(以下、朝日新聞【神奈川】から転載)
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増える外国人児童 届かぬ日本語教育
2011年01月23日
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放課後、中国から来た児童らは中国語と日本語で勉強している。先生はボランティア=横浜市南区の南吉田小学校
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信愛塾でボランティアとして後輩の面倒をみる中国人の生徒(右)=横浜市南区中村町1丁目
県内で増え続ける外国人の住民。その子どもたちは地域の学校で日本語で教育を受ける。しかし、現場での対応が追いつかず、日本語能力が備わらないまま卒業する子が多いのが実情だ。教育現場を追った。
(北崎礼子)
にほんごがわからないよ――。横浜市南区にある市立南吉田小学校の6年生の教室。社会科の授業で先生が話している最中、中国福建省から来た男の子(12)はうつむいたままだった。鉛筆は進まず、ノートは白紙。先生に指されても教科書のどこを見ていいのかわからない。両親と来日してから3年、ずっとこんな状態が続く。
休み時間になると、男の子は中国人仲間の輪にいた。どうしても言葉の分かる者同士で固まってしまう。教室は児童が話す中国語や韓国語、タイ語でにぎやかだ。
南吉田小ではここ5~6年で外国籍の子や片親が外国籍の児童が急増。全校児童600人のうち、その数約200人で13カ国にまたがる。3人に1人が外国籍関係で、50人は日本語が全く分からない。
同校では日本語が分からない子のために国際教室を設けて日本語指導をするが、基準は児童20人に対し先生2人。教員は増員されず需要に追いつかない。授業が一番多い児童でも週に3コマだ。通訳できるボランティアを学校が探すが、多くは定着しない。
藤田耕平校長(53)は「日常会話はできても、ものを考える基礎になる学習言語を学ぶには時間がかかる。学習する権利が十分に満たされていない」と危機感を募らせる。
日本語が中途半端なまま孤立感を抱え、社会から疎外されていく子も少なくない。
狭い道路に面した12畳程度の1室で、外国の子どもの勉強を教えたり相談にのったりする支援を32年続けるNPO法人「信愛塾」(同区)。理事の竹川真理子さん(60)はそんな子を大勢見てきた。
今月、塾に姿を見せたという日本生まれのフィリピン国籍の青年(21)もその一人。「竹ちゃん、体に気をつけろよ」と、かつての教え子は竹川さんに笑った。高校は中退、少年院にも入った。今は全身に昇り竜の入れ墨。「外人の『外』は害虫の『害』と言われてきた。これで日本人と線を引く」。青年は入れ墨を指して言ったという。
竹川さんはその姿を思い出すと悲しくなる。「あまりにも小中学校で放っておかれたまま成長した。言葉の壁が越えられないと、心の壁も越えられない。彼は言葉で将来を考え、心の奥底を表現する力がつかないままだった」
「輝く前途」。青年が中学生の時に書いた習字が、塾の壁にはまだ張ってある。
●文化認め自信に
言葉ができず、孤立感を抱えた子にどう向き合うか。
1月半ば、竹川さんは、2年半前に中国から来た中学3年の少年(14)と、公立高校の面接準備をしていた。
「僕は中国から来て言葉で苦労したから……、今小さい子どもたちに通訳したり勉強を教えたりしていて……、その長所を伸ばしたいです」。一つ一つ言葉を絞り出す。
「あなたはこれだけ短期で日本語ができたのだから、自信を持って」。竹川さんは終始、少年を励ました。
中2の夏、少年は塾に来た当初、ずっと下を向いていた。「学校で周りが話すことが全然分からなかった。どうしようって、ずっと緊張していた」と少年は振り返る。
竹川さんは最初の2カ月間は子どもの母国語で指導する。1対1で分からないところを教えてもらい、少年は安心できた。様々な国の子どもたちが自由に学び、中国人である自分を隠すこともなく、ありのままでいられた。
2週間後、少年の顔がぱっと上がるようになった。中学の修学旅行でも班を積極的にまとめ、「わからない」という言葉を秋ごろから言わなくなった。少年は今、塾で、新しく来たかつての自分のような子どもの面倒をみている。
藤田校長も「言葉だけ教えればいい、日本になじめ、というだけでは子どもたちはストレスを起こす」と言う。
南吉田小は昨年9月から、母国の文化や習慣に誇りを持たせようと、その国の楽器を演奏したり遊びをしたりする「国際の時間」を設けた。無口な韓国人児童が真剣に楽器を弾き、別の一角では中国児童がコマ回しに熱中した。
母国の文化や習慣を認められているという感覚。「アイデンティティーが大事にされていると思えば自信がつく。外国人でも日本人でも、隣の人のことを考え、お互いを認めあう子が必ず出てくる」
行政もようやく一歩を踏み出した。市は、日本語が話せない住民や親子のために2月末から初の日本語教室を無料で開く。国際政策課は「行政が遅れていた。外国人も根ざした地域づくりの必要がある」と話している。
■外国人登録者の多い県内自治体
市 外国人登録者数(人) 外国人比率
横浜市 78889 2.15%
川崎市 31468 2.23%
相模原市 11011 1.55%
大和市 6201 2.75%
藤沢市 6115 1.50%
