彦四郎の中国生活

中国滞在記

台湾統一問題を巡って―北京五輪後から2年間以内に起きる可能性の高いこと

2022-01-26 18:30:57 | 滞在記

 先週1月22日(土)のABC(朝日放送)の報道番組「正義のミカタ」では、特集報道としてロシアのウクライナ侵攻危機とともに「北京冬季オリンピック後と台湾侵攻(統一)」の問題についても連動して報道されていた。この特集のコメンテーターはスポーツジャーナリストの玉木正之氏と中国問題研究ジャーナリストの近藤大介氏の二人。

 この特集ではまず玉木氏の方から「1936年ドイツ・ベルリン夏五輪と2022年北京冬季五輪の"ヤバイ"共通点」と題して、説明がされていた。

 それによると、<開催前>①[ベルリン]第一次世界大戦敗戦と世界恐慌の中、経済危機のドイツをナチス・ヒトラー政権が再起させた。[北京]中国共産党習近平政権のもと、中国を米国に迫るGDP2位の経済・軍事大国化に導いた。②[ベルリン]ユダヤ人差別が問題に。アメリカなどでボイコットの機運が高まる。[北京]ウイグル民族に対するジェノサイド疑惑が問題に。欧米などが外交ボイコット。③アメリカ・オリンピック委員会のブランデージ会長(のちのIOC会長)が、ベルリンを訪問。その後、彼は「ユダヤ人差別は存在しないと」報告。[北京]IOCバッハ会長が軟禁状態にあると噂になっている女子テニスの彭帥選手とテレビ電話。その後、彼は「彼女が置かれている状況には何の問題もない」と報告。

 <開催後及び開催後予測>①[ベルリン]ドイツが金メダル数初の1位。熱狂したドイツ国民はヒトラーを猛烈支持。[北京]中国メダルラッシュ?!。中国国民が習近平氏を猛烈支持?!。、②[ベルリン]1939年ポーランド侵攻~第二次世界大戦へ。ユダヤ人大量虐殺。[北京]2022年台湾侵攻?!ウイグル人などに対するジェノサイド加速?!

  ■玉木氏「最悪のシナリオとならぬように、我々は歴史から学ぶべき」とのコメントで結ぶ。

 近藤氏は「北京冬季オリンピック終了が台湾統一へ踏み出す合図」と題して、「台湾侵攻を想定した最近のさまざまな軍事訓練の実例」を紹介しながら、「今年は2月のオリンピック開催と5年に1度の中国共産党大会が10月に行われる年であり、中国側が台湾統一(侵攻の可能性も)を見据えた動きを具体的に加速させ始める。」「デジタル人民元&台湾統一で世界の覇権を握る!?」「いきなり台湾本土へ侵攻するのは、中国はリスク大、まずは台湾が実効支配している小さな島から狙い取り込んでいくのでは‥」とし、具体的には、南シナ海の太平島(台湾軍200人が駐留)と東沙諸島(台湾軍500人が駐留)を挙げていた。二つの島とも、海上交通の要衝でもある。

 2018年に中国習近平国家主席は、2期10年までという国家主席の制限を撤廃するため憲法を改正した。これには少なからずの反対もあったようだが任期制限撤廃の改正を行った。その改正を正当化する最大の理由は、習近平国家主席が国のトップとして「中国共産党の70年にわたる核心的悲願[目標]である台湾統一を成し遂げるため、引き続き3期目にも国家主席となることの必要性」をもって、党内で了承されたものだった。このため、習氏としては、3期目が終わる2027年10月までになんとしても台湾統一を成し遂げる必要に迫られてもいる。それまでにあと5年間という期限。

 

■「中国が野望を加速させるのを懸念する。台湾は野望の一つであり、今後6年以内に脅威が顕在化する」と、アメリカ議会で2021年3月に報告したのは、昨年の4月までアメリカのインド太平洋前司令官のデービットソン・ウィンド氏。その理由をいくつか挙げたが、そのうちの一つが、中国の軍事力の急速な強力化。2025年には西太平洋におけるアメリカの総合軍事力をはるかに上回るとも語る。

