小学・中学・高校とそれぞれの年齢に応じた学業(授業)、午後からは各種スポーツの訓練に励む。全国各地にある体育学校では、地域の学校に午前中だけ授業に通い、午後以降は体育学校でスポーツの訓練を行うところが多い。世界チャンピオンの揺りかごとも呼ばれるのがこれらの体育学校だ。什刹海体育運動学校は特に、バトミントン、体操、卓球、バレーボール、ボクシング、テコンドーなどの武術などの種目での優秀な選手を輩出しているトップレベルの体育学校だが、種目によりトップレベルの体育学校は異なるようだ。

■中国の小学校・中学校・高校におけるスポーツ

 日本のような中学や高校のクラブ活動は中国の学校ではほぼないが、近隣の学校対抗などのスポーツ大会が開催される場合は、学校代表チームが作られ1カ月間ほどの練習をして試合に臨むこともある。運動会は中学や高校では毎年1回行われるが、ほとんどは徒競走やリレーや、走り幅跳びなど日本のスポーツテストに似た競技が簡素に行われるだけのもの。学校の体育の時間は、日本では1週間に2回あるが中国では1回。

 時間割の多くはほとんど大学入試に関係のある教科(国語・英語・数学・理科・社会)に振り分けられる。中学や高校には、バスケットコートはやたらと多い。休み時間や放課後によくバスケットボールが行われている。日本では「文武両道」が推奨されるが、中国の現代教育は「文」一筋、そして日本のような「知徳体」教育ではなく「知」がとことん重視の教育だ。ちなみに、中国の小・中・高にはほとんどプールはないこともあり、中国人で10m以上泳げる人は10人に1人くらいかと思う。

 中国の地方都市や町に行くとコンクリートで作られた固定式の卓球台をよく目にする。ネットもブロックを積んだだけのものもある。私が暮らす福建省の省都・福州市にある福建師範大学の体育館に時々行くと、卓球エリアで親子がよく卓球をしている光景に出会う。それは親子が卓球を楽しむという光景ではなく、卓球のスパルタ訓練という光景だ。(父親と小学校低学年から中学年の子供が多い)

 バレーボールは、中国代表のナショナルチームだけでなく、各省のチーム、大学チーム、各市チームなどが中国にはある。その省の体育学校の生徒なども含めた省の代表チームだ。中国でのそんないろいろなチームが全国大会を行う。毎年、福建師範大学体育館では、全国大会に向けての予選リーグが行われているので、よく観戦している。中国の代表ナショナルチームは、これらの大会での優秀な選手の選抜チームだ。

 ちなみに、福建省にはバレーボールの故郷と呼ばれる市がある。福建省漳州市だ。この町からはこれまでに有名なバレーボール選手が出ている伝統があるようで、私の福建師範大学教員時代の教え子の中にもこの町出身の長身の女子学生がいた。彼女は小学高学年からの一時期、地元の体育学校に在籍していて、将来はバレーボール選手を目指したが、途中で体育学校をやめている。

 2013年9月に中国に初めて赴任した頃には、中国国内で市民がサッカーをしている(楽しんでいる)というような光景はほとんど見ることはなかった。しかし、2015年ころからぽつぽつとサッカーをしている光景をたまに見かけることがでてきた。でも、その光景をみていると本当に下手だった。しかし、年々サッカー愛好者が増えてきていて、そのサッカー光景も上手になってきている感がある。さらに、2018年頃からは小学生を対象としたサッカー教室などの光景も出始めている。

 習近平国家主席がサッカーファンということもあってか、中国ではサッカーワールドカップの招致を目指してもいる。来年2022年は中東のカタールで開催され、2026年はカナダ・アメリカ・メキシコの3か国共同開催までは決まっている。中国が2030年の開催に名乗りをあげる可能性は高い。サッカーという競技は、サッカー愛好家の裾野が大きい国が強い。この点では中国はまだまだだが、2018年には、全国の小中高2万校をサッカー推進重点校に指定してこのサッカーの普及を図っている。また、2050年までにサッカーワールドカップでの優勝を目指している。

 中国女子サッカー代表チームはかなり実力をつけてきていて、この2020+1東京五輪にも出場している。(※アジアでは、開催国日本の他にオーストラリアと中国。中国は韓国との激戦ほ制してオリンピックに出場した。)  中国の男子代表チームは、南米などの海外選手の中国への帰化(国籍取得)を複数人も進め、来年のカタール大会でのワールドカップ初出場を目指して、9月からのアジア最終予選に臨む。日本とも対戦することになるが、侮れない実力をつけ始めている。

 中国でのこの8年間、街角での二人でのキャッチボールを含め、野球やソフトボールをしている光景というものを見たことはなかったが、一度だけソフトボールをしている光景を見たことがあった。それは2018年の9月、私が勤務する閩江大学の芝生広場でなんとソフトボールを男女混合チームでしていた光景だった。ちゃんとユニフォームまでそろえていた。そのようすを見学していたがとてもとても下手だったが‥。まあ、楽しんでいるという感じだった。

■中国で競技人口や愛好家が最も多いのはバトミントンだ。愛好家の数は2億人あまりとされている。卓球と並び中国の国技とも言われている。

■中国での大学進学熱(高考でより高い点数をとり、よりレベルの高い大学に進学する)の風潮を受けて、中国の体育学校への入学者も大きな影響を受けてきているようだ。かっては、体育学校に入学することは親にとっても子供にとっても大変名誉なことだったが、親や子供たちの意識の変化も起きてきているようだ。

 

 

 

 

 


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