(外国人登録者数は法務省発表。外国人比率は2009年10月1日現在)
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増える外国人児童 届かぬ日本語教育
2011年01月23日
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放課後、中国から来た児童らは中国語と日本語で勉強している。先生はボランティア=横浜市南区の南吉田小学校
写真
信愛塾でボランティアとして後輩の面倒をみる中国人の生徒(右)=横浜市南区中村町1丁目
県内で増え続ける外国人の住民。その子どもたちは地域の学校で日本語で教育を受ける。しかし、現場での対応が追いつかず、日本語能力が備わらないまま卒業する子が多いのが実情だ。教育現場を追った。
(北崎礼子)
にほんごがわからないよ――。横浜市南区にある市立南吉田小学校の6年生の教室。社会科の授業で先生が話している最中、中国福建省から来た男の子(12)はうつむいたままだった。鉛筆は進まず、ノートは白紙。先生に指されても教科書のどこを見ていいのかわからない。両親と来日してから3年、ずっとこんな状態が続く。
休み時間になると、男の子は中国人仲間の輪にいた。どうしても言葉の分かる者同士で固まってしまう。教室は児童が話す中国語や韓国語、タイ語でにぎやかだ。
南吉田小ではここ5~6年で外国籍の子や片親が外国籍の児童が急増。全校児童600人のうち、その数約200人で13カ国にまたがる。3人に1人が外国籍関係で、50人は日本語が全く分からない。
同校では日本語が分からない子のために国際教室を設けて日本語指導をするが、基準は児童20人に対し先生2人。教員は増員されず需要に追いつかない。授業が一番多い児童でも週に3コマだ。通訳できるボランティアを学校が探すが、多くは定着しない。
藤田耕平校長(53)は「日常会話はできても、ものを考える基礎になる学習言語を学ぶには時間がかかる。学習する権利が十分に満たされていない」と危機感を募らせる。
日本語が中途半端なまま孤立感を抱え、社会から疎外されていく子も少なくない。
狭い道路に面した12畳程度の1室で、外国の子どもの勉強を教えたり相談にのったりする支援を32年続けるNPO法人「信愛塾」(同区)。理事の竹川真理子さん(60)はそんな子を大勢見てきた。
今月、塾に姿を見せたという日本生まれのフィリピン国籍の青年(21)もその一人。「竹ちゃん、体に気をつけろよ」と、かつての教え子は竹川さんに笑った。高校は中退、少年院にも入った。今は全身に昇り竜の入れ墨。「外人の『外』は害虫の『害』と言われてきた。これで日本人と線を引く」。青年は入れ墨を指して言ったという。
竹川さんはその姿を思い出すと悲しくなる。「あまりにも小中学校で放っておかれたまま成長した。言葉の壁が越えられないと、心の壁も越えられない。彼は言葉で将来を考え、心の奥底を表現する力がつかないままだった」
「輝く前途」。青年が中学生の時に書いた習字が、塾の壁にはまだ張ってある。
●文化認め自信に
言葉ができず、孤立感を抱えた子にどう向き合うか。
1月半ば、竹川さんは、2年半前に中国から来た中学3年の少年(14)と、公立高校の面接準備をしていた。
「僕は中国から来て言葉で苦労したから……、今小さい子どもたちに通訳したり勉強を教えたりしていて……、その長所を伸ばしたいです」。一つ一つ言葉を絞り出す。
「あなたはこれだけ短期で日本語ができたのだから、自信を持って」。竹川さんは終始、少年を励ました。
中2の夏、少年は塾に来た当初、ずっと下を向いていた。「学校で周りが話すことが全然分からなかった。どうしようって、ずっと緊張していた」と少年は振り返る。
竹川さんは最初の2カ月間は子どもの母国語で指導する。1対1で分からないところを教えてもらい、少年は安心できた。様々な国の子どもたちが自由に学び、中国人である自分を隠すこともなく、ありのままでいられた。
2週間後、少年の顔がぱっと上がるようになった。中学の修学旅行でも班を積極的にまとめ、「わからない」という言葉を秋ごろから言わなくなった。少年は今、塾で、新しく来たかつての自分のような子どもの面倒をみている。
藤田校長も「言葉だけ教えればいい、日本になじめ、というだけでは子どもたちはストレスを起こす」と言う。
南吉田小は昨年9月から、母国の文化や習慣に誇りを持たせようと、その国の楽器を演奏したり遊びをしたりする「国際の時間」を設けた。無口な韓国人児童が真剣に楽器を弾き、別の一角では中国児童がコマ回しに熱中した。
母国の文化や習慣を認められているという感覚。「アイデンティティーが大事にされていると思えば自信がつく。外国人でも日本人でも、隣の人のことを考え、お互いを認めあう子が必ず出てくる」
行政もようやく一歩を踏み出した。市は、日本語が話せない住民や親子のために2月末から初の日本語教室を無料で開く。国際政策課は「行政が遅れていた。外国人も根ざした地域づくりの必要がある」と話している。
■外国人登録者の多い県内自治体
市 外国人登録者数(人) 外国人比率
横浜市 78889 2.15%
川崎市 31468 2.23%
相模原市 11011 1.55%
大和市 6201 2.75%
藤沢市 6115 1.50%
(外国人登録者数は法務省発表。外国人比率は2009年10月1日現在)