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二 未完に終わった上田哲の論文

2024-05-24 12:00:00 | 菲才でも賢治研究は出来る
《コマクサ》(平成27年7月7日、岩手山)

二 未完に終わった上田哲の論文
 にもかかわらず、二〇〇七年に出版されたある本((五))では、
 感情をむき出しにし、おせっかいと言えるほど積極的に賢治を求めた高瀬露について、賢治研究者や伝記作者たちは手きびしい言及を多く残している。失恋後は賢治の悪口を言って回ったひどい女、ひとり相撲の恋愛を認識できなかったバカ女、感情をあらわにし過ぎた異常者、勘違いおせっかい女……。
と、はたまた、二〇一〇年に出版された別の本((六))でも、
 無邪気なまでに熱情が解放されていた。露は賢治がまだ床の中にいる早朝にもやってきた。夜分にも来た。一日に何度も来ることがあった。露の行動は今風にいえば、ややストーカー性を帯びてきたといってもよい。
というように典拠も明示せずに、人権が何よりも優先されるようになった昨今でも、何の躊躇いもなさそうに露をとんでもない〈悪女〉にしているという実態が相変わらずある(このような実態が放置され続けている賢治学界であるということを知って、私は茫然自失するしかなかったのだが、いや知ってしまった真実に目を背けることは出来ないと、その後この時のことを折に触れて思い出し、己を奮い立たせている)。よって、〈高瀬露悪女伝説〉はやはり全国に流布したままであると言える。
 またもちろん、先の清六の証言内容等と、それとは正反対とも言える、露の人格を貶め、尊厳を傷つけているとしか思えないようなこれらの記述との間には矛盾がある。よって、これらの典拠は一体何かということが問われるとともに、この実態にはかなりの問題が横たわっているということが示唆される。
 そこで私は、関連する論考等を探し廻ったのだが、〈悪女・高瀬露〉(以降、「〈悪女〉にされた高瀬露」のことを意味する)に関して学究的に取り組んでいる賢治研究者の論考等はなかなか見つからなかった。そしてやっと見つかったのが、上田哲の「「宮沢賢治伝」の再検証㈡―〈悪女〉にされた高瀬露―」というタイトルの論文だった。彼は、新たな証言や客観的資料等を発掘してこの〈悪女・高瀬露〉を再検証してみたところそれは冤罪的伝説であったということが実証できたということで、一九九六年に『七尾論叢 第一一号』(七尾短期大学)上にそのことを発表したのが同論文である(この件に関しての嚆矢となったものであり、しかもほぼ唯一のものだ。現在に至っても、このことに関する他の研究者の本格的な論考等は見つからないからである)。
 ただしどういうわけか、同論文は未完で終わっている。ちなみに、同論文の最後は「(この章未完)」となっている。そしてこの論文はその後完成されぬままに、上田は鬼籍に入られた。しかも、他の号は結構いくつかの図書館等で所蔵されているのだが、この『第一一号』だけはまず見つからない。したがって、現実的には同論文を読むことはなかなかできない。ところが、私は幸いにもある方からこの『第一一号』、すなわち
【『七尾論叢 第11号』表紙】

を譲っていただいた。そこで同論文を参考にさせて貰い、さらに新たな証言等を付け加えたりして、できれば上田の遺志を継ぎたいと願いながら、〈悪女・高瀬露〉の再検証をしてみたのが本論「私たちは今問われていないか―賢治と〈悪女〉にされた露―」である。

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    来る6月9日(日)、下掲のような「五感で楽しむ光太郎ライフ」を開催しますのでご案内いたします。 

    2024年6月9日(日) 10:30 ▶ 13:30
    なはん プラザ COMZホール
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       やつかのもり LCC 
    参加費 1500円(税込)

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           先着100名様
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