 京都丸善書店の中国コーナーには多くの書籍が置かれているが、その中に『2023年台湾封鎖』(宝島社)北村淳・早川友久・山崎文明(ほか著)がある。この書籍は最近刊行されたものだ。本の表紙裏扉には、「2021年3月にアメリカの高官は、"中国は6年以内に台湾に侵攻する可能性がある"と発言した。一番危ないのが台湾総統選前の2023年だ。中国は、台湾に向かって数百発のミサイルを撃ち込む。そして、習近平は、抗議する西側諸国に向かって。"これはひとつの中国の内政問題だ"と言い張るのだ。本当にそんなことが起きるのか。そのとき日本はどうなるのか。この本は、その危機に立ち向かう一冊である。」と書かれていた。

 この書籍の「はじめに」は、編集部の文がある。これによれば、「なぜ2023年なのか?!」についての概略が書かれている。その理由(根拠)として、次の三つのことが記されていた。

 ①中国は現在、世界でもトップレベルの宇宙産業国となった。特にGPS人工衛星防衛システムは、現在アメリカを上回り優位性をもつまでになった。これに対抗するため、アメリカもこのシステムの再びの優位性を目指し開発を急いでいる。中国を上回るそのシステムを2026年中に配備できる目標をアメリカはもっている。このため、中国はその優位性がある間に台湾統一(侵攻含む)を行う必要がある。人工衛星の軍事的優位性がなければ、いくらミサイルや兵力、空母や艦船が多くても、アメリカ軍との戦いを優勢にすすめられないからだ。(中国は現在、アメリカのGPS衛生を破壊することも可能なような宇宙軍事力をもっている。現代戦はGPSの誘導なくして戦いはおこなえない。)

 ②2022年2月には、北京冬季五輪がある。これは習近平政権が国の威信をかけた大会だ。このときに、多くの欧米諸国をボイコットさせるような台湾侵攻をすることはないだろう。また、10月には中国共産党大会があり、3期目の国家主席・党総書記として再選されるだろう。しかし、その前に、もし台湾侵攻をして失敗したり、もし成功したとしても、何らかの形で反撃により中国本土が大きな被害を受けることが起きれば、習近平ののトップの座は危うくもなる。

 ③2024年1月には、台湾総統選挙が控える。台湾総統は2期8年までの任期期限と憲法で3選は禁止されているので、蔡英文が立候補することはないが、誰が蔡英文を引き継ぐか?その候補者が、台湾独立志向が蔡英文より強い人物ならば、中国が台湾侵攻を行う可能性はより強くなる。現状では、国民党より蔡英文の民進党の支持率は確実に高い。

 この3つの根拠(理由)から、2023年の台湾統一(侵攻)の可能性が最も高いとして、『2023年台湾封鎖』という題名をつけたと編集部はしている。

■私は、やはり2024年1月の台湾総統選挙の前後の2023年秋から2024年春までの5カ月間に、中国による台湾統一(侵攻含む)の可能性が最も高いかと推測している。2023年11月頃の、台湾総統選挙の支持状況を判断して、どのような台湾統一ーの方法をとるかのかを、中国は最終判断をして動くものと推測している。それにしても、あと2年後だ。それまでにコロナの世界的パンデミックは収束している可能性があるが、収束後は台湾を巡る状況が一気に緊迫することとなる可能性がある。日本にとってもとても大きな影響がもたらされるだろう。私の中国の大学の教員生活にも‥。私の勤める大学やアパートのある福建省福州市は台湾海峡を挟んで台湾の台北までわずか160kmの距離にある。本格的な台湾侵攻となれば、日本人の中国への渡航や帰国などもどうなるかわからない。

■2023年中までに、まず太平島や東沙諸島への軍事行動(侵攻)が起きる可能性は高いとも思う。台湾封鎖の場合には、日本の沖縄諸島の台湾に近い西端の島々や尖閣諸島も、その侵攻を受ける可能性がある。

 1月24日付朝日新聞には「台湾の"中国ファクター"習政権の浸透工作 統一狙い着々と」の見出し記事が掲載されていた。

 最新の『NewsWeek』紙の特集記事は「2024年全米動乱」。アメリカ次回大統領選挙は2024年秋に行われる。共和党からはトランプ前大統領が出馬する可能性が高いとされる。民主党の現大統領バイデン氏は高齢のため、出馬は微妙。日本の日刊フジは民主党候補としてヒラリー氏の再出馬の可能性も述べている。しかし、民主党は次回大統領選挙に向けての有力候補難だ。

