瀬崎祐の本棚

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いちばん寒い場所  73号  (2016/01)  船橋市

2016-03-10 18:34:15 | 「あ行」で始まる詩誌
 A4版用紙11枚を無造作に束ねた体裁の八木忠栄の個人誌。詩4編、それに長田弘、寺山修司、萩原朔太郎についてのエッセイが収められている。
 ぶっきらぼうなたたずまいなのだが、その内容は重低音が自在に跳ね回っているような迫力に満ちている。表紙には杉浦茂の漫画「雨月物語」があしらわれている。
 「キャベツと爆弾」は13行の作品。うす暗い断崖の町の陰裂にキャベツと爆弾を積み込んだ列車が列車がすべりこむ。この地方はまだ寒く、駅長は母親と泣く赤ん坊を叱っている。意味や理屈を超えて作者に訪れた気持ちを、こうして顕在化させている。それも、がつんという確かさでだ。

   廊下でやかんが煮えくりかえっている
   できたての弁当はいらんかね?
   それでも町の夜は
   明けてくるかしらん。

 「雪雲」。山里から時季はずれの雪雲が見えて、その「みはるかす雲は 人骨を/五、六本呑みこんでいるらしい」のだ。春が来ようとしている浮き立つような、それでいてその浮き立つ気持ちがどこか不穏なような、そんな気分が、あっけらかんと伝わってくる。

   ちいさな木の芽みな バクハツ
   山脈は起きあがって 風は裂ける
   人骨が笑いはじめます

 エッセイ「若き長田弘との接点」は、作者が「現代詩手帳」の編集長をしていたころの逸話から始まる。そして彼の詩集を担当したことなどがあって、昨年、作者は長田弘が選考委員をしている詩歌文学館賞を受賞した。そのお礼状を書いた二日後に長田弘氏は急逝されたのだった。余情のある内容だった。
コメント
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