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Ikku's“zoku hizakurige 12” part3

2011-09-14 | bookshelf
膝栗毛も遂に最終巻。江戸で弥次喜多を待ち受けるものは、いかに。

***『続膝栗毛十二編』下***
『続膝栗毛十二編』 十返舎一九 作画 1822年刊 河内屋太助他板

 助郷馬のいななきに、弥次郎兵衛喜多八は目覚めると、既に朝食の支度も整っていました。北八は計らずも髷を切ってしまったので、手拭を被って元気がありませんでした。宿の女房が気の毒がって、入れ髪(エクステンション髷)をすればよいと髪結いを呼んでくれました。
 髪結いが付け髪の髷節を持ってくると、北八は気に入った髷を選び頭につけてもらいます。「コリャアさだめし色事で髪を切ったんでしょう」と髪結いが言うと、弥次さんが「そうさ、色事でも紫の色事だ」と嘲ります。「アアもうそのあとは言いっこなし」と北八は付け髷の具合をみるため頭を撫でさぐります。すると髷のはけ先が後ろへ向いていたので、直してもらい、頭の支度もできたので2人は出立しました。

 2人が番狂わせを語り笑いながら宿場のはずれを歩いていると、近在の2,3人連れの親仁たちの話が聞こえてきました。この親仁たちは松山稲荷様(埼玉県東松山市にある松山箭弓稲荷。日本三大稲荷の一つ)へ無尽(むじん:神社仏閣の参拝や経済的相互扶助として講を作り、金を集めて抽選をして落札者を決める、庶民に流行した金融組織。現在、無尽から銀行になっている銀行もあります)で当たったお礼参りに行く途中でした。この内の一人が、松山稲荷に参詣したら無尽に当たったと自慢しますが、別の一人は「松山稲荷へ参って、一生自分の嫌いなものは食べないから無尽に当たらせてくださいと願って、当たると踏んで豆を五俵も買ったが当たらなかった」などとしゃべりながら行くのを、北八が茶化しますが、親仁たちは無視してさっさと行ってしまいました。
 早くも桶川宿へ着きました。この宿場で2人は大勢の子供につきまとわれます。汚れた羊羹色の一重羽織を着て脇差を差し、天狗の面を被り、天王と書いてあるぼんでんを担いでいる男が3人、家の門口に立ち、「はやせや子ども」と言うと子供達はみな口をそろえて「はやせや子ども」と繰り返します。「天王さまは」「天王さまは」「はやすがおすき」(以下繰返し)「酒はなおお好き」「いっぱいやろう」「まいてからやろうぞ」「さぁまくぞ」と小さく切った紅白の紙を散らすと、子供達は競って拾います。
 天王は扇を持って踊りながら北八の足を踏んだので、北八が「いてぇ、この天狗め何をしやがる」と言います。天狗は一向に構わず「サァ来い子ども」(子供ら繰り返す)「ここにいた野郎が」「めったに力む」「またふんでやろう」「あいつの足を」とあてこするので、北八は怒って天王の男をひっつかみ天狗の面をひきむしると、天王も怒って北八の頭をかきむしります。
 これを見た仲間2人と弥次さんは、走りよって両人をなだめ引き分けます。天王は天狗の鼻がもげてしまい、北八は付け髷を失くしてしまい、それでまたひと悶着しますが、弥次さんが喜多さんを無理に引っ張ってなだめながら連れて行きました。北八は手拭で頭を包んで行き、やがて上尾宿を過ぎました。
 白い襦袢を着た金毘羅参りの男が2人の前に現れました。この男の背負っている箱の脇に髪の髷が6つも7つもぶら下げてあるのを見て、どうするのか尋ねると、「わしは船頭で、去年難風にあってすんでの処で船がぶつかると思った時、みんな金毘羅さまへ髪を切って願をかけたら助かったので、金毘羅さまへ納めようと思っている」と男は説明します。「ナント北八。てめえの頭にちょうどよいのがある。琴平さんその髷を一つ売って下さい。この男が途中でトンビに頭の髷をさらわれて困っている」と弥次が頼むと、男は路銭がないから丁度いいと承諾します。北八は髷の中から からあたばね を値切って百文で買い、頭へくっつけ鉢巻でしっかりと縛りました。それから2人は、馬喰新田という所に至ります。ここに名酒で名高い酒屋があるので、立ち寄って一杯ひっかけ
  かねてきく馬の名さえ馬喰の うましうましと酒の評判
 かくて土手町から豊村(?)生村(?しょうむら)という所を過ぎ大宮駅に来ました。ここは大宮権現の社があります。それから一里ばかり野原を過ぎると浦和宿です。
  志ろものを積(つみ)かさねしは商人(あきひと)の おもてうら和の宿のにぎはひ
