彦四郎の中国生活

中国滞在記

中国漢字の読み方(発音)が日本漢字の発音と同じだったら、中国語学習は楽なのだが―甲骨文字を買う

2019-04-15 09:10:02 | 滞在記

 4月6日(土)、午前9時頃にアパートを出て、週末恒例の露店市に向かう。アパート近くでいつも農民工(地方からの出稼ぎ者)が集まる場所には、この時間にすでに、電動バイクに乗ってやってきた7〜8人が集まっている。ほぼ毎日のように集まって話したりトランプ賭け遊びができる仲間があって、中国生活では そんな 近い年代の仲間のない私には とてもうらやましい。

 60番バスに乗り15分ほどで下車すると、週末の土日の午前中に露店市が開かれている一帯の地区がある。露店市近くの公園で、一人カラオケ(勝手カラオケ)をやっている男性がいた。スピーカーを持ち込み、携帯電話で歌詞を見ながら、楽しいリズムの歌を熱唱している。その周りには小さな子連れの母親たちやおじいさん・おばあさんたちが集まっている。子供たちが音楽に合わせて手足を動かしていた。露店市に行く。物売りをしているチベットや蒙古系の女性の民族衣装が美しい。

 さまざまな骨董を扱っている露店もかなり多い。季節の「細いタケノコ」を売っている露店も。この日、「甲骨文字」(こうこつもじ)を露店の骨董店で値段交渉を買った。本物ではなく どうやらレプリカのようだが精巧にできている。甲骨文字の「甲」は亀の甲羅の甲、「骨」は動物の骨(※肩甲骨が多い)。甲骨に書かれていたのが中国の漢字の起原とされる。時代は殷(いん)の時代のもの。(※「殷」は「商」とも言われる。)

 2時間ほど露店市にいて、アパートに戻るために再び60番バスに乗る。車内には、熊のプーちゃんみたいな形のぬいぐるみバックを背負っている若い男。どうやら隣のガールフレンドのバックのようだ。「恥ずかしくないのかな」と私のような日本人は思う。師範大学バス停で彼らも下車した。そして、バックをガールフレンドに渡していた。まるで、「召し使い」のようだ。

 6年前から中国に暮らし始めて、不思議な(理解できない)ことの一つに、「ボーイフレンドがガールフレンドの鞄(バック)を召使のように持ってあげている光景が多くみられる」ことだった。大きなバックだけでなく、小さな小さなものでも持っていることだった。このことを大学の学生たちに聞いたことがあったが、「それが中国では当たり前」「頼まなくても持ってくれなかったら愛がないと思う」「中国では女性の地位は高いのです」などなどとのこと。

 アパートに帰って、買った甲骨文字をよく見ると、現在 使っている漢字とよく似た文字もある。象形文字のようなものもある。

 中国の古代文明や国家は、黄河流域の現在の河南省北部(邯鄲—安陽—開封—鄭州—洛陽)あたりを中心に始まり、成立していった。約6000年前の半坡(はんぱ)遺跡からは50種あまりの符号が発見されていて、それは一定の規則があり、「簡単な文字の特徴」があり、漢字の萌芽がみられるとされる。

 甲骨文字の存在が初めて発見されたのは1899年のこと。北京に住む清朝の高官が、持病の薬として漢方薬店から購入した「龍骨」に文字が刻まれているのを見つけたのがその発端だある。その後の1920年に、河南省安陽で発見され発掘調査されることとなった「殷墟遺跡」(かっては伝説の王朝とされていた殷王朝)から、大量の「甲骨文字」が発見された。約16万枚あまりの甲骨が発見され、それに記されていた10000種の表意文字の内、3000種あまりの文字が研究され解読されていった。これにより、殷という時代の社会や国のようすが判明されてきた。(「殷王朝」は紀元前1600年頃から紀元前1046年までの約550年間、40代の王にわたる王朝だった。そのうち、紀元前1300年頃からは、安陽の殷遺跡が都になった。この遺跡は総面積24キロ平方メートルに及ぶ。)

