桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

シルクロード・その11

2005-02-13 20:36:34 | 旅行記
陽関から帰って、ホテルで昼食を済ませた。この後は、次の訪問地・トルファンへの夜行列車に乗るため、柳園駅まで3時間ほどかけてバスで向かうことになっている。

Iさん親子の髪型が変わっている。聞けば、旅先で髪を切るのが趣味だそうで、二人とも街角の床屋さんでカットしてもらったのだそうだ。面白い人もいるものである。

予定通りバスは出発した。敦煌の町をすぐに通り抜け、北に向かってまっすぐな道を進み始めた時、Kさんが突然バスの車内前方へ進み出て、「すみません。大切な物をホテルに忘れてきてしまいました。これから取りに戻っていただいてもよろしいでしょうか。」と言った。聞けば、肌身離さず持ってきたギターを置いてきてしまったのだという。Tさんがどこへ行くにもそのギターを持ってきていたのを皆知っていたし、敦煌の町を出て間もなかったから、皆了解した。しかし、このことがこの後思いも寄らぬ幸運をもたらすのである。

ホテルに引き返し、再び出発した。私はすぐに眠り込んでしまった。どれくらい経った頃であろうか。突然大きな音を立ててバスが止まってしまった。音からしてどうやら左の後輪がパンクしたようである。周囲は一面の砂漠。わずかに柳の木や草が生えている程度である。気温は40度を軽く超えている。全員がバスから降ろされ、運転手がスペアタイヤに交換し始めた。日陰はほとんど無く、わずかな木陰か、バスの陰にいるほかない。熱風が容赦なく吹き付け、皆無言で修理を見ている。何とかスペアタイヤに交換できたものの、何とこれも空気が抜けており、全く使い物にならないことがわかった。皆に失望感が広がり、ガイドのTさんはスルーガイドの女性や現地ガイドに「これで私たちが列車に乗れなくても、責任は取っていただけますよね。」と詰め寄っている。でも、不思議なことに、ツアーの参加者からは全く不満が出ない。というか、あまりに暑すぎたのと、失望感とで、そんな口もきけなかったのだと思う。

どうしようもないので、現地ガイドの人がヒッチハイクをし、敦煌の町へ戻り、新しいバスを呼んでくることになった。しかし、ただでさえ車の通りの少ない道路である。なかなか対向車は来ない。ところが、間もなくそこに、何と現地ガイドが勤める事務所の車が通りかかったのである。何という幸運だろう。まさに天の助けである。そう、あの時Kさんがギターをホテルに忘れていなければ、あの車とここですれ違うことはなかったのである。KさんはまずTさん(夫)から、ついで皆から感謝されて、恥ずかしそうだった。現地ガイドはすぐにそれに乗り込み、敦煌の町へ戻っていった。

ツアー客全員が入れるような木陰はないので、皆バスの中で新しいバスを待った。1時間ほどしてやって来たバスは、これまで乗ってきたバスよりもずっと大きな、しかも日本のエアポートリムジンとしてお馴染みのバスだった。役目を終えたバスがそのままここで運行されているのは何とも面白かった。しかも、座席には広告類がそのまま貼り付けてある。このまま行くと列車の時間には何とか間に合いそうだとのことで、皆胸をなで下ろした。しかし、あのバスはあの後どうなったのだろうということを気にしている人は誰もいなかった。それは、当然だろう。あの運転手の整備不良のために、あわよくば砂漠の真ん中に取り残され、その後の日程がめちゃくちゃになりかねなかったのだから。

バスが柳園の町に入ると、今度は道路工事にひっかっかってしまった。せっかく時間に間に合いそうだったのに、一難去ってまた一難である。そこも何とか切り抜け、柳園駅に着いた時は、列車の出発時間の15分前だった。まさにギリギリセーフ。しかし、おかげで夕食を食べずに乗車することになってしまったが、日程がめちゃくちゃになるのに比べたら、大したことではない。持ち合わせの菓子などを分け合って食べよう、などと皆で話した。

列車は静かにホームに滑り込んできた。鄭州からウルムチに向かう列車であった。(その先頭車両を写真に収めたので、後で現像すると、時間に間に合ったのを喜ぶスルーガイドの女性の明るい笑顔が写っていた。)たちまち何台もの販売車が車両の横に並び、乗客が窓から手を伸ばしていろいろな物を買っている。その間、私たちの乗る、専用の寝台車が増結される。

増結された寝台車に乗り込む。「軟臥車」で、一番上のクラスの寝台車である。中国の鉄道は広軌で、車両の幅も広い。寝台の広さも日本より広い。寝台はコンパートメントになっており、一人で参加した男性4人が同じ部屋になった。夕食はガイドのTさんとスルーガイドの女性が食堂車で弁当を買ってきてくれるという。皆一様に安心している中、列車は静かに柳園駅を出発した。




コメント
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