 この宿の途中で、向うから来る男が弥次さんの顔を見て「ヤァこれはこれは弥次さんじゃねぇか」と言いました。この男は弥次さんとひとつ長屋に居た左次兵衛という者。「コリャ左次さんだな。おめぇどこへ行くのだ」と弥次さんが聞くと、「イヤおめぇの旅立った後、在所の親父が死んだから後を継いでこの宿の旅籠屋になりやしたが。おめぇ達者で今お帰りか。ナント今夜わしの所へ泊らないか」と誘われたので、積もる話もあるからそうすることにしました。「ヲヤ北先生も達者でめでたい。サァこちらへ」と左次に案内されます。旅籠に着いた2人が足を洗って上がると、女房が来て「ヲヤヲヤお帰りでございますか。北さんも一緒かえ。サァサァ奥へ」と六畳の埃だらけな座敷へ通されます。それから左次さんは、弥次さんたちが旅立ってから長屋で起こった風変わりな話を聞かせ、北さんの頭の鉢巻はどうかしたのかと尋ねます。北さんは左次さんには隠すことはない、と鉢巻を取ると、「どうしたのだ、髷がねぇの」と左次さん。「イヤくっつけた髷がある筈だ」と北さん。「ハハハそれそれ手拭にくっついてらぁ」と弥次さん。左次さんが「江戸では茶釜へうどんげのはなが咲いたと云ったが、手拭に頭の髷が生えたも珍しい」と笑います。そして「何でもコリャア色事だな。ところで弥次さん。おめぇは江戸へ帰ると早速いいことがあるに。」と言います。
 まず、弥次さんを贔屓にしていた材木屋の旦那が、信州に山を買って材木を切り出すのに人が大勢いるが、そんな時弥次がいたらと噂していたこと。それから、長屋の大家が疝気が頭に来て死んだこと。弥次さんは、その大家に家賃を滞納していただけでなく他にも借金があったので、よかったと喜びます。更に、蒟蒻屋の大家が変わり者で、実倅が真面目に稼ぐ者ばかりで詰らないから、酒飲みで洒落のめす陽気な人に店を貸したいと言っているから、そこで店を借りればよいと言います。余りに旨すぎる話に、弥次さんは多少疑うものの、風呂が焚けたというので入りに行きます。
 風呂は2人は入れるので、北さんと一緒に入れと言われ、2人は着物を脱いで風呂へ跨ごうとして弥次さんがつまづき、手が湯について熱かったので、手桶をひっくり返し、2人の着物をびしょ濡れにしてしまいました。女房が乾かすからと言って着物を持って行き、かわりに左次兵衛の油染みた布子と継はぎの袷を置いていきました。2人はそれを着て、座敷に戻り夕食を食べ、女房の運んできた酒を呑みながら4人で話に花を咲かせます。めでたいついでに、左次さんは自分の姪を弥次さんにもらってくれないか、と言います。ついこの間まで大名屋敷に勤めていた娘だし、体が達者な男なら誰でもよいというので、弥次さんは期待して決心します。ところが現れた姪娘は、黒あばたの小鬢の先が禿げた女だったので、興ざめして拍子抜けしてしまいます。
 ところが、再度女房が来て、姪娘が年が離れすぎているから気が変わって、北さんの方がいいと言っている、と言います。弥次さんは渡りに船と北さんに押し付けますが、意外にも北さんは、今夜すぐ足入れしてもらう条件で承知します。女房が出て行くと、弥次さんは北さんに訳を聞きます。すると北さんは、足入れしたら後は逃げたらいいのさ、と言うので弥次さんも納得し笑っていると、女房がやって来て、また気が変わって弥次さんにすると言っていると告げます。弥次さんも、すぐ足入れをしてくれれば承知すると言います。それなら決まりだと女房は立ち去ります。下女が布団を敷きに来て、2人は寝ながら互いに話し合う内、眠ってしまいました。
 しばらくして、勝手の方が騒がしいので2人が目覚めると、女房が来て「姪娘が家の馬士と駈落ちして、気の毒な事に2人の着物を持って行ったようです。今に捕まえますから構わずお休みください」と説明します。2人は呆れて、色々な目に遭うな、諦めようと北さんが言えば、弥次さんも「時の回り合わせだ、どうも是非のない、災難災難」とぐんにゃりとなげ首して、
  馬士(むまかた)の手入れをせしを光らずして足入れまちし身こそくやしき
 その夜はそのまま寝たが、翌朝起きてみれば、左次兵衛は娘を探しに出てまだ帰ってなく、女房は気の毒がって左次の着替えを2人に着せて詫びるので、2人は仕方なく暇乞いもそこそこにその旅籠を出ましたが、今思えば可笑しく、道々語りながら早くも蕨宿に至ります。この宿にはいづみ屋という奈良茶の名物があるので、2人は支度して行きます。すると、そこで例の材木屋の番頭に出会い、噂と同じ話を聞きます。弥次さんが急いで帰ると言うと、番頭は「それそれ、何でもきさましっかり金持ちになる顔立ちだ。喜んだがいい。わしは信州へ請け合いに行く。急ぐからきさまらはゆるりと休んでいかっせぇ。思いなしか、きさまたちが急に福々しく見えるようだハハハハ」。「いってらっしゃいませ」と弥次が言うと、番頭は「やがてめでたく会いましょう」と発って行きました。それより2人は心勇んでここを出て、板橋を打ち過ぎ、やがて帰国しました。

