みちのくの山野草

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『近代日本の土着思想 農本主義研究』より

2021-01-22 20:00:00 | 甚次郎と賢治
〈『農本主義と天皇制』(綱澤 満昭著、イザラ書房)〉

 前回私は、「このことは次回触れる予定だが」と前触れしたが、それは綱澤 満昭氏の『近代日本の土着思想 農本主義研究』の中の一言、「農本主義思想は「百花繚乱の状」を呈」のことであり、同氏は、
 昭和五年から七年にかけての農業恐慌と農業危機の激化は、農本主義思想に「百花繚乱の状」を呈せしめたのである。そのなかでももっともオーソドックスな人物として桜井(武雄のこと)は帝国農会の代表幹事岡田温をあげる。岡田は、桜井が次にあげる加藤完治や、橘孝三郎、権堂成卿などと違って、この農業危機を「農業のすべての問題は農業経営に根原する」といって、小農制の家族経営を理想化する。「我国の小農制は、家族制度を基礎とし、固くこれに結びつけたる農制である。…投稿者略…」ここに小農制を基礎とする「家族主義的国家観」が成立する。しかし桜井はこの期の特色は、なんといっても「侵略的農本主義者」の登場にあるとしている。「農村経済更生計画」の行きづまり、経済更生運動から精神更生運動への転換、その満州侵略移民運動への飛躍という状況変化により、岡田のような正統派農本主義思想はしりぞき、神がかり的侵略的農本主義があらわれてくる。「内原イズム」、「加藤イズム」がそれである。
             〈『近代日本の土着思想 農本主義研究』(綱澤満昭著、風媒社)183p~〉
と論じている。
 よって、まずは、農業恐慌当時は色々な農本主義がやはり興っていたのだということを再確認できた。それから、私はいままで全然知らなかった、岡田温なる人物を初めて知った。そして綱澤氏の解説によって、その岡田はオーソドックスな農本主義思想を持っていて、「小農制の家族経営を理想化する」ということだから、甚次郞はこの岡田の農本主義思想に近かったようだと直感した。
 さらに同氏は、
 加藤完治の精神はいうまでもなく、糞尿にまみれ、他人が一尺掘るところを二尺以上掘り、金肥をなるたけ倹約し、堆肥を使い「大和魂」を築き農業危機を救済することであった。しかし如何に糞尿にまみれ、土にまみれても、農業危機から農民の眼をそらせるわけにはいかない。土地をめぐる小作争議は深刻化するばかりであった。その土地問題解決の道を加藤は満州移民に見出したのである。
             〈同184p〉
ということを述べていた。そこでこの記述の前半の「糞尿にまみれ、他人が一尺掘るところを二尺以上掘り、金肥をなるたけ倹約し、堆肥を使い「大和魂」を築き農業危機を救済することであった」に従えば、このような加藤と甚次郞はほぼ同じ姿勢であったと言える(ただし、加藤の場合は「精神」においてであり、甚次郞の場合は「精神面でも実践面でも」であったのだが)。にもかかわらず、この先で二人の進む道は分かれしまった。それは、綱澤氏の記述によれば加藤の場合は深刻化する小作争議に嫌気がさして(?)満州移民に走ったが、先の〝「小作料の適正化を求めて」〟で投稿したように、甚次郞の場合は小作問題から逃げずに真正面から取り組み、小作問題を解決したからだ。
 では二人のこの違いはなに故にか。それは、甚次郞は実際に小作農として生きたが、加藤の場合は農業の実践がなかったからであろう、と私には思える。この観点からも加藤と甚次郞は根本的に違っていて、甚次郞は加藤からは影響を受けていなかった、と言えそうだ。そこで綱澤氏の表現を借りて言い方を換えれば、
 松田甚次郎は、「加藤完治や、橘孝三郎、権堂成卿などと違って、この農業危機を「農業のすべての問題は農業経営に根原する」といって、小農制の家族経営を理想化」したオーソドックスな農本主義者岡田に近かった。
と言えそうだ。

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