瀬崎祐の本棚

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詩集「その器のための言葉」  宮内喜美子  (2015/05)  砂子屋書房

2016-03-21 13:58:18 | 詩集
 第5詩集。133頁に17編を収める。
 アメリカやベトナム、インドなどで必死に歩き続けている。それはあてもない彷徨というよりも何かを探し続けてのものようだ。焦りのような逼迫さもある。
 「前線」では、「世界の前線から遠く離れたところにわたしはいる」と書く。そんな自分の立ち位置の認識があるのも、”世界の前線”がいかに悲惨な状況であるかを感じている自分がいるからだ。

   枕に耳をつけると
   さらさらさらさらと頭蓋の内側で
   なにかが崩壊してゆく音が聞こえる

 ついには「それとも わたしという存在こそが暴力だったのか」と繰り返し自問する。インドシナやチベット自治区、ウィグル自治区。前線から離れたところにいること自体が加害者の立場なのではないかということなのだろう。最終連は、

   夜の公園のブランコが遠ざかってゆく
   闇の重力にしんとして
   この奥深い夜に吊り下げられたまま

 「水鏡」は、暗い水面に映る自分の姿に不安を見ている作品。というよりも、不安があるから”水鏡”のなかに隠されているものを感じているのだろう。

   そちらの世界は
   どうなっているの?
   (思いがけず水面下の動きで湧きあがる水泡や
    つぎつぎにひろがる波紋の乱れでしか
    うかがい知るすべがないのだけれど)

 詩集の最後には「水面」という作品も収められていて、そこでは「耳の奥の水面が/揺れ」るのである。
コメント
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