瀬崎祐の本棚

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詩集「幻花の空」  橋浦洋志  (2016/02)  砂子屋書房

2016-03-06 22:13:44 | 詩集
 122頁に20編の詩と1編の論考が収められている。
 詩集すべてがあの3.11から始まっているようだ。津波は自然災害であるが、原発事故は人的災害であった。それに対する原初的な怒り、恨みがここにはある。
 巻頭の「季語」の途中では、二字熟語、あるいは三字熟語、四字熟語が隙間なく並べられる。例えば、

   安全宣言基準不明汚染全国
   火災密室会議廃棄不能埋立
   破廉恥罪最新技術不良商品
   差別労働身元確認複雑構造

 個々の単語は言い古されたものだが、ここまで密集した塊として表記されると迫力を伴ってくる。それも無機質な人間性を失ったものとして、だ。作者の狙いもそこに在るのだろう。
 残りの19編の詩はすべて1行24字の散文詩で、5行5連からなっている。各連には文字の空いている箇所はなく絨毯のように言葉が敷き詰められている。「杭」からその2連目、

   杭が海岸線に打ち込まれ村に箝口令が敷かれた小川の
   水は月明かりとささやき稲の穂先はひそひそ揺れてあ
   ちことの土が身じろぎし新しい火の神を迎えた村の衛
   兵たちが戸口に立ったその晩静まり返った畑に季節は
   ずれの霜が降りた野菜は萎れ杭が墓標のように並んだ

 巻末には「地震・津波と原発、この相容れぬもの」と題された論考が置かれている。詩集としては異例な構成であり、あえてこの論考を収めることの意味は作者が熟考したところであろう。強い意志を感じる。
コメント
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