MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

お知らせ

来月からこのサイトをMITIS(水野通訳翻訳研究所)ブログに変更します。研究所の活動内容は、研究会開催、公開講演会等の開催、出版活動(年報やOccasional Papers等)を予定しています。研究所のウェブサイトは別になります。詳しくは徐々にお知らせしていきます。

『同時通訳の理論:認知的制約と訳出方略』(朝日出版社)。詳しくはこちらをごらん下さい。

『日本の翻訳論』(法政大学出版局)。詳しくはこちらをごらん下さい。

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米原万里さん追悼

2006年06月02日 | Weblog
米原万里さんが亡くなった。ひと月ほど前に送ったメールには返事がなかった。同世代の人が亡くなるのはかなりへこむものである。もう猫と一緒の写真つきのオリジナル年賀状も見られない。
米原さんとはロシアのクーデタの時、何度か一緒のブースに入ったことがある。その縁で2回も講演に呼んでくれたのだが、一度はダブルブッキングで迷惑をかけてしまったこともあった。年末の特番の通訳で収録が長引いたとき、彼女がイニシャティブを取り、通訳料の割り増しを求めるべく通訳者全員をオルグしていた姿を思い出す。
その後彼女はエッセイスト、作家として活躍するようになった。自分の歌を歌いたくなったのだろう。
2002年に出版された『オリガ・モリソヴナの反語法』(現在は集英社文庫)は、亀山郁夫の指摘しているようにドストエフスキーを彷彿とさせる。その白眉は末尾近くの、ミハイロスキーなる登場人物の「泣き出しそう」な表情にある(僕には泣き笑いに思えた)。もっと正当に評価されて文学史に残るべき作品のはずだ。もしかしたら日本のドストエフスキーになりうる可能性を秘めていたのは、椎名隣三でも埴谷雄高でもなく、米原さんだったのかもしれない。彼女が自分の歌を歌い始めたことはロシア語通訳界にとっては損失だったかもしれないが、我々にとっては幸福なことだったと思う。