前回の”なめとこ山”において、かつての野外活動センターの炊事場の屋根を紹介したが、そのことに関してちょっとだけ追記。
幕舘橋を渡って県道12号線をそのまま進むと道路右手に砂利敷の駐車場がある。それは、かつての豊沢の『岩手県立花巻野外活動センター』のものであった。そこから、私もいまから約35年ほど前に来て指導を受けたことがあるこのセンターの敷地に入ってみると、かつての関連施設は跡形もなく、残っていた建物は唯一
《1 炊事場の建物》(平成21年5月15日撮影)
だけだった。ほんとうに、他は何も残っていない。その当時はかなり充実した施設設備だったはずなのに。
それに引き替え、その跡地では瑞々しい若葉の
《2 シラカバ》(平成21年5月15日撮影)
《3 〃 》(平成21年5月15日撮影)
や、こぼれるように花を咲かせた
《4 ヤマナシ》(平成21年5月15日撮影)
《5 〃 》(平成21年5月15日撮影)
などが生き生きしていた。
「国破山河在、城春草木深」とまではいかなかったが無常を禁じ得なかった。そこに卯の花は咲いていなかったが、たわわに咲いたマナシの花を見て涙を流そうか。いやいやこの秋、やまなしの実の成る頃また来てみようか。それとも賢治に聞いてみることにしようか。
賢治の童話『やまなし』より
・・・・・・(略)・・・・・・・
そのとき、トブン。
黒い円い大きなものが、天井から落ちてずうつとしづんで又上へのぼつて行きました。キラキラツと黄金のぶちがひかりました。
『かはせみだ』子供らの蟹は頸をすくめて云いました。
お父さんの蟹は、遠めがねのやうな両方の眼をあらん限り延ばして、よくよく見てから云いました。
『さうぢゃない、あれはやまなしだ、流れて行くぞ、ついて行つて見よう、ああいい匂いだな』
なるほど、そこらの月あかりの水の中は、やまなしのいい匂いでいつぱいでした。
三疋はぽかぽか流れて行くやまなしのあとを追いました。
その横あるきと、底の黒い三つの影法師が、合せて六つ踊るようにして、山なしの円い影を追いました。
間もなく水はサラサラ鳴り、天井の波はいよいよ青い焔をあげ、やまなしは横になつて木の枝にひつかかつてとまり、その上には月光の虹がもかもか集まりました。
『どうだ、やつぱりやまなしだよ、よく熟している、いい匂いだろう。』
『おいしそうだね、お父さん』
『待て待て、もう二日ばかり待つとね、こいつは下へ沈んで来る、それからひとりでにおいしいお酒ができるから、さあ、もう帰つて寝よう、おいで』
親子の蟹は三疋自分等の穴に帰つて行きます。
波はいよいよ青じろい焔をゆらゆらとあげました、それはまた金剛石の粉をはいているようでした。
◆
私の幻灯はこれでおしまいです。
<『宮沢賢治<ちくま日本文学全集>』(宮澤賢治著、筑摩書房)より>
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幕舘橋を渡って県道12号線をそのまま進むと道路右手に砂利敷の駐車場がある。それは、かつての豊沢の『岩手県立花巻野外活動センター』のものであった。そこから、私もいまから約35年ほど前に来て指導を受けたことがあるこのセンターの敷地に入ってみると、かつての関連施設は跡形もなく、残っていた建物は唯一
《1 炊事場の建物》(平成21年5月15日撮影)
だけだった。ほんとうに、他は何も残っていない。その当時はかなり充実した施設設備だったはずなのに。
それに引き替え、その跡地では瑞々しい若葉の
《2 シラカバ》(平成21年5月15日撮影)
《3 〃 》(平成21年5月15日撮影)
や、こぼれるように花を咲かせた
《4 ヤマナシ》(平成21年5月15日撮影)
《5 〃 》(平成21年5月15日撮影)
などが生き生きしていた。
「国破山河在、城春草木深」とまではいかなかったが無常を禁じ得なかった。そこに卯の花は咲いていなかったが、たわわに咲いたマナシの花を見て涙を流そうか。いやいやこの秋、やまなしの実の成る頃また来てみようか。それとも賢治に聞いてみることにしようか。
賢治の童話『やまなし』より
・・・・・・(略)・・・・・・・
そのとき、トブン。
黒い円い大きなものが、天井から落ちてずうつとしづんで又上へのぼつて行きました。キラキラツと黄金のぶちがひかりました。
『かはせみだ』子供らの蟹は頸をすくめて云いました。
お父さんの蟹は、遠めがねのやうな両方の眼をあらん限り延ばして、よくよく見てから云いました。
『さうぢゃない、あれはやまなしだ、流れて行くぞ、ついて行つて見よう、ああいい匂いだな』
なるほど、そこらの月あかりの水の中は、やまなしのいい匂いでいつぱいでした。
三疋はぽかぽか流れて行くやまなしのあとを追いました。
その横あるきと、底の黒い三つの影法師が、合せて六つ踊るようにして、山なしの円い影を追いました。
間もなく水はサラサラ鳴り、天井の波はいよいよ青い焔をあげ、やまなしは横になつて木の枝にひつかかつてとまり、その上には月光の虹がもかもか集まりました。
『どうだ、やつぱりやまなしだよ、よく熟している、いい匂いだろう。』
『おいしそうだね、お父さん』
『待て待て、もう二日ばかり待つとね、こいつは下へ沈んで来る、それからひとりでにおいしいお酒ができるから、さあ、もう帰つて寝よう、おいで』
親子の蟹は三疋自分等の穴に帰つて行きます。
波はいよいよ青じろい焔をゆらゆらとあげました、それはまた金剛石の粉をはいているようでした。
◆
私の幻灯はこれでおしまいです。
<『宮沢賢治<ちくま日本文学全集>』(宮澤賢治著、筑摩書房)より>
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