瀬崎祐の本棚

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続左岸  39号  (2018/03)  京都

2018-04-27 17:11:05 | 「さ行」で始まる詩誌
1年半ぶりに発行された女性3人の瀟洒な紙誌。

「すみれいろ の」山口賀代子。
「みどりこさん」だった芽は成長して「すみれこさん」になる。童話のような語り口の作品なのだが、そこには見かけ上の可憐さとはうらはらな意地悪さも、当然のようにある。

   ときどき 「みどりこが遊びにいってませんか いたら家にかえるように
   つたえてください」と電話がかかってきます
   すみれこさんは隣の部屋でわたしのつくったカレーライスを食べているのですが
   電話がかかってもしらんふりしています
   それで「みかけたら つたえますね」とこたえるのですが
   そのことをすみれこさんにつたえたことはありません

春も過ぎていくと「すみれこさんは∞(むげん)に増殖しつづけて」家の中じゅうすみれこさんに占領されてしまうのだ。それは可愛さが持つ無垢故の暴力性といえるのかもしれない。

「熟夏」新井啓子。
3節からなる比較的長い行分け詩。夏の光景がうねるように展開されていく。電車に乗れば「あなたと一緒に迷った山が」見え、海辺からは「バスで岬の灯台まで行」く。

   手前から遠くから
   押し寄せてくる水色の波頭をかきわけて
   あのむこうの
   木の茂るあたりに 行き着きたい

   靴の底にしんみりついてくるため息や
   間合いのあるちょっとした奇声を
   抱くようになだめて

夏にまつわるイメージが豊かに広がっている。どこまでも開放的で、だからこそ懐かしさもあるこれまでのことを振りはらわなければならない季節でもあるのだろう。こうして夏は熟していき、旅立ちも必要になる。その日には「小石をふたつポケットに/すりあわせながら飛んでゆく」(最終部分)のだ。
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