みちのくの山野草

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ー故松田甚次郎氏の碑と再刊ー

2020-10-26 12:00:00 | 甚次郎と賢治
〈『和光 追悼の詩』(松田むつ子編集発行、昭和55年11月)吉田矩彦氏所蔵〉

 では今回は斎藤たきちの「ー故松田甚次郎氏の碑と再刊ー」からであり、それはこう始まっていた。
 恵みうすき最上の地で、泥と汗にまみれて実践した十年間の生活軌跡を一冊の本にまとめ、「土に叫ぶ」と題して東京羽田書店より発行したのは昭和十三年の春であるが、その時著者の松田甚次郎は三十歳を迎えたばかりであった。
 この本は、文部省推薦図書になったことも加わり、全国の農村青年に熱狂的に読まれ、今日で言うところのベストセラーとなって版を重ねた。夏には新国劇による劇化と上演が東京で行われ、翌十四年には、「最上共働村塾」を開塾し、それに参加する全国各地の農村青年が話題をよび、松田の行動と発言は山形のみならず全国的に大きな注目と反響をよんで、一躍にして、時の人となった。
 村をよくし、農の可能性に賭けた彼にとっては、眠ることを惜しみ、体を休む時間を捨てる日常に身を置くことは当然であった。その記録は、「続土に叫ぶ」「村塾建設の記」「野に起て」らの著書にくわしいけれども、この身と心を焔ともやしつづけた生は、やがて病魔にむしばまれ燃焼し死に急ぐ結果となった。まだ三十五歳になったばかりであった。
             〈『和光 追悼の詩』(松田むつ子編)73p〉

 そうか、「土に叫ぶ」は、やはり「全国の農村青年に熱狂的に読まれ」たのか。それにしても、昭和13年の春に出版された同書にもかかわらず、同年の夏になるとすぐさま、新国劇による劇化がなされた上演というのは何故だったのだろうか、ちょっと不思議だ。一方で甚次郎は、翌14年には「最上共働村塾」を開設したことのみならず、今度はロングセラーとなった「宮澤賢治名作選」を出版したわけだから、甚次郎が「村をよくし、農の可能性に賭けた彼にとっては、眠ることを惜しみ、体を休む時間を捨てる日常に身を置」いたことは疑いがない。素直に頭が下がる。しかし、それが祟って「この身と心を焔ともやしつづけた生は、やがて病魔にむしばまれ燃焼し死に急ぐ結果となった」ことは、返す返すも悔やまれるし、痛ましい。

 そして、「ー故松田甚次郎氏の碑と再刊ー」はこう終わっていた。
 ……宮沢を生涯の師として生きつづけた甚次郎の生が、ようやくにして注視されてきた予感がするのだ。外国に向けつづけたわれわれ日本人の眼を、日本の風土と土着のなかに転回することが今激しく求められているとわたしは思う。(「地下水」同人・山形市)
             〈同74p〉
 この追悼集は昭和55年の発行だから、斎藤たきちはその頃こう感じていたということになる。はたしてその頃に「外国に向けつづけたわれわれ日本人の眼を、日本の風土と土着のなかに転回」できたか否かは私には解らないが、少なくとも最近では、「甚次郎の生が、ようやくにして注視されてき」ていることは事実だ。

 それは、昨年(2019年)の1月27日に花巻において、近江正人氏作・演出の『土に叫ぶ人 松田甚次郎 ~宮沢賢治を生きる~』が上演されたことや、同年8月26日~27日に甚次郞のふるさと新庄を訪問した際に、訊いてみるとほとんどの若者達が松田甚次郎のことを知っていたからである。もう少し説明を付け加えると、2009年に『新庄ふるさと歴史センター』を訪ねた際には、「松田甚次郎の評価は功罪相半ばしている」ということだったが、2018年12月4日に同センターを訪ねたならば、没後75年を記念した松田甚次郎に関する展示が行われていたから、再び評価され始めているのだということを実感したのだった。そしてそれは、近江正人氏らの熱心な取り組みによるものだろうとすぐ予想が付いた。そしてその後も、近江氏らは熱心に取り組んでおられる。例えば来年6月には、芸術鑑賞として地元の中学生1,000人ほどに対して公演して見せることになったという。

 よって、斎藤たきちの「日本人の眼を、日本の風土と土着のなかに転回することが今激しく求められている」と言っていたとおりの展開が、確実に今起こり始めているのかもしれない。

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