森人 もりと

森では人も生きものも ゆっくり流れる時間を生きています

仲良し

2016-07-04 | 日記


 海岸へ抜ける道のすぐそばの、気を付けてなければ走り過ぎてしまいそうな、小さな林の
陰に、この子はいつも一頭だけで静かに草を食べています。
 通るたびに、ちょっと寄って声を掛けていたら、今ではすっかり仲良しになりました。

 たぶん役割を終えた競走馬なのでしょう。人なつっこいところを見ると、大事にされて来
たのだと思われます。時には勝ってチヤホヤされたこともあるのかな。
 好物の葉っぱを何本か摘んでお土産に持っていきます。オッチャンを見つけると急いで駆
けてきてバリバリ食べた後は、静かに話を聞いています。時々耳をピクピクさせながら。

 いつも頭の毛を撫でて帰るのですが、オッチャンの姿が見えなくなるまで、見送ってくれ
ます。



 野生の動物も、目的のために作られた動物も、いや人間だって、親のためにつくられた人、
たまたま生まれた人、それぞれ心を持っているから、触れ合って繋がることができるのでし
ょう。

 昔読んだ「カズオイシグロ」さんの小説の中に、臓器移植のために作られた人々の村、つ
まり臓器提供者が生活するための専門の村が、イギリスの、とある人里離れた森の中にあっ
て、そこで暮らす若者たちの織りなす、さまざまな人間関係のお話が綴られていました。
 村人には生まれた時から、徹底した教育を施すから、皆当たり前にその運命を受け入れて
短い一生を終えるのですが、どんなに洗脳しても、生来の純な心だけはどうにもできないの
です。だからその部分で若者たちがお互いに触れ合ってしまうのです。運営者にとってこれ
が一番やっかいな問題でした。



 人と人、人と生きもの、ある時出会って心がかみ合って、そして別れて、時々想い出しな
がら、そう長くはないうちに消えて行くのでしょう。

 今日も、夏の盛りの太陽はみんなの頭上で、笑顔を見せていました。


                                動(yurugi)