瀬崎祐の本棚

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詩集「ASAPさみしくないよ」 尾久守侑 (2018/11) 思潮社

2019-01-29 17:27:43 | 詩集
 第2詩集。100頁に17編を収める。
 都会である。東京である。スカイツリーを思わせるイラストの表紙にかけられている半透明のカバーには東京地下鉄の路線図が描かれている。
 そして都会の詩である。洒落ていて、軽くて、不特定多数で、対象を識別するための名前は符丁でしかない世界が展開される。

 「ドラマタイゼーション」では、「それがないものねだりと知っていて/明日にうそをついた」と始まる。流れていく大勢の人がいるのに、その人たちは話者にとってはまったくの無名の存在のままで、ただ目の前にいる。そんな場所では、わかれるほどの出会いもないのだろう。

   自分をたいせつにしない人
   へんだよって、君が去っていく
   普通かよ
   普通の言葉でおわかれかよ

 最終部分は「バタンと車のとびらがしまって/また君が去っていく」。君とはまた明日会うのかもしれないが、それはいつも同じ運賃の距離をタクシーに乗るようなことかもしれない。

  詩集なかほどに饒舌独白体の2編がある。行頭をずらし、表記にもリズム感を作っている。この饒舌から生まれてくるものは何なのだろうかと考えてしまう。それは読み手である私(瀬崎)にとって意味のあるものだろうか。当然のことながら、作者が求めたものと、読み手が受け取るものは乖離する。いや、生まれてくるものがあるのか。いや、生まれるものを望んでいるのか。そんなこととはまったく無縁の地点で発語しているのだろう。

このブログでの表記の関係で、後半の作品「空からなにも降ってこない」の最終部分を引いておく。前詩集に比べると、気持ちのひだの陰影が濃くなっている。

   夢ならば
   記憶のなかならば
   連続ドラマがはじまるよかんのなか
   全力疾走でたどりついたグラウンド
   人工芝に大の字にねころがって
   青空を見上げれば
   空からなにも降ってこない

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