瀬崎祐の本棚

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詩集「約束」 葉山美玖 (2019/07) コールサック社

2019-07-07 12:57:02 | 詩集
第3詩集。127頁に32編を収める。鈴木比佐雄の解説が付いている。
この詩集の作品には、作者のこれまでの自分、今の自分が飾らずに投げ出されている。それは自分をどのように認識して生きてきたかという道程の記録でもある。

 句読点なしにびっしりと性急な感じで提示される散文詩「収穫祭」は、その基調を伝える。

   もともとその頃なにかに失敗すると母親に納戸に連れ込まれてお仕置きに悪戯されて
   いたからそんなことかとおもって泣きもしなかったらなお怖い目でにらまれたわたし
   はまだ産まれていない母親は料理を作ってどんとならべて夜はてきとうにふとんをひ
   くだけだったから弟とふたりで適当にその辺で寝た

 もちろん書かれた事柄が事実である必要はないのだが、少なくともそこには作者がこのように書かなければならなかった家族環境や親子関係があり、そのなかで作者は育ってきたのだ。前詩集「スパイラル」でまとっていた寓話のような意匠を取り払ってもいる。それだけ作者が強くなったということかも知れない。

後半に収められた「成長」は、家族関係の呪縛から抜けだして新しい人間関係のなかで生き始めている話者がいる。あなたが背筋をしゃんとしてくれて、スーパーマーケットで疵のないアボガドを買い、LINEでのメッセージも届くのだ。

   女友だちがいて
   世間体がなくて
   深夜に泣けて
   親をもう必要としない

   危うさを孕みながら
   生きている

詩は誰のために書くか、詩を何のために書くか、といった根本的な問題を考えることがある。この詩集にはその答えがある。詩は自分のために書くのであり、詩は自分が生きるために書くのだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 巻末に「あとがきに代えて」と添え書きされた「天窓」という文が載っている。電車の窓から「あれきり戻っていない実家の屋根が一瞬だけ見えた」のである。20年間閉じこもっていたという部屋の天窓が小さかったことに、作者は今さらながらに驚いている。そう思えるこの地点へ、詩を書きながら作者はやってきたのだ。
コメント (1)
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