瀬崎祐の本棚

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詩集「生樹の門」  在間洋子  (2013/10)  土曜美術社出版販売

2013-12-15 10:22:39 | 詩集
 詩集としては5冊目か。117頁に31編を収める。伊藤桂一の跋が付いている。
 日常生活のなかでの事象から呼び起こされる感情を、親しみやすい素直さで書きとめている。
 「百円ショップの時計」では安価な時計が詩われている。文字盤が大きくて見やすいが、音も大きく深夜には靴音のように聞こえるのだ。うるさいよと時計に文句を言うと、時計が答える、

   一足一足向かっているのさ
   おいらの寿命の尽きる時
   あんたの終わりのその時へ
   世の形あるものも無いものも
   潰え消え去る闇へさえ

 たしかにすべての生あるものは終わりに向かって時を過ごしているわけだ。しかし作者は「その時を/忘れたふりして眠っていたい/わたしを起こすな/たった百円の分際で」と、少しユーモラスにそのことを受け止める。この明るさが気持ちよい。
 そして、なによりもこの詩集にあるのは優しい心である。昏睡状態にある義母を見舞った作品「あくび」では、眠ったまま小さな咳をしてあくびをする様が描かれている。そして

   生の炎を閉じていくことは
   生の炎を点しはじめたころにもどること
   そして もどっていく先は
   闇へ ではなく ひかりの中へ
   新しいひかりの中へ生まれること

 作品を読んだ者までもが優しい気持ちになっていくようだ。
 この優しさは、夫や子供たち、さらには目にした花や樹木、動物たちにもそそがれている。
コメント
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