瀬崎祐の本棚

http://blog.goo.ne.jp/tak4088

詩誌「星時計の書」 (2023/09) 埼玉

2024-02-06 22:37:19 | 「は行」で始まる詩誌
同人は有働薫、野村龍、細田傳造、もえぎの4人で、2021年3月から2年半のあいだウェブ上で活動したとのこと。今回の紙媒体の詩誌はそのウェブ上の1~10号の詩編を合冊としてまとめたもの。

「かば」細田傳造(2021/126公開の4号より)。
じいかばさんはものを食べなくなって動物をやめ公園のさるすべりの木になった。すると清掃係の女性が「すべすべの肌をしているねぇ」と触ってくれる。「惜しいことをした/早くから木になっていればよかった」なんという脳天気な展開であることか。読んでいて嬉しくなって、思わず頬がほころんでくる。最終連は、

   マドモアゼルのことはどうでもいい
   マゴが触りにくるのを待っている
   もうかばではない
   風にそよぐ思考する一本の木だ
   ヒポクリートだ
   痩せている

「廃港」有働薫(2022年6月公開の6号より)
かつての機能を失った設備がそのまま錆びついている。硬く、情緒的なものを失ったそれは死んだ風景なのだ。

   愛が暴力を抱いているのが見える

   浜の僅かな草地に薄紫の花大根が群れ咲き
   波打ち際に飴色のワカメの切れ端を拾う
   曇天の下
   チェロの低温部が響くように波の
   岸辺を打つ単調なリズムだけが途切れなく続く

この茫漠としたような静止した無機物の世界にも、花大根やワカメの切れ端といった生命は割り込んでいて、自然の営みである波は動き続けている。

「雲」野村龍(2023年6月公表の10号より)
端正に整えられた2行ずつの7連から成る。濁ったものを取りのぞき、その果てに清んできたものをていねいに言葉にしているようだ。それゆえに作品はクリスタルのように硬質でありながらどこまでも明るい。ここにいたるまでには大変な忍耐と努力を要したのではないだろうか。

   遠くへ光を放て
   剥かれた言葉の殻の彼方へ

   螢の指先は霧の濁りを削ぎ
   茉莉花の掌はくぐもった明日を拭う

「大気圏外で書かれた言葉たち」との副題を持ったウェブ上の活動は一区切りをつけるようだ。意欲的な試みだったと思える。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 詩集「彼女は待たずに先に行... | トップ | 詩集「それから それから ... »

コメントを投稿

「は行」で始まる詩誌」カテゴリの最新記事