瀬崎祐の本棚

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詩集「雛の帝国」  花潜幸  (2013/10)  土曜美術社出版販売

2013-12-07 10:54:48 | 詩集
 第2詩集。93頁に散文詩38編を収める。
 掌編小説を思わせる語り口で物語をくっきりと提示してくる。詩とか小説とかの区別に拘泥する必要は全くないのだろうが、ここにあらわれているのは、やはり詩である。小説は言葉により意味を伝えようとする。それに比して詩は、言葉の意味を超えたものを伝えようとするものだと、個人的には思っている。
 「色水」は「遠い遠い朝」のことを詩っている。子どもにも別れがあり、何よりも真剣な約束もあったのだ。そして、その朝を経験したことによって子どもではいられなくなったのだ。美しい抒情的な作品。

   紐についた遊びの先を小指に結んで、きっと忘れた約
   束のことを寝言に丸めながら、走って行った高い松の
   木の上で何度もつかんだ友達の手の平のことを静かに
   見詰めて、「君が行くなら、僕だって行くよ」と何度
   も言った、あの引越しの、そうだよ、あの朝だったよ、
   あなたと僕とが最後に二人の子どもでいた朝は。あの
   日ぼくはあなたが花で作った色水を黙って飲んだ。残さ
   れたのはそれだけだったから。

 「星のある部屋」は、「女が来ていると、郵便屋さんが言」ったり、「男が来ていると、豆腐屋さんが言」ったりする作品。もちろん何処を探してもそんなものはなく、ただ「夜の前の冷たい永遠が熊のように縮んで」横たわっているだけなのだ。夜の静かな孤独感のなかで書き始める手紙が印象的だ。
 こうして切り取られたそれぞれの情景が、言葉で説明された以上の情感を伝えてくる。
コメント
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