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日本のブラジル・大泉へ

2011-09-06 09:23:15 | 多文化共生
(以下、地球発[どらく]から転載)
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なにげないお出かけも、その道の「達人」と歩けば新鮮な冒険に。東京からぶらりと行けるスポットを達人のガイドで歩くシリーズ。第8回はブラジル街の達人と歩く群馬県・大泉町。
日本のブラジル・大泉へ

赤いビーツとケールにタマネギドレッシングたっぷり。

大盛りご飯とフェジョン、横にはケールの葉。

「ランチはバイキングです、お好きなものをどうぞ」

と言われても、並んでいるのは好きかどうかも分からない料理ばかり。サラダコーナーにはケールの葉、真っ赤なビーツ、ドレッシングはトマトとタマネギがたっぷり。ご飯の横には豆のスープ・フェジョンと、きな粉のようなキャッサバの粉と、味の想像がつきにくい。

特急りょうもう号で浅草から1時間20分。群馬県太田市は、駅前に大型店舗が並ぶ典型的な地方都市……と思いきや、達人と待ち合わせた駅隣接の大型量販店には、あたり前のようにブラジル料理店「ブラジリアン・ステーキ&グリル」が入っていた。

全国に点在する「ブラジル街」の中でも有名なのが、太田市に隣接する大泉町。人口42,000人のうち、およそ7,000人が外国人で、その多くがブラジル系。ブラジル系の店舗も多く、週末には近隣ブラジル街から買い出しの人々がやってきて、さらに観光客向けに「ブラジル横丁ガイドツアー」も開催されるという、ブラジル濃度が高い町なのである。

追加でシュハスコもオーダー。「おいしいよ!」

本日の達人は、そのツアーガイドも担当し、日本語ブラジル街フリーペーパーの制作も手がける、平野勇パウロさんと奥様のルシエネさんだ。

勧められるまま皿に盛り上げた料理はどれも癖がなく、素材の味が生きていておいしい。サービスドリンクのガラナと一緒に平らげて、焼き肉・シュハスコも追加オーダー。満杯のおなかを抱えて、平野さんの車で大泉に向かった。
ブラジル式スーパー初体験

10分ほどで到着した大泉は、一見なんてことない住宅街に見えるが、よく見るとそこかしこにポルトガル語の看板。平野さんが最初に車を止めたスーパーも、ビル名の「ワールドショッピング・トミ」以外は全部ポルトガル語。店頭にもポルトガル語のフリーペーパーが並ぶ。

ワールドショッピング・トミ。看板が読めない。

扉を開けて店内に入ると、入り口近くの目玉コーナーに山積みされているのは、エバミルク(お菓子に使うらしい)とブラジルのインスタント麺。何に使うのか分からない食材も多い。豆の量り売りコーナーにはレンズマメ、ヒヨコマメ、緑豆、トウモロコシ、野菜コーナーにはケールや変わった形のズッキーニなどが並ぶ。

冷凍庫をのぞくと、マグロ大の魚が凍っている。

「えっ!?」

これは世界最大級の淡水魚・ピラルクで、ブラジル人の好物だとか。平野さんが持ち上げようと苦労していると、食品店「カザ・ブランカ」の店員が横から持ち上げてポーズを決めてくれた。早口のポルトガル語で何やら会話が交わされる。

日本のスーパーとは陳列もどことなく違う。

巨大なピラルク。ブラジルでも貴重な魚

「これで18キロ、1万円くらいだそうです」

2階に上がると、ビデオ屋、エステ、雑貨店、そして海外送金窓口。いかにも外国の雑居ビル風だ。

ビルを出ようとすると、さっきの店員が追いかけてきて「お土産に」と紙袋を渡された。ブラジル名物のチーズパン、ポン・デ・ケージョである。

自分がどこにいるのか分からなくなってきた。
ブラジル女性は「セクシー」至上主義

次はショッピングモール「オプス」内の「リオ・ファッション」、カジュアルファッションの品ぞろえが豊富だ。

「ブラジル女性の定番ファッションは、下半身はぴったりしたデニムで、上半身は露出を大きくするか、同じくぴったりしたTシャツ」

日本人が好むゆったりしたワンピース姿だと「妊娠してるの?」と聞かれてしまうそう。並んでいる水着も、これで隠せるのか? という小さな布や、ヒモのような形状など、見ているだけで赤面しそうだ。

布が本当に小さなブラジルの水着。ヒモ状の水着も。

ルシエネさんによれば、かの国の女性が目指すのは「セクシーであること」、そして「人と違うこと」。メークは中学生で覚えてすぐ卒業してしまい、大人の女性はすっぴんの素肌とメリハリの効いたボディーで勝負する。

「細く」「かわいく」「流行をいち早く」がおしゃれとされる日本とは対極、まさに地球の裏側だ。

それでも、ブラジルと日本は地球上のどの国にも負けないほど深い結びつきを今も保っている。それは、日本から海を渡って行った、平野さんたちの祖父・祖母たちの努力のたまものだ。