 甲骨文字は、かって亀の甲羅や動物の肩甲骨を火であぶり、その時に生じたヒビ割れの形をもとに吉凶を判断するという「骨卜(こつぼく)」と称する占いが行われており、それらに刻まれていた文字が甲骨文なのである。殷では、占いを実行することによって「神意」を確認し、国事が遂行された。王の病気や王朝の国事に関する事だけでなく、その他、民の日常生活に関する事柄も刻まれていて、殷時代の習俗も垣間見ることができた。この甲骨文字こそ、現在私たちが使用している漢字の原形である。殷王朝の後に成立した「周王朝」の時代になると、青銅器や陶器などにも文字が書かれるようになっていく。(※占いを行うために記される文ではなくなり、王朝の権威を表すものとなる。) 

 日本に漢字が伝来して1600年ほどがたつ。中国で発明された漢字は「表意」(意味)と「発音」の両方を兼ね備える、人類が作った文字としてはとても優れたものだ。それを、今は、中国人と日本人だけが使用している。(朝鮮半島も氏名にだけには使用しているが)

 日本人にとって中国語の学習・習得はとても難しい。それは、発音がとても難しいからだ。中国語の発音には「四声(しせい)」といわれる「声調」があり、これの使い分けや聞き取りがとても難しいのだ。その漢字の発音(読み方)は、ほぼ一つだけしかないのたが、これを理解し聞き取ることは至難のことだ。巻き舌やそり舌の発音もあり日本語にない発音も多い。しかし、文法的には動詞変化はなく、それほど難しくはないのだが。

 一方、中国人にとって日本語を学習するうえで文法が難しい。難しいベスト3は、①動詞の変化の習得②助詞の習得③敬語の習得となるだろうか。そして、漢字の読み方も難しい。日本語には「訓読み」「音読み」とがあるからだ。2種類以上の読み方をする漢字も多い。発音的には、日本語は難しくはない。漢字が日本に伝来し、それまでに、日本で使われていた「ものや事項や事柄にたいする発音」を漢字にあてはめたものが「訓読み」であり、中国から伝わったその漢字の発音が「音読み」である。

 この中国に由来する漢字の音読み方には「呉音」と「漢音」と「唐音」がある。「呉音」は漢字や仏教が初めて日本に伝わった飛鳥時代から奈良時代の音である。呉とは三国志時代の「魏呉蜀」の呉国のこと。「漢音」は遣唐使時代に「唐の都長安」から伝わった音とこと。そして「唐音」は鎌倉時代以降に中国の「宋」「元」「明」「清」国から伝わった音のこと。例えば、「明」という文字は、呉音では"ミョウ"、漢音では"メイ"、唐音では"ミン"と発音される。だから、漢音の「明暗(メイアン)」「明白(メイハク)」「明察(メイサツ)」「明断(メイダン)」、呉音の「明王(ミョウオウ)」「明星(ミョウジョウ)」、唐音の「明朝(ミンチョウ)」などと発音される。さらに、「明日(アス・アシタ)」などの特殊な読み方もある。そして、訓読みの「明かり(あかり)」が加わる。だから、中国人にとって日本語の漢字の読み方はかなり難しい。

 中国語の漢字の発音と日本語の漢字の発音が、ほぼ同じであればどれだけ中国語の習得は日本人にとって楽(らく)だろうかと思う。歴史が経つにしたがって、日本語の漢字の発音と中国語の漢字の発音は、大きく違う事になって来た。ほぼほとんどの漢字で発音が大きく違うし、似ている発音は、ほんのわずかである。どうしてこんなことになってしまったのだろう。外国語の習得に才能がないというか、耳が悪いというか、そんな私には つくづく中国語習得の難しさを思う日々でもある。