彦四郎の中国生活

中国滞在記

北朝鮮を巡る問題と東アジア情勢を読む―中国の「対北朝鮮・対韓国政策」とNO.3の存在

2017-04-09 23:42:58 | 滞在記

 政治的緊張関係が続く、東アジアや東南アジア。北朝鮮の核実験や度重なるミサイル発射実験は、韓国や日本やアメリカへの威嚇を伴っている。さらに、東シナ海における尖閣列島を巡る日中の緊張関係や、南シナ海の南沙諸島を巡る問題。韓国のTHAAD配置を巡る中韓関係の悪化、台湾と中国との政治的緊張関係など、今や世界の「火薬庫」的な危機の場所の一つとなっている。

 上記のイラスト漫画は中国の最近のあるインターネットサイトから発信されたものである。

 4月6・7日に行われた中国の習近平主席とアメリカのトランプ大統領との初の首脳会談。さまざまな国際政治経済を巡る問題が議題として(・米中の貿易問題・北朝鮮問題・南沙諸島問題・シリア問題など)協議・交渉がされたようだが共同声明の発表では、諸問題に関する特に具体的に新しく合意されたものはなかった。とりわけ「北朝鮮問題」では、トランプ大統領が「中国から北朝鮮への石油輸出の停止」などを提案し、「中国が協力しないならアメリカの北朝鮮への強力な単独行動も辞さない」と習主席に迫る一幕もあったようだが、習主席は「国連安保理の決議内容の完全実施の履行」だけは約束したが、それ以外のこれ以上の制裁強化には同意しなかったと伝えられた。なぜ、習主席は具体的な北朝鮮への制裁強化に同意しなかったのか。そこには、1か月後に迫った韓国の大統領選挙の行方・結果を待つとともに、中国共産党内部の権力構図、とりわけ中国共産党序列NO.3の張徳江という人物の権力的存在感が大きな影響を持っているのではないかと思われる。

 この米中首脳会談期間の最中に、アメリカ軍によるシリア政府軍へのスカッドミサイル56発の突然の攻撃(※ロシア軍も使っている軍事空港)が突然行われた。「サリンなどの化学兵器をシリア政府軍が反政府軍の支配する地域へ使用し、多くの一般市民の犠牲者が出たこと(絶対越えてはならない一線を超えた―化学兵器使用)への警告措置」との声明をアメリカは出した。中国はシリア問題ではアサド政権(シリア政府)を支持している立場なので、この首脳会談の時期のアメリカのシリア政府に対する対応に 苦慮したのではないかと推察される。

 1カ月後に迫った韓国大統領選挙。「反日」・「親北朝鮮と中国」を標榜する文在寅(ムン・ジェイン)候補[共に民主党]を安哲秀(アン・チョルス)候補[国民の党]が激しく追い上げる展開となっているが、仮に文在寅大統領が誕生すれば、朝鮮半島全体が中国の属国的な地域となるとみる人が多い。

 4月1日に『中国新聞周刊』という雑誌を買った。特別付録として「中国政要2017」という付録がついていたからだ。「中国政要2017」には、現在の中国共産党政権の中心となっている300人あまりの役職や経歴などが写真付きで掲載されている。ほとんどが1950年代〜1960年代前半生まれとなっている。チィナセブンと呼ばれる「中国共産党中央政治局常任委員」7人を含む25人の「中国共産党中央政治局委員」が政権の中心人物となる。ちなみに習近平氏は1953年生まれの63才。序列NO.2の李克強氏(首相・国務院総理)は1955年生まれの61才。

 この中で、北朝鮮問題や韓国に対する対応を巡る政策のエキスパートと言われているのが、政権序列NO.3の「張徳江」氏。上記の写真の最も右の人物である。北朝鮮に隣接する中国の東北部をとりわけ政治地盤地域としている人物で、1946年生まれの69才。吉林省の延辺大学(※中国の朝鮮族が多く学ぶ大学)の朝鮮語学部で学び、北朝鮮の金日成総合大学経済学部に留学しており、朝鮮語が巧みな人物として知られている。北朝鮮の「金政権」との2代(金正日・金正恩)にわたる緊密な関係を築き、「金政権の中国の代理人」の異名までもっているらしい張徳江氏は、中国の現政権で序列3位にまで昇格した。また、韓国大統領候補の文在寅氏とのつながりもある。全国人民代表者会議の委員長でもある。

 中国共産党内には、権力構造として①共産主義青年団派閥派②上海派閥派③太子党派閥派の3つがあるといわれている。(※習主席は③、李首相は①、張徳江氏は②)  この上海派閥派は、元主席の江沢民派とも言われている。この勢力が中国において 今もかなり強い権力基盤を形成しているようだ。2012年に習氏が主席に就任して以来、汚職摘発などの推進や軍の再編成などを通じてかなりの権力基盤を強化し、強力な政権となった。しかし、序列3位の張氏を中心とする勢力も強く、これが北朝鮮政策に中心的な力をもっていることから考えると、習近平主席としても さらなる北朝鮮にたいする制裁強化がかりに必要と判断をしても それに対する抵抗勢力も強く 簡単にできる状況ではないのかもしれない。金正恩の強硬な姿勢も、その背景には張徳江氏の存在が大きく影響していると考えることもできる。(※中国と北朝鮮は、事実上の軍事同盟の関係にあるといわれる)

 (※300人あまりの人物名簿を見ていると、その学歴が 吉林省の「吉林大学」出身者が最も多かったのは、上記のことと関連をしているためかなとも思った。)

 4月8日(土)・9日(日)の日本のテレビ報道(1時間番組)などでの「米中首脳会談」をめぐる北朝鮮問題をいくつか見ていても、この張徳江氏の存在に関して発言するコメンテーターは一人もいなかったが、日本サイドでも その存在にもっと注目すべき必要がある人物ではないかと思われる。

 蛇足だが、日本のテレビ報道でも時々よく登場する王毅外交部部長(上記写真の一番左)の学歴をみると、北京第二外国語学院となっていた。聞く所によると日本語学科を専攻したようで、日本語は流暢だという。また、私を中国の大学に派遣している中国側の「中国国家外国専家局」の局長は、張建国氏(上記写真の一番右)となっていた。