   「舌代」(上の写真の文章)
此(この)膝栗毛 則(すなわち)十二編にて全く満尾す。抑(そもそも)初編売り出してより当年二十一年ぶりにて目出度(めでたく)成就す。短才愚盲(たんさいぐもう)の鄙筆(ひひつ)事たらぬがちにて趣向も既に尽たれば いらざる長物の譏(そしり)をおそれて 此編に筆をさしおきぬ。なを弥次郎兵衛喜多八 此上かの材木伐出しの一件 山家(さんか)にして諺(ことわざ)にいふ 鳥なき里(さと)の蝙蝠(こうもり)としゃれちらす滑稽の趣向あれども それは別編に追って著すべし

『続膝栗毛十二編』下冊終

*足入れ=内祝言だけして嫁は実家に帰り婿が通う通い婚の後、嫁が婿の家に移ること。しかし、ここでは弥次北は嫁の結納金(持参金?)の事を言っていると思う。
*鳥なき里の蝙蝠=優れた人がいない所では、くだらない人が威張るというたとえ


※これで『東海道中膝栗毛』の帰国道中『続膝栗毛』全十二編完結です。この冊子の巻末に、左次兵衛が四国にあらぬ四谷街道の滑稽を著した『誂語堀之内詣(はいごほりのうちもうで)』全二冊 という予告が打ってありスピンオフ本があるようです。また、一九は65歳頃には痛風で手足が不自由になっていますが、没年の1831年67歳になって『続々膝栗毛』の執筆に取り掛かり、歿一年後に『続々膝栗毛』初編と二編が出版されています。おそるべし。
 『続々膝栗毛』の翻刻版は存在するのか知りませんが、また影刻版(原本コピー)を解読するのかと思うと・・・
 宮嶋参詣後、スルーされた播州編は、大坂書肆に求められ『続膝栗毛二編追加』として途中で執筆され、これもまた翻刻版は入手困難…こちらも弥次北同様心のまま気の向くままに、いつか読んでみようと思います。
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