224頁。3つの章からなり、合わせて156編が収められている。帯文はあの帷子耀。
「すくなさのために」は2018年に書かれた50編で、3行から8行の長さの作品。平仮名表記が多く、紙面の余白と文字の形の滑らかさが調和している。作品の短さから、その全体が視覚でも脳内でも同時に捉えられるようだ。そこでの作品世界は時間が切りとられたものとして、静止した構築物となっている。
わかれのときならゆうぐれがただが
わかれどころはきっと中州だろう
足場のわるさがたたずみをよわらせ
あかる河口をおのずとみやるおり
順序のうまれることがわかれとなる
(「中州」全)
作品の成立に向かう感情や感覚から不必要なものを次々に削り取り、最後に残った核のようなものだけを取りだしている。だから、作品は不必要に折れ曲がることもなくすっきりと読み手に届く。心地よい。つまるところ、詩を読む楽しさはこんな風に心地よさを味わうことかと思ったりもする。
「かけら世の」は2019年に書かれた55編で、やはり平仮名表記が多いものの、作品の長さは15行から25行で連分けもおこなわれている。ここではその行は視覚的に流れるように捉えられ、脳内でも時間が動いていく世界となっている。たどりついた先を見せるのが目的ではなく、そこへ向かっている動きそのものを見せることが目的であるように感じられる。
ああ、よこたわるひとをみると
動機するのはなぜか
死んでいると錯覚するよりさきに
いとしい横臥がみずたまりとおもえる
つきあいの発端もあったはずで
(「山麓通り」3連目)
2020年に書かれた51編の「からだのこし」では、作品は再び3行から8行の長さとなっている。そしてふたたび作品の時間は静止する。このように作品に流れる時間は静から動へ、そして静へと戻る。この変化が1年ごとに生じているということは、作者の中で詩集は起・転・結をもったものとしてあらわれたのかもしれない。
みずへふかくしずめると
おぼろをますくだものふたつに
そのときの左右ならあるが
みなそこをわたる秋風でまどい
やがてともにふかくほぐれる
(「左右」全)
「換喩詩学」などの著作もある作者なので、もちろんさまざまな喩の技法が駆使されている。しかし喩は、磨かれるにつれて喩であることから自由になっていくようだ。言葉は何かの意味をあらわすためにあるのではなく、次第に使われた言葉そのものとなり、意味を担いながらもその手段としての存在からは解き放たれていく。
「すくなさのために」は2018年に書かれた50編で、3行から8行の長さの作品。平仮名表記が多く、紙面の余白と文字の形の滑らかさが調和している。作品の短さから、その全体が視覚でも脳内でも同時に捉えられるようだ。そこでの作品世界は時間が切りとられたものとして、静止した構築物となっている。
わかれのときならゆうぐれがただが
わかれどころはきっと中州だろう
足場のわるさがたたずみをよわらせ
あかる河口をおのずとみやるおり
順序のうまれることがわかれとなる
(「中州」全)
作品の成立に向かう感情や感覚から不必要なものを次々に削り取り、最後に残った核のようなものだけを取りだしている。だから、作品は不必要に折れ曲がることもなくすっきりと読み手に届く。心地よい。つまるところ、詩を読む楽しさはこんな風に心地よさを味わうことかと思ったりもする。
「かけら世の」は2019年に書かれた55編で、やはり平仮名表記が多いものの、作品の長さは15行から25行で連分けもおこなわれている。ここではその行は視覚的に流れるように捉えられ、脳内でも時間が動いていく世界となっている。たどりついた先を見せるのが目的ではなく、そこへ向かっている動きそのものを見せることが目的であるように感じられる。
ああ、よこたわるひとをみると
動機するのはなぜか
死んでいると錯覚するよりさきに
いとしい横臥がみずたまりとおもえる
つきあいの発端もあったはずで
(「山麓通り」3連目)
2020年に書かれた51編の「からだのこし」では、作品は再び3行から8行の長さとなっている。そしてふたたび作品の時間は静止する。このように作品に流れる時間は静から動へ、そして静へと戻る。この変化が1年ごとに生じているということは、作者の中で詩集は起・転・結をもったものとしてあらわれたのかもしれない。
みずへふかくしずめると
おぼろをますくだものふたつに
そのときの左右ならあるが
みなそこをわたる秋風でまどい
やがてともにふかくほぐれる
(「左右」全)
「換喩詩学」などの著作もある作者なので、もちろんさまざまな喩の技法が駆使されている。しかし喩は、磨かれるにつれて喩であることから自由になっていくようだ。言葉は何かの意味をあらわすためにあるのではなく、次第に使われた言葉そのものとなり、意味を担いながらもその手段としての存在からは解き放たれていく。
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