みちのくの山野草

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小岩井で大量のタンカルを必要とした訳が解った

2021-01-25 10:00:00 | 賢治の「稲作と石灰」
〈『宮澤賢治と東北砕石工場の人々』(伊藤良治著、国文社)〉

 『小岩井農場百年史』の中に次のような記述があったので、そのことに関して今回は述べたい。
 小岩井では、早くから各種の牧草について研究を重ね、家畜の飼育方法や土地の条件とも関連して草種の選択が行われた。栄養に富み、よく育つもの、春はやく成長するもの、秋季まで継続生長するもの――といった条件を充たす牧草としてオーチャードグラス、トールオートグラス、ケンタッキーブルーグラス、チモシーグラス、レッドクローバー、アルファルファなどが選別された。
 このうちアルファルファは、一名ルーサンとも呼ばれ、牧草中最も栄養分が豊富で、とくに蛋白質、カルシュウムの含有成分が多い優良品種であることは知られていたが、その栽培条件はむずかしかった。というのも、酸性土壌に弱く、きわめて深根性で、大正初期までの小岩井の圃場には栽培できなかったのである。
             〈『小岩井農場百年史』(小岩井農牧株式会社、平成10年3月31日)170p〉
 そこで私は膝を打った。そして、例の『3 土壌のpHと作物の生育 3-1 作物別最適pH領域一覧』と見比べてみた。

すると、なんと、
    アルファルファの適正なpHは6.5~7.0
ではないか。この中にも「オーチャードグラス(5.5~6.0)、チモシーグラス(5.5~6.5)、レッドクローバー(5.5~6.5)」は載っているが、それらの適正なpHはそれぞれ括弧( )内の通りであり、これらには酸性に耐性があるということが判るが、「栄養分が豊富で、とくに蛋白質、カルシュウムの含有成分が多い優良品種」のアルファルファのそれは6.5~7.0だったのだ。ほぼ中性だ。
 一方で、先の〝苦しい東北砕石工場の経営〟で触れたように、当時の小岩井農場の土壌のpHは「5~6」であったから、前掲の「オーチャードグラス(5.5~6.0)、チモシーグラス(5.5~6.5)、レッドクローバー(5.5~6.5)」等の草種とは違って、この優良品種アルファルファを育てるためにはその土壌をかなり矯正して中性に近づけなければならず、そのためには大量の石灰を投入することが必要条件だったのだろう。

 要するに、当時の小岩井農場は牧草としては最も優良なアルファルファを採用したかったので、かなりの石灰の投入が不可欠だった。

ということになりそうだ。もちろん、他の牧草「オーチャードグラス、チモシーグラス、レッドクローバー」等であればそこまでする必要はなかったのだが。
 これで私は、小岩井農場では当時タンカルが必要だった訳がすっきりと了解できた。優良品種のアルファルファのためだったのだろう、と。それは、上掲の引用の中に、アルファルファ以外の草種についてはアルファルファのような評価が書いてないことからも示唆される。また、先の伊藤良治氏の指摘、「このフレットミルで粉砕した石灰石粉を早速小岩井農場に送ってみた。農場での試験結果は、従来の五分目(この大きさでは肥料にならない)バラスより施用効果が顕著だと喜ばれ以後粒径、の細かい「石灰石粉」へと、農場の示す注文条件も変更されていくのだった」もそのことを裏付けてくれる(なお、pH5.5~6.5が適正な稲については、当時この適正値を賢治がもし知っていたならば、大量の石灰を投入する必要は当然なかったということも導かれる。これで、私のもやもやはさらに晴れた)。

 そういえば、賢治はあの「復命書」に、
 北海道石灰会社石灰岩抹を販るあり。これ酸性土壌地改良唯一の物なり。米国之を用ふる既に年あり。内地未だ之を製せず。早くかの北上山地の一角を砕き来りて我が荒涼たる洪積不良土に施与し、草地に自らなるクローバーとチモシーの波を作り、耕地に油々漸々たる禾穀を成ぜん。
と書いていたわけだが、ここに書いてある草種は「クローバーとチモシー」であり「アルファルファ」はない。だからこのことと「宮沢先生が石灰岩抹といわぬ日はなかった」ということと併せて考えれば、当時の賢治はあまり土壌のpHには注意を払っていなかったということも十分あり得る。つまり残念ながら、この当時の賢治は定性的な段階に止まっていたという可能性がさらに高まってしまった。

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