瀬崎祐の本棚

http://blog.goo.ne.jp/tak4088

詩集「The inland sea」 タケイ・リエ (2019/07) archaeopterys

2019-07-22 14:37:38 | 詩集
 64頁の軽装な詩集。東京ポエケットに合わせて作成されたようだ。
 詩集タイトルは瀬戸内海のこと。島の名を冠した作品14編(うち2編は瀬戸内海を挟む2つの港名だが)を収める。実際に島々を(そして港を)訪れた際の感興を掘りおこしての作品化なのだろう。

 鬼ヶ島伝説が残る「女木島」。人気のない小学校の中庭にはブイが立っていたのだ。訪れた光景からの想念が作品となる。その場所は女木島でなければならなかったのだが、作品となった時点で、そこはどこでもない場所になっていく。

   ジャングルのなかで
   ブイがひとりで立っている
   ブイは夜ごと点滅灯を光らせ
   空に向って生きる女の顔になってゆく
   群れることからはずれても
   誰かと響きあえたら
   わたしだって生きていける

 瀬戸内海の島々のなかで最大の「小豆島」はいろいろなドラマの舞台にもなってきた。古くは壺井栄の「二十四の瞳」もあった。この作品には角田光代原作の映画「八日目の蝉」の一場面も出てくる。たしかに「その子は/まだ ごはんを食べていません」は一番印象に残る台詞だった。

 「大島」では、今も入所者が暮らすハンセン病療養所「大島青松園」が詩われている。ちなみに同じ瀬戸内海の長島には「長島愛生園」、「光明園」がある。そして海を挟んだ四国は、病のために村から追われ定住することができなかった人々が死ぬまで歩きつづける遍路の地であった。

 島々の大半は過疎になっているという。陸地の沈降によって山だった部分だけが海面から突きでて残った島ばかりだから、どこも急斜面であり、わずかな平地部分に人が暮らす。「高見島」も三角形をしていて、人口は44人とのこと。

   ひとが消えた家の屋根に小さな穴が開く
   わずかな光が霧のように降りそそぐ
   港のちかくの家では光の線が貫通する
   もうだれも住まないことをみんな知っている

 カニエ・ナハの装幀は、本州と四国に挟まれた内海に点在する島々を淡い水色で図案化していた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする