みちのくの山野草

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バイアスのかかった研究家の安易な決めつけ?

2018-12-30 12:00:00 | 検証「Wikipediaの高瀬露」
《『宮澤賢治幻の恋人』(澤村修治著、河出書房新社)》

荒木 そうか、「聖女のさまして近づけるもの」とは実は限りなく伊藤ちゑだったのか。でもさ、待てよ。ならばこの〈悪女〉はちゑとされてしまうのか。
鈴木 いやいや、もちろんそうはならない。たしかに、賢治自身は、「たくらみすべてならずとて」とか「われに土をば送るとも」などと書いてちゑに当て付けたかったということはほぼ間違いないが、拙著でも、
 なお、最後に声を大にして次のことを言っておきたい。それはこの詩のモデルがちゑであっても、
 伊藤ちゑという人はスラム街の貧しい子女のために献身するなどのストイックな生き方をし、あるいは、身寄りのない憐れな老婆に薄給から毎月送金していたというようなとても優しい心の持ち主でもあり、まさに「聖女」のような高潔な実践活動家でり、崇敬すべき人物であった。
(さらなる詳細は、拙論「聖女の如き高瀬露」(上田哲との共著『宮澤賢治と高瀬露』所収)を参照されたい)
             〈『本統の賢治と本当の露』(鈴木守著、ツーワンライフ出版)106p〉
と念を押しておいたように、伊藤ちゑは高瀬露同様共に崇敬すべき人物だ。
荒木 そっかわかってきたぞ。ちゑは「聖女」のような人だったから賢治には「聖女のさまして」見えた。一方賢治はちゑとならば結婚してもいいと当時思ってた。ところがなんと、そのようなちゑから賢治は結婚を拒絶されてしまったので頭に血が上り、ちゑのことを当て擦って〔聖女のさまして近づけるもの〕をあの手帳に書いたんだ、おそらく。
鈴木 佐藤勝治が、
 彼の全文章の中に、このようななまなましい憤怒の文字はどこにもない。これがわれわれに奇異な感を与えるのである。
            <『四次元44』(宮沢賢治友の会)10p>
と呆れ果てているように、この時の賢治はすっかり自分を見失っていて、その憤怒をして賢治にこの詩を書かせたと、な。
吉田 まさに、この時の賢治は修羅だったと言える。どうやら真相は、今荒木が推測したように、賢治はちゑから結婚を拒絶されて怒り心頭に発し、ちゑのことを当て擦って書いた詩が〔聖女のさまして近づけるもの〕だった。そしてこれが真相であったならば、全てのことがすんなりと納得できる。
鈴木 実は、この件に関して同じく勝治は、
 特に私のさもあらんと思うのは、彼が、他人の告げ口を信じてすつかり怒つたことである。彼のような善良な人間は、告げ口の名人にかかると、苦もなく信じてしまうものである。三百代言と知りながらも、最愛の弟子も疑つてしまう。
 いわんやその告げ口をする人間が、もう少し上等な人間であり、自分の親しい者であると、たいてい本気になつてしまう。彼のような上品な人間は、告げ口などという下品なことはしたことがないから、上手な告げ口にすぐ乗るのである。「聖女のさましてちかづけるもの」の詩は、まさしくこの種の告げ口(告げ口として常套な誇張と悪意による)によつて成つたものである。
          <同13p>
と論じている。
吉田 なるほどなるほど、賢治の性向の弱点である猜疑心の強さがこの詩を書かせた、ということも十分に成り立ちり得ると。
荒木 にもかかわらず、バイアスのかかった賢治研究家さんたちは良く調べもせずに安易にこの詩のモデルを一方的に露と決めつけた、というわけだ。
 となれば、もはや露もちゑもとばっちりを受けただけであって、悪いのはバイアスのかかった賢治研究家さんたちであり、そして自分を見失った賢治自身にも責任の一端はあるっていうことだべ。
吉田 とならざるを得ない。
 どうも、多くの方々は遠慮して賢治のことを悪くは言わない。しかし、賢治といえどもおかしいことはおかしいと言わねばならないはずだ。ところがそれを為してこなかったから、異端児に後れを取ってしまう。
 本来は、この詩のモデルは限りなく伊藤ちゑであるということについては、賢治研究家の誰かが遙か以前然に気が付き、そのことを公に発表しておいて然るべきものだった。ところが悲しいかな、誰もそうしなかった。後れを取ったのは、そうしなかったことのツケだ。
荒木 そうか。この詩のモデルは少なくとも露ではなく、限りなくちゑであるということを門外漢の異端児によって実証されてしまい、出し抜かれてしまったからな。
吉田 だからこの件は、バイアスのかかった研究家の勝手な思い込みが研究の発展を妨げたということの一例となるだろう。
荒木 そっかそっか、だからなおのこと、彼らは妬んであれこれと鈴木を虐めているのか。
鈴木 なぬっ、この異端児って私のことかよ。変なこと言うなよ。話を元に戻してくれ。
荒木 それもそうだな。ちょっと褒めすぎた。
鈴木 それもな……
荒木 さて、ということは、周りの誰かが悪意をもって露を〈悪女〉に仕立てた、ということか。
鈴木 私が調べた限りにおいては、高瀬露が〈悪女〉扱いされる客観的な根拠はないからね。そしてもちろんちゑも同様にだ。まして、賢治がそう望んだということもなかろう。
吉田 いや、さりながら、露が〈悪女〉にされた理由は必ずあるはずだから、鈴木はぼやかしているが、実は、あの〝このような程度の残酷なことがあったのでは〟において「ほのめかしていたこと」あたりが現実にあったという蓋然性もかなり高い、と僕は睨んでいるがね。

<*1:註> 詳しくは、『本統の賢治と本当の露』の第一章の「㈦「聖女のさまして近づけるもの」は露に非ず」をご覧いただきたい。

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 賢治の甥の教え子である著者が、本当の宮澤賢治を私たちの手に取り戻したいと願って、賢治の真実を明らかにした『本統の賢治と本当の露』

             〈平成30年6月28日付『岩手日報』一面〉
を先頃出版いたしましたのでご案内申し上げます。
 その約一ヶ月後に、著者の実名「鈴木守」が使われている、個人攻撃ともとれそうな内容の「賢治学会代表理事名の文書」が全学会員に送付されました
 そこで、本当の賢治が明らかにされてしまったので賢治学会は困ってしまい、慌ててこのようなことをしたのではないか、と今話題になっている本です。
 現在、岩手県内の書店での店頭販売やアマゾン等でネット販売がなされおりますのでどうぞお買い求め下さい。
 あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,620円(本体価格1,500円+税120円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
      〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
               電話 0198-24-9813

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