『意識と感覚の脳科学』(日経サイエンス社、2014年10月22日号)
同論文の、「弱まった脳のフィルター」の項では、 S.カーソンが ピーターソン(トロント大)と一緒に行った研究によれば、 想像力が豊かな人はそれ程でない人に比べて認知的脱抑制を示しやすいことがわかった。
〈『意識と感覚の脳科学』96p〉 という。そのことは脳画像や脳波測定の実験(メイン大学マーテインデール)によっても裏付けられているという事なども論じられていた。
次の項「重要なのは知性」では、 彼は
過剰な情報を、圧倒されることなく処理し、頭の中で操作することができる人がいるが、それを可能にしているのは、IQの高さやワーキングメモリー(作業記憶)の容量が大きいことなど、他の認知的因子であることが研究の結果わかった。
〈同98p〉ということを述べていた。
さらに続けて、下図のような共有脆弱性モデルを提示し、
共有脆弱性モデルは、創造性に富む人の少なくとも一部は、統合失調症など精神疾患の人たちと共通する生物学的脆弱因子をいくつか(すべてではない)持っている可能性を示している。この脆弱性によって、創造性に富む人は…(投稿者略)…私たちのような人間には手に入らないアイデアや思考にアクセスできるのかもしれない。
と推測していた。
そして、昨今は
創造的な思考の市場価値が高まる中、世の中の方が、エキセントリックな人に合わせて、彼らを受容するような軌道修正を続けるかもしれない。…(投稿者略)…そうした順応がすでに起きている。
〈同99p〉と著者のS.カーソンは述べていた。
そこでまず思い出したのは、まだ紹介していなかった賢治の次のようなエキセントリックな言動である。愛弟子の澤里武治によれば、
花巻農学校の裏手に五本の古い杉があります。その木の下で或る夕方、先生は大入道を見たといふのであります。それを見てから前身の毛穴が塞ぎ、ぶつぶつしたものが皮膚に出たといふことで、その大入道を見てから先生は寝ついてしまつたと聞いて居ります。その後羅須地人協会へ若い先生方が大勢集りました時、先生は大入道を見た話をなさると、仲間の一人、根子義盛君が、そら来たと言つて、テーブルを叩くと先生は顔色を変へて、飛び上つたといふのであります。
〈『續 宮澤賢治素描』(関登久也著、眞日本社)66p〉という。よって、先に〝「天才脳の秘密」〟で挙げた賢治の奇妙な言動のみならず、前掲のようなこともあったのだから、もはや賢治には奇矯な言動が少なからずあったということは否定できない<*1>。
そして同時に思い出したのが、宮澤賢治が亡くなった通夜の席で賢治が天才であるということについて語ったという、
あれは、若いときから、手のつけられないような自由奔放で、早熟なところがあり、いつ、どんな風に、天空へ飛び去ってしまうか、はかりしることができないようなものでした。私は、この天馬を、地上につなぎとめておくために、生まれてきたようなもので、地面に打ちこんだ棒と、綱との役目ををしなければならないと思い、ひたすらそれを実行してきた。
<『宮沢賢治の肖像』(森荘已池著、津軽書房)256p>父政次郎の述懐である。
つまり、父政次郎の深い理解と支えがあったからこそ、エキセントリックな言動が少なからずあった賢治ではあったが、賢治の類い稀な独創力が見事に開花し、羽ばたいと言える。ただしこのような解釈は何も目新しいものではない。ところがこの共有脆弱性モデルを元にして解釈すれば、前掲した「世の中の方が、エキセントリックな人に合わせて、彼らを受容するような……そうした順応がすでに起きている」という最近の受容の仕方が、昭和初期に父政次郎によって既に為されていたということになる。もちろん、政次郎が「共有脆弱性モデル」を知っていたことなどあり得ないのにもかかわらずである。ということは、父親の愛情が学問の進歩を越えていたとも言えそうだ。
とまれ、
・賢治が素晴らしい作品を世に残せたのは、父政次郎のお蔭である。
・また、賢治は実は少なからぬ地元の人たちや花巻農学校の生徒や卒業生からは「奇人変人」と見られていたということを私は仄聞しているが、この「共有脆弱性モデル」によれば、それはある程度やむを得ぬことであり、賢治の独創力とエキセントリックな言動はかなりの部分で裏表の関係にあった(奇矯な賢治の言動はある意味では必然であった)。
ということになりそうだ。・また、賢治は実は少なからぬ地元の人たちや花巻農学校の生徒や卒業生からは「奇人変人」と見られていたということを私は仄聞しているが、この「共有脆弱性モデル」によれば、それはある程度やむを得ぬことであり、賢治の独創力とエキセントリックな言動はかなりの部分で裏表の関係にあった(奇矯な賢治の言動はある意味では必然であった)。
振り返って見れば、まずは鈴木友氏の管理しているブログの中の投稿〝天才って何が違うの?〟を知った。そこで私は、同氏の投稿を参考にして〝「共有脆弱性の高い」宮澤賢治〟において、同氏の表現を借りて言えば、
と直感して、ここまであれこれ考えてみたわけだが、どうやらその通りだったようだ。
<*1:投稿者註> 以前の私であれば次の様な事柄、
高瀬露のことを避けるためにとったと云われている賢治の次のような奇矯な行為、
・「本日不在」の札を門口に貼った。
・顔に墨を塗って露と会った。
・座敷の奥の押入の中に隠れていた。
・私はレプラですと露に言った。
は単なる風聞やゴシップの如きものだろうと思っていたが、共有脆弱性モデルを知った今は、それらはもしかすると実は事実であったということを一概に否定し切れなくなってきた。
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