 台湾統一に向けての中国の動きは、このアメリカ大統領選挙の行方も見据える。全米が再びトランプ劇場で動乱となれば、中国にとっては大きなチャンスでもある。

 最近、米国バイデン大統領と日本の岸田首相とのオンライン会談が行われた。1月24日付読売新聞には「日米豪印会談 春後半に 日本で開催 バイデン氏"国賓"案」の見出し記事が掲載された。このバイデン・岸田会談を受けて、1月22日付朝日新聞には、「日米会談をどう見る―反発防ぐ対中メッセージを」と題する文章(早稲田大学教授 中林美恵子氏)、社説では「対中、共存の戦略を」という見出し記事が同日に掲載されていた。

 週刊誌「週刊現代」の最新号には「"北京五輪後に中国は崩壊する"7つの根拠」と題した特集記事が掲載されていた。その根拠とは「①ゼロコロナ政策は大失敗、②米中激突へのカウントダウン、③習近平国家主席の"暗〇"危機、④21世紀の天安門事件が勃発する、⑤不動産バブル崩壊/経済は破綻へ、⑥"嫌われ中国"国際社会でも孤立無援、⑦頭脳流出で人材焼野原」と題された小見出しの7つの根拠。

 この記事は筆者名がないので、誰が書いたか分からない(おそらく編集部の誰か)が、多少の事実は書かれているが、そのほとんどは「単なる希望的観測」にすぎず、かなり眉唾物(まゆつばもの)の恥ずべき特集記事だった。売れるためだけの、真っ当なジャーナリズム精神は皆無の記事内容だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ロシアのウクライナ侵攻が迫る危機―プーチン大統領の狙いとその背景にあるもの

2022-01-26 09:28:43 | 滞在記

 2022年1月に入り、東欧のウクライナを巡る情勢が緊迫してきている。10万超のロシア軍がウクライナとの各方面国境に展開し、ウクライナ侵攻を準備している状況がここ数週間続く。

 NATO(北大西洋条約機構)は、このロシアの動きに対し警戒を強めてきている。1月21日付朝日新聞には「ロシア軍の侵攻予測—米大統領ウクライナ巡り警告」の見出し記事。

 1月22日(土)のABC(朝日放送)の報道番組「正義のミカタ」では、このウクライナ情勢とオリンピックとの関連性について「ロシアが動くとき そこにオリンピックあり」と題して特集報道を行っていた。この特集報道を視聴するて、改めてロシアの軍事行動(侵攻)がオリンピック開催と関連している歴史を知ることができた。アメリカホワイトハウスのサキ報道官は「北京オリンピック開催中にウクライナに軍事侵攻する危険性」を指摘している映像も流れた。

 この番組報道によれば、「①[五輪前]の1979年ソ連(ロシア)のアフガニスタン侵攻—翌年1980年にモスクワ夏五輪開催(67の国と地域が大会不参加のボイコット)、②[五輪中]2008年北京夏五輪中―ロシアのグルジア(ジョージア)侵攻、③[五輪後]2014年ソチ(ロシア)冬五輪―閉会式直後にロシアはクリミア(ウクライナ領)に侵攻し併合」と、「ロシアの軍事侵攻と五輪との関連性」を説明していた。そして、今回のウクライナ侵攻に向けた動き。

 1月22日付朝日新聞には「ロシアの情報工作 米が警戒 ウクライナ侵攻の"前兆"非難—ロシア、侵攻も撤退も否定」、1月23日付読売新聞には「露、米へ攻勢強める―ウクライナ情勢"深刻な結果招く"と/外相会談最終通告」と、それぞれの見出し記事が掲載されていた。米国のブリンケン国務長官とロシアのラブロフ外相とのオンラインン会談が決裂し、ロシア側が最後通告をした結果となった。

 この状況を受け、昨日1月25日付朝日新聞には「米、ウクライナ退避を命令/"ロシアが侵攻の恐れ"大使館員家族へ/米軍派遣検討」の見出し記事。そして今日26日付には「米、東欧へ派遣命令8500人/ウクライナ情勢対立―"ロシアに沈静化の意図なし"」の見出し記事が掲載されるまでとなった。米国や英国は、ウクライナへのロシア軍侵攻が近いと判断し、大使館員やその家族へ避難命令を発したこととなる。また、米国軍は、ロシア軍の侵攻に備えてバルト三国に1万人近くを派兵することを決定した。NATO加盟諸国も、この動きに伴いなんらかの軍事行動をとるものと予測される。

