彦四郎の中国生活

中国滞在記

香港:周庭氏・黎智英氏ら10名を香港国安法違反で逮捕―近代法の「不遡及の原則」もかなぐり捨て?

2020-08-16 12:32:12 | 滞在記

  香港警察は8月10日、著名な民主活動家の周庭氏や民主派の香港紙「リンゴ日報」の創業者・黎智英氏ら10名を「香港国家安全維持法(国安法)」違反容疑で逮捕した。黎氏は中国国営メディアが「香港を混乱させる反中分子の頭目」と名指しで批判してきた人物だ。

 翌日の朝日新聞には、「民主活動家・周庭氏逮捕か 国安法違反容疑 香港紙創業者」「国安法 民主派"本丸"へ照準 中国批判の香港紙創業者逮捕 メディア萎縮 自宅付近に数人の不審な男たちが 周氏SNSで訴え」などの見出し記事が。

 「周庭氏、黎智英氏ら10人、外国勢などと結託し 国家の安全に危害を加えた」「香港国安法に違反した疑い」「周庭氏のフェイスブック―自宅周辺に見知らぬ男たちがいたことや警察が家宅捜索に入った」「香港紙"りんご日報"の創業者で 民主派の重鎮・黎智英氏ら9人も逮捕」との日本のテレビ報道。

 英国に7月上旬から亡命中で、中国政府から指名手配を受けている羅冠聡氏は自身のフェイスブックに「(周庭氏について)国家安全法に基づいて逮捕された。情報を集めているところだ。最悪の日だ。彼女は無罪だが、無期懲役を受ける可能性もある。アグネス(周庭)は一緒に闘ってきた仲間の一人です。独裁政府である中国共産党(CCP)は国安法違反の"国家分裂"の容疑で23歳の女性を逮捕した。」と日本語でもツイートしていた。

 逮捕された黎氏は19年7月に米国でペンス副大統領、ポンペオ国務長官らと面会し、香港民主派への支援を要請していた。ただし香港国安法は2020年7月1日前の言動を摘発対象としておらず、黎氏や周氏の容疑内容は不明だ。リンゴ日報は1995年に創刊。中国共産党に批判的な論調で知られ、事実上香港の民主派を支援する最大の香港紙として知られている。黎氏や周氏の他の8人については、リンゴ日報は「黎氏の息子や同社幹部たちだ」と報じている。

 黎智英氏は、アパレル小売り業界の「ジョルダーノ」の創業者でもあり、ユニクロの柳井社長にも大きな影響を与えた人物としても知られている。

 今回の10人の逮捕について、津田塾大学の萱野稔人教授は、「今回の逮捕で深刻なのは、今回逮捕された周庭さんは、国家安全法が施行されたその日の前日までには周さんが所属した民主派の団体は解散され、周さんも脱会しています。つまり法が存在しなかった過去に遡(さかのぼ)って国家安全法が適用された恐れがあります。」

 「それがどのくらい深刻なのかといえば、"不遡及の原則"と言いますが、これは近代法の根本的な原則です。過去に遡って法を適用してはならない、という原則です。これがもし許されてしまうと、もはや法による統治というものは崩れてしまって、権力による恣意的な統治が行われることになってしまいます。どんな過去にも法律を適用できることになってしまう。今回明らかになったのは、近代法の原則をかなぐり捨てた統治が今後香港でなされる可能性が高まったということだと思います」とコメントしていた。

 11日の朝日新聞「民主派逮捕 中国強硬 活動停止後でも 香港衝撃」、夕刊フジ「中国狂気 香港"民主の女神"逮捕 計10人」との見出し記事。

 10日の周氏や黎氏らの逮捕を受けて、米国国務長官のポンペオ氏は「中国共産党が香港の自由を骨抜きにし、人権を侵害していることがあらためて証明された」とツィツターに投稿した。日本の管官房長官は「重大な懸念を有している」と表明。これに対し、中国外交部の趙立堅報道官はこの日本の対応について「日本は現実を見て立場を正し、中国内政にいかなる干渉もやめるよう促す」と、日本を名指しで批判した。

 日本は「重大な懸念」を表明するにとどまっているが、中国に過度に配慮する「弱腰外交」ではないかとの批判もある。香港で国安法に違反したとして逮捕された事件を受け、日本の超党派の議員連盟「対中政策に関する国会議員連盟」(自民党の中谷元氏や国民民主党の山尾志桜里氏ら)は、首相官邸を訪れ、日本政府が中国・香港政府と捜査共助条約を結んでいることから、国安法に関わる事案で中国や香港政府からの証拠の確保・引き渡しを要求された場合には応じないことを表明すべきとの要望書を提出した。また、「我々は強く、中国共産党政権、また香港政府に対して抗議をし、我々からも強くメッセージを発したい」(中谷代表)と表明した。

 11日~12日の中国のインターネット記事での周氏や黎氏の逮捕や保釈についての記事を閲覧する。「乱港分子 周庭獲準保釈 旅遊証件 被没収」などの見出しなど、けっこう このニュースは多く扱われていた。

 周氏や黎氏らに対し、「漢奸」「売国奴」「乱港分子」などの言葉が使われている。「この日がついに来たか!😊😊😊😊👆👆👆👆!!!」「漢奸走狗売国賊永遠没有」などの表現のコメントが多く掲載されている。

 逮捕翌日の11日、「リンゴ日報」を-各所で多くの香港市民が買い求め、早朝には売り切れた。

 11日のリンゴ日報の一面には、「頻果一定撐落去」(リンゴ絶対に落ちないで、絶対に頑張り続ける)」と書かれた記事が掲載されていた。また、10日にはリンゴ日報の社屋には200人余りの警察が捜索に踏み込んだことも書かれていた。同社の株は黎氏らが逮捕されたことを受け、株価は一時300%以上に上昇急騰した。民主活動家らが投資家に対し、同社を支援するために株の購入を呼びかけた結果だった。また、リンゴ日報の購入も支援につながるとしている。

 12日、有志団体(香港を支援するために結成された団体)ら50名以上が日本の国会議事堂前に集まり、日本政府に対し、人権侵害などを受けた香港人への特別在留許可の付与など6つの項目を求めた。現場には在日の香港人も訪れ「国安法は国際社会の脅威だと日本の皆さんに訴えたい。香港の友達は今動きにくいので、日本にいて発言の自由がある自分が来た。(集会に参加したことで)香港に帰った時に逮捕されねのはある程度覚悟している」と語っていたと報じられていた。