多文化共生なTOYAMA

多文化共生とは永続的なココロの営み

オピニオン’08 リリアン・テルミ・ハタノさん /滋賀

2008-05-02 10:31:37 | 多文化共生
(以下、毎日新聞から転載)
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オピニオン’08 リリアン・テルミ・ハタノさん /滋賀

 ◆甲南女子大准教授 リリアン・テルミ・ハタノさん(40)=京都市
 ◇日系ブラジル人の子をサポート ニューカマー教育に理解を

 日本からブラジルへの最初の移民船が神戸港を出港した日から28日で丸100年。90年の入管法改正以降、定住が可能になった日系人とその家族が多く労働目的で来日している。日系ブラジル人2世で、近畿で最も日系ブラジル人が多い県内の在日ブラジル人社会で、子どもたちの状況を研究し、サポートもする甲南女子大(神戸市)准教授のリリアン・テルミ・ハタノさん(40)=京都市左京区=に課題などについて聞いた。【服部正法】

 --日系人の子どもたちの現状は?

 以前は親と来日した子どもたちが日本語が分からないことが主な問題だったが、最近は赤ちゃんの時に日本に来たか、こちらで生まれた子が多く、ブラジルの方が外国に近い感覚だ。しかし、親は定住する決断がつかず、ポルトガル語で暮らす。子どもにとっては日本人化するか、ポルトガル語の世界しかなく、両方の言語や文化を尊重して受け入れる教育の場がない。

 --県内の教育は?

 高校進学率がとても低い。高校は遠い存在で、「行けない」というあきらめムードがある。愛知県とか他のブラジル人の集住地域は高校に行く子は多いと思う。滋賀の高校入試での特別措置は試験時間の10分延長と、問題にルビが振られているだけで、これだと日本の学校に途中編入した子は厳しい。大阪や奈良には「ニューカマー枠」があるが、滋賀にはない。

 日本で生まれたり、赤ちゃんのころから日本にいる子でも学力や語彙(ごい)が少ない。家庭で親から学ぶというサポートは、親が日本語ができず、お手上げだ。家庭での読み聞かせなども影響するだろうし、家庭内のコミュニケーションが取れていない子は、取れている子と比べると、同じものを見ても(理解力の)状況が全然違う。母語教育を誰がどう進めていくかが課題だ。

 --在日日系人に関心を持つきっかけは?

 ブラジルの日系社会で日本語を教えているうち、教え子がどんどん日本に行くようになり、ニューカマー教育に興味を持った。言語習得の領域を調べようと来日したら、とても習得どころではない現実があった。

 草津の日本語教室で教え始めた後、大阪で中国帰国者の子どもの居場所作りがされているのを参考に、作ったのが「子どもくらぶ『たんぽポ』」。当初は、親と来日した子に日本語を教えることが多かった。その子たちは見事に日本の学校に行かなくなっていく。学校側からも「あの子たちは義務教育じゃない」と大した引き止めもなく手放されていく。警察に捕まったり、荒れる子も出た。

 今度は子どもの多くがポルトガル語を話せない状況になり、「ポルトガル語を教えて」という話が出て、今は6歳~中3の10人ぐらいに週1回、ポルトガル語を教えている。覚えたてのポルトガル語で子どもがはがきを書くと、母親が泣いたりする。ある親は「子どもと一緒に聖書を読めるようになるとは思わなかった」と感激していた。

 --学校現場に感じることは?

 関西は(被差別)問題や旧植民地からの在日の人が多く、人権教育をしっかりやってきたはずなのに、ニューカマーについて同じ事を繰り返しているように見える。人権教育の歴史と実績があるのに。不就学の問題や親の雇用が不安定なことを在日コリアンらと話すと、「自分たちが経験したような話」と言う。背景は違うが実態は同じだ。先生たちはニューカマーについて「初めての対応」というが、(過去の経験を生かさず)常にゼロからのスタートになるなら、100年たっても状況は変わらない。

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 ■提言

 ブラジル人のニーズは何かなど個別ニーズを考えることは必要だが、まず皆同じ人間ということから考えることが大事。高齢者や障害者、外国人が切り捨てられることは、多数派の人たちも無関係ではなく、自分たちの人権も無視されることにつながる社会と考えてほしい。

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 ■人物略歴

 日系ブラジル人2世。ヒオ・デ・ジャネイロ連邦大卒。97年、大阪大大学院言語文化研究科修士修了。01年、甲南女子大専任講師。04年、同大学助教授。99年、草津で日系人の子どもたちの居場所と日本語学習の場「OLIVE KIDS CLUB」(後に「子どもくらぶ『たんぽポ』」に改称)を始めた。

毎日新聞 2008年4月29日 地方版

外国人教育問題、教師の接し方がカギ

2008-05-02 10:30:47 | 多文化共生
(以下、神戸新聞から転載)
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外国人教育問題、教師の接し方がカギ

(写真)
「外国人の子どもには、手のあいた教師やクラスメートの協力が不可欠」と話す矢持さん=神戸市中央区、旧神戸移住センター

 文化も習慣も異なる日本で、自分の意志とは関係なく新しい生活を始める外国人出稼ぎ労働者の子どもたち。日常会話はすぐに覚えても、教師が使う学習用語は、ほとんど理解できていないケースが目立つという。兵庫県教委の「子ども多文化共生サポーター」として、篠山市で日系ブラジル人の子どもを支援してきた矢持・ヴェロニカ・ミチコさんが、このほど神戸で自身の体験を報告した。(井原尚基)

 矢持さんはサンパウロ出身の日系三世で、一九九九年から学習支援活動を続けている。「国際化」という言葉は一般的に華やかなイメージを伴うことが多いが、日本語が分からない子どもたちが通う学校にとっては、日常的で生々しい問題となっている、という。

 例えば、小学五年生の自然学校(五泊六日)を一週間後に控えた時期に、児童が転入してきたケース。学校側は受け入れが大変で、矢持さんが基本的なあいさつからトイレの使い方、風呂の入り方までを指導して送り出した。「彼の心細そうな顔はいまだに忘れられない」と振り返る。

 一方、小学校の早い時期に入学した児童は、学習面でも生活面でも比較的順調になじめるが、両親がなかなか日本語を覚えられず、家庭内で意思疎通ができなくなるケースがある。帰国に備え、ポルトガル語の読み書きやブラジルの歴史を学ばせたいという父母もいるなど、ニーズは幅広い。

 矢持さんによると、担任の教師が外国人の子どもをどのように思うか-ということが、その子どもに対するクラスメートの接し方に大きな影響を与える。「教師は、外国人の子どもが特別な経験や知識を持った“貴重な存在”であることを子どもたちに印象付けることが大切」と訴えた。

子ども多文化共生サポーター 2002年度に始まった兵庫県教委の教育支援制度で、101人が県内各地の公立小中高校で活動している。中国語、ポルトガル語、モンゴル語など20言語に対応し、昨年9月現在、634人の子どもたちを支えている。

(4/29 10:38)