 今回のウクライナ危機(ロシア軍侵攻)の背景にあるものは、主に三つのことがあると思われる。一つは、ウクライナが2004年にNATOへの加盟を申請したのだが(ロシアの反発を懸念し、現在はまだ申請に対する継続審議中の段階で加盟は実現していない)、最近になり加盟の正式決定が現実的になってきたことへのロシア・プーチン政権の反発がある。1991年のソビエト連邦崩壊後、とりわけ2000年代に入り、かってソビエト連邦の衛生諸国だった中・東欧諸国の多くがNATOに加盟、2010年代に入ってもその流れが続いていることへの反発だ。

 ソビエト連邦崩壊後から20年を経過した2010年代に入り、プーチン長期政権下のロシアは国力をかなり回復し、政権への国民の高い支持を取り付け続けるためにも、2014年のソチ五輪後にクリミアに軍事侵攻し併合をした。これは、超大国となった中国の習近平政権との蜜月関係もその背景にある。

 (※ロシアと国境を接するバルト三国[エストニア・リトアニア・ラトビア]はNATOに加盟。最近では、台湾との事実上の国交外交をとり始めている。だが、NATO加盟国であるトルコは最近、ロシアや中国、欧米諸国とのバランス外交を取り始め、NATO脱退の動きがある。また、東欧最後の独裁者と云われるベラルーシの大統領は超親ロシアの政権。)

 二つ目は、2024年にプーチン大統領の任期が切れるため、最近、憲法改正をして最長2036年までプーチン大統領が続投できることを可能にした。このような独裁的・強権的な政治に一時は85%以上の支持率を誇ったプーチン大統領だが、最近では若者層を中心にその支持率が低下している。このような国民世論の動向に対し、旧ソビエト連邦下で最も重要な地域の一つだったウクライナ(ソ連邦の食糧庫ともよばれた)併合を狙っていることだ。ゆくゆくはバルト三国やベラルーシの併合又は衛星国化もその視野に入れてはいるだろう。

 そして三つ目は、ロシア・プーチン政権と中国習近平政権との連携が2013年頃から強まり、特に近年は共同した動きがとれていることだ。欧米諸国や日本も、台湾問題と東欧問題の両面で軍事侵攻問題がおきてくれば、その対応・対抗に困難さがよりともなってもくる。

■私は2000年代に入り4度、ロシアを訪れている。2001年~2008年にかけてのことだ。2008年は日本からも近い極東ロシアのウラジオストクやハバロフスクだが、それ以外の3回はバルト三国に近い、ロシア第二の都市サンクトペテルブルク(旧レニングラード)。1991年にソビエト連邦が崩壊し、ロシアの人々は生活難・仕事難に直面した。2000年代の初頭には、その生活難や仕事難もやや落ち着きを見せ始めていた。この10年以上に渡るロシアの人々の暮らしをなんとか支えたものにソビエト(ロシア)伝統のダーチャがあった。このダーチャとは、特に都市部の人々の小さな小屋と周辺の小さな農地のことだ。

 2〜3人であれば宿泊もできる都市近郊のダーチャの小屋。その周りに家庭菜園規模の農地がある。今、日本でも多い貸農地を少し広くしたぐらいのものだが、ここで野菜を作って、食糧難をしのいだのだった。そして、再びロシアの経済や国の威信を回復したのが現在のプーチン大統領だった。私がロシアを訪問した2000年代、ロシア国民にとってプーチン大統領の存在は希望の星だった。そして、2014年のソチ冬季オリンピック開催と直後のクリミア(ウクライナ)併合により、国民のプーチン支持は90%近くにまで再び上昇した。

 しかし、特に2018年以降、その独裁的・強権的政治に、特に若者層を中心に支持が低下してきている。昨年8月の支持率調査では60%に下落。若者層では50%の支持率で、支持しないは46%に上った。

※ウラジミール・プーチン:1952年サンクトペテルブルク生まれで、今年10月に70歳になる。私と同じ年で。2000年にロシア第2代目大統領に就任、現在20年間を越える超長期政権となっている。ロシアの軍事力は、米国・中国と並ぶ世界三大軍事力をもつ。しかし、GDP(国民総生産)は2020年では世界11位。10位の韓国に次ぐ程度となっている。ロシアの人口は1億5000万人ほどと日本より少し多い程度。国土面積は世界一。