トウモロコシアイスは故郷の味

コーンアイスバー。黄色に驚くが優しい甘さ。

揚げたてチュロスには甘いコンデンスミルクを挟んで。

「懐かしいなあ」

スーパー「キオスケ・ブラジル」で、平野さんはトウモロコシ味のアイスを真っ先に手にした。スイートコーン風味でおいしい。

「僕の親は市場で働いていましてね。これをおやつに食べるのが楽しみで」

細身で色白、童顔の平野さんは堪能な日本語も手伝って日本人大学生のように見えるが、サンパウロ生まれの日系3世。来日したのは80年代末、10歳のときだ。大泉には当時から車の製造工場が多かった。

自動販売機やガチャガチャなどが面白かった、と懐かしそうに語るが、来日当時はブラジル人も少なく、小学校では前例がないと養護学級に編入され、周囲の子供からは「ブラジルに帰れ」といじめにも遭った。

それでも、彼らのような「逆移民」第一世代は、濃い日系人社会で育ったこともあり、なじむのも早かった。しかし90年代、ビザ緩和後に大挙して来日したブラジル人たちの中には、日本に関する予備知識が少ない人も多く、地元住民たちとの間には溝も生まれたという。暴走族のように派手な車を乗り回す「グレた」ブラジル人もいたとか。

トミのポン・デ・ケージョ。もっちりふかふか。

トミは近隣住民の井戸端会議の場所。

フリーペーパー「Bem-vindoブラジル街」。企画・広告営業・取材・執筆・デザインまですべて平野夫妻。

19歳で留学のため初来日したルシエネさんも、戸惑うことは多かったとか。

「ブラジルの家では、お正月は『君が代』や『お正月』を歌ってたんです。でも日本だと誰もやらないでしょう。ブラジルでは自分は日本人と思っていたんですが、日本に来たら、あれ? 私、ブラジル人だったって」
世代は巡り、ブラジル街も変わる

次に訪れた「焼きたてのパン屋さん・トミ」は、朝6時から焼き立てフランスパンや、ポン・デ・ケージョを提供する地元の人気店で、カフェも併設している。もっちり熱々のポン・デ・ケージョで再びおやつタイム。

話は平野さんの仕事に及んだ。フリーペーパーの制作、ウェブサイトの運営、本業のデザイン仕事、さらにツアーガイド、各所から依頼されたブラジル関連イベントの運営と幅広く多忙な日々。

「頼まれると断れなくて」

気弱に見える笑顔は日本人そのままだ。お店の人や読者に励まされ支えられたのが大きいが、ブラジルに渡って懸命に働いた第一世代に顔向けできないことはしたくない、という思いも強い。

「『日本人は確実だ』という言葉があって、祖父の時代は借金も簡単にできたとか。彼らには本当に感謝しています」

世代は巡り、現在、夫妻には6歳の娘さんがいる。日本生まれの彼女には国籍関係なく、視野の広い人間に育ってほしいと願っている。

ルック・キッズの子供用カーニバル服。

「ご自分のようにいじめられちゃったらどうしますか?」

わざと意地悪で聞いてみると、平野さんは、

「学校でも社会でも、どの国にいても、いじめはあります。自分が強くならないと」

きっぱりと答えたものの、

「でも、体験したことがないからなあ……実際いじめられたらどうしよう……うーん」

頭を抱える姿はほほ笑ましく、周囲の人々が彼に相談をもちかける理由がなんとなく分かるような気がした。
ファッションも雑貨もブラジル一色

大泉ツアーもいよいよ大詰め。

バナナブラジル店内。

バナナブラジルはかわいいアクセサリー豊富。

バナナブラジルの看板娘。従業員もブラジル人が多い。

カラフルなブラジルの子供服や、おもちゃのような靴が並んで、見ているだけで楽しい「ルック・キッズ・ファッション」。そして、かわいいバッグや国旗をあしらった小物、アクセサリーなどが並ぶ雑貨店「バナナブラジル」。ここ数年、日本でもブラジル発信のファッションアイテムが注目されているが、雑誌で見かけた小物もちらほら。平野さんは、ツアー参加者のお土産になるような小物を物色中だ。

さて、すっかり日も傾き、車で太田駅に向かう。車窓から改めて眺めると、住宅街に埋もれるようにポルトガル語の看板を掲げたバー、エステ、レストラン、さらには学校もある。本当に、ここはリトルブラジルなのだ。

と、突然、

「あ、ここです! ここで再会しました!」

ルシエネさんが道路の角を指さし、平野さんが耳まで赤くなった。

平野さんのサンパウロ大学留学中に出会った二人は、彼の帰国にともない一度は別れたものの、太田の路上で偶然に再会、そのまま結婚したという。

「車に乗ってた彼を私が発見したんですよ」

昨日のことのように生き生きと語るルシエネさんは少女のよう、平野さんはハンドルに突っ伏して照れている。


「いやあ、楽しかったなあ。また来てくださいね」

太田の駅でにこにこと手を振る二人と別れるとき、ほんの数時間だけの出会いなのに、なんだか本当に家族と別れるような気がした。懐かしい場所が、またできた。


(取材/山田静)

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