瀬崎祐の本棚

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詩集「草の声を聞いた夜」  星野元一  (2014/07)  土曜美術社出版販売

2014-08-05 23:15:10 | 詩集
 作者は個人誌「かぎゅう」を発行していて、先日45号をいただいている。主にそこで発表したものを、92頁に24編を収める。
 裏表がまったくない人物などというものはありえないのだろうが、この詩集の作品を読んでいると、ふいっとそういう人物もいるのかもしれないと思ったりもする。それほどに、差し出されてきたものを気持ちよく受けとることができる。
 「ズボン」は、裏返されて横向きに干されているズボンを詩っている。なんでもない光景なのだが、ズボンのがそのような状態でそこに在るのには、「汁がこぼれるし/飯粒がこびりつくし」と、それなりのズボンにとっての物語も背後にはあるわけだ。

   空は秋
   ズボンも飛んで行きたいのだ
   南の国の方に
   そうか といって寺の鐘がなるが
   電灯はまだ点かない
   どうしたというのだ
   女は

 ズボンに託しての心情があるわけだが、最終部分は「家の中には 朝から/ズボンを探している男がいるというのに」と終わる。哲学的な雰囲気を漂わせる詩行をはさみながら、なあんだというような肩すかし感を持ってくるところが巧みである。
 口にするのはちょっと照れてしまう言葉、「すきなんだ」を詩った「もう一度」も、素直に読める作品であった。
コメント
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