みちのくの山野草

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濡れ衣を着せられた高瀬露

2016-04-01 08:30:00 | 「羅須地人協会時代」の真実
《創られた賢治から愛すべき真実の賢治に》
 さてこれで、上田哲が言うところの「下敷」、『宮沢賢治と三人の女性』における露に関する記述には捏造の「下根子桜訪問」を始めとして、悪意のある虚構や改竄が他にも少なからずあることがわかったから、「下敷」の中で語られている露は、捏造された〈悪女・高瀬露〉と言える(あるいは、『宮沢賢治と三人の女性』は伝記であるが如くに森は巻頭で宣言しているが、少なくとも露に関しては同書は単なるフィクションに過ぎないということだ)。しかも現実は、この捏造された〈悪女・高瀬露〉が因となって、上田の指摘どおり、誰一人として検証もせず、裏付けも取らぬままに拡大再生産等が繰り返されてきたものだから、次第に〈高瀬露悪女伝説〉が出来上がってきたというのが実情と言えよう。
 ただしここで注意せねばならぬことは、その捏造された〈露悪女伝説〉を全国に流布させた責任はこの「下敷」にはまずないということだ。それは、この「下敷」も、そしてその後の再生産でも、ある時期までは高瀬露の実名を一切使っていなかったからだ。この〈伝説〉を全国に流布させた過半の責任は、他にある。

 ではそれはどこの誰にあるのか。それは、「賢治年譜」を作成する場合に、まず為すべきことは例の「一九二八年の秋の日」の〝年〟を安易に変更することではなくて、何はともあれ森の「村の住居の訪問」、すなわち下根子桜の宮澤家の別宅訪問自体があったか否かを確認すべきことであったのに、それを怠った人たちにある。
 そしてもう一つは、にぎにぎしく「高瀬露あてと思われる書簡下書が新しく発見された」と嘯き、しかもその中には「露宛であることが判然としている」ものもあると、「判然としている」その根拠も明示せずに『校本宮澤賢治全集第十四巻』(筑摩書房)が活字にしたことにある。それも、「新発見」と嘯いた一連の書簡下書の中身の検証も疎そかにしている上にである。かてて加えて、以前はその実名が明らかにされていなかった〈悪女伝説〉が、同巻が上掲のような書き方をすれば、森荘已池の『宮澤賢治と三人の女性』が因となって、〈高瀬露悪女伝説〉にすり替わって一瀉千里に全国に流布してしまうということは明明なのに、その「下敷」の内容の検証も怠ったからである。私からすれば、想像だにできない理不尽過ぎる行為であった。

 なお、私の今回の一連の主張は通説とはかなり異なっているので、「仮説検証型研究」で検証できたからといってそれがはたして正しいと言えるのかと思われる人も多かろう。しかしながら、このようなあやかしなものが因となって一人の女性が〈悪女〉にされたのではたまったものではない、ということだけは少なくともわかってもらえたものと確信している。それは無実の女性に安易に濡れ衣を着せることとなり、その人の人格を貶め、人間としての尊厳を傷つける行為だからだ。
 ついては、今後露を悪女呼ばわりすることは許されないはずだし、私たちは速やかに捏造された〈高瀬露悪女伝説〉を葬り去り、露の名誉を早急に回復するための努力をすべきだ。それはもちろんまずは露のためにであるが、賢治のためにであもる。なぜならば、少なくともある一定期間賢治とはオープンでとてもよい関係にあり、しかもいろいろと賢治が世話になった露が今までずっと濡れ衣を着せ続けられてきたことを、さぞかし賢治は嘆いているはずだからだ。そしてそもそも、賢治と露のことを少しく知れば、冷静にそして常識的に判断すればこの伝説がアンフェアなのもであることは誰でもすぐ気付くはずだ。にもかかわらず、しかるべき人たちや組織が今までこの理不尽に対して「知らぬ顔の半兵衛を」を決め込んできたということは本来はあるべからざることであり、賢治の嘆きはいかばかりであろうか。

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《鈴木 守著作案内》
◇ この度、拙著『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』(定価 500円、税込)が出来しました。
 本書は『宮沢賢治イーハトーブ館』にて販売しております。
 あるいは、次の方法でもご購入いただけます。
 まず、葉書か電話にて下記にその旨をご連絡していただければ最初に本書を郵送いたします。到着後、その代金として500円、送料180円、計680円分の郵便切手をお送り下さい。
       〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木 守    電話 0198-24-9813
 ☆『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』                  ☆『宮澤賢治と高瀬露』(上田哲との共著)

 なお、既刊『羅須地人協会の真実―賢治昭和二年の上京―』、『宮澤賢治と高瀬露』につきましても同様ですが、こちらの場合はそれぞれ1,000円分(送料込)の郵便切手をお送り下さい。
 ☆『賢治と一緒に暮らした男-千葉恭を尋ねて-』        ☆『羅須地人協会の真実-賢治昭和2年の上京-』      ☆『羅須地人協会の終焉-その真実-』

◇ 拙ブログ〝検証「羅須地人協会時代」〟において、各書の中身そのままで掲載をしています。

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