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四十路キャリアウーマンに昭和のオヤジ戦士が乗り移った (アッコちゃんシリーズ)

2018年08月08日 | パルプ小説を愉しむ
そもそものきっかけは、NHKオンデマンドで観たドラマ、「ランチのアッコちゃん」。ダメOLがキャリアウーマンにビシビシとシゴかれながらも、人と人の間の機微にも通じて人間として一回りも二回りも大きく育っていくというヒューマンドラマが心のどこかに引っかかっていたんだろうな。図書館でタイトルが目に入った瞬間に借りていた。

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真の主人公である黒川敦子は、見た目も精神的にもたくましいキャリアウーマン。それも、ひとつの会社文化の中でのみ通用するカスタマイズされ飼いならされたキャリアウーマンではなく、自分でどんどん新しい事業を切り開いていくバイタリティ溢れるアントレプレナーにして、世の人々を磁石のごとく引き寄せる不思議な磁力を持っている。でも実態は、日本に高度成長をもたらした昭和の"24時間"働ける企業戦士そのもの。その証拠に、言う事がオヤジの論理丸出し。

仕事は仕事、プライベートはプライベートとはっきりと線を引き、押し付けられた忘年会の幹事役にまったくやる気を出せない新入社員(一応、男)に対して、
「あなたが言っていることって矛盾だらけねぇ。文句ばっか言ってるくせいに結局戦わず、昔からのやり方に従うわけ?」
と挑発しておいた上で、トドメの台詞が
「幹事が楽しめば、その忘年会は絶対に成功するの。あなたのフィールドにみんなを引っ張り込めばいいのよ。こんなに合理的でシンプルで双方にとって得なことはないじゃない。(中略)営業の仕事って人対人で出来ているんだから、相手に合わせるだけじゃなく、自分に巻き込むしたたかな力は絶対に必要なのよ」
だって。気持ちと気合の世界を忘年会の幹事役の心得に持ち込んだと思ったら、返す刀で仕事の営業についての説教にまで化けている。ロジックそこのけで、自分の信じるコトを"これしかない!これが絶対!!"とグイグイ押し込む迫力、これこそ昭和のオヤジそのものだろう。

どうして他人が一度食べた串揚げを二度付けしない保証があるのか?と串揚げ屋のソース壷に対して不潔感を露わにするや、
「そうよ。そのとおり。人間はエゴイスト。自分さえよければいいと思っているからこそ、誰も二度づけしないんだとわたしは信じているの」
これって論理が通っているか?でも、こう言われるとそうかなと思ってしまう。ロゴスは大事だが、最後にモノをいうのはパトス。人間としての生命力が強いかどうかが大事であることをこのキャリアウーマンは体言してくれている。
「もし、例えば誰かが隠れて二度づけしてごらんなさいよ。もう何も信じられなくなるじゃない、その人。疑心暗鬼でこの店にもこられなくなるわよ。それがわかっているから、みんな規則を守るの。いわば自分の為に。他人を裏切るということは自分を裏切ることだもの」

そんな黒川敦子のことを冷静に分析する同年代の雑誌編集者がこう言った。
かつて惹き付けてやまなかった能力とは、カリスマ性でも人を引き込む話術でもマーケティング能力でもない。おそらく-。問題を可視化し、物事をすっきり単純化するセンスだ。

そのくせ、妙に神妙なことを言い出す。
私のように、人の上に立つ立場をずっとやっていると、からからのスポンジが水を吸うみたいに知識や技術をぐんぐん吸収するという心地よさを忘れてしまう時があるの。だから、こうして習い事をするのかもしれないわね。あなたみたいな素直な姿勢を時々は取り戻しておきたいと思っているのよ
こんな台詞を敬愛する上司から言われたら、部下として目がハートマークになってしまうやろ!!!!

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この「アッコちゃん」シリーズ(「ランチのアッコちゃん」「三時のアッコちゃん」「幹事のアッコちゃん」)は、男中心の不条理なビジネスの世界で必死に生きる努力を続ける不器用な女性に対するレッドブルのような栄養ドリンクであり、心の清涼剤でもあり、そして一種のビジネス書でもある。
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