TheProsaicProductions

Expressing My Inspirations

Ikku's“zoku hizakurige 12” part2

2011-09-13 | bookshelf
中山道の宿場町の景色。枡形が見えます。一九画

***『続膝栗毛十二編』中***
『続膝栗毛十二編』 十返舎一九 作・画
1822年刊 大坂 河内屋太助 江戸 村田屋次郎兵衛 他板


 弥次郎兵衛喜多八は、熊谷宿を出て久下村に来ました。ここは、久下次郎直光(くげじろうなおみつ)の居住地。
 先に出発した旅僧に後ろから声を掛けられ、2人はどうしたのだと尋ねると、「買い物をしていたので追いつこうと走ったが、坊主というのは女子のようにぶらぶらと走るから遅くて。」と言います。それを聞いた北八が「わっちは、どこかで褌を失くして、ずっと振り続けていたが、成程、よい時もあり時々邪魔になる時もある。」と言えば、「いっそのこと振り落としてしまえば世話がなくていい。」と弥次さんが言います。すると僧が「イヤわしは1回振り落としたことがある。寺でお経の途中、小便がしたくなって捲って見ると、コリャ不思議。今の今までぶら下がっていたものがない。もしかして落としてないかとあちこち探したが、ないので人に聞いたら、それかどうかわからないが今小僧らが食べていたと言うので、走って見に行ったら裏口で小僧が何やら喰っている。それをこっちに渡せと見たら、何の事はない、さつまいもだった。いよいよ自分の物はどこかと帯を解いて振ってみたら、にょろりと出た。帯へ挟んでいたのを忘れておったのだ。ハハハハ。」と言いました。
 3人が茶屋へ入ります。向かいの床机に座った旅僧が北八の股座を覗いて「おかしなことがある。ちと尋ねるが、お前はさっき褌を失くして振っていると言ったが、している。何故嘘をついたのじゃ」と北八に言いました。北八は「イヤ褌をしてようかしてまいが、わっちの勝手。又嘘をつこうとつくまいと出放題で理屈はないのさ」と答えます。しかし旅僧は北八の褌にこだわり、その褌は盗んだんだろうと言い出します。北八は唐人の寝言でさっぱりわからない、と白を切りますが、弥次さんも不思議に思います。旅僧が「紫ちりめんの褌など見たことない」と言うと、弥次も「ドレドレ見せろ」と言いますが、北八は相手にしないで早く出かけようと言うので、僧が「わしは昨夜の宿でちりめんのしごき(着物の裾をたくしあげるとき使う帯)を失くしたが、今見たらこの男が褌にしている。嘘なら出して見せてみろ。紫ちりめんの褌は珍しいじゃないか。わしは三尺帯(江戸時代の庶民が浴衣など簡単に着るのに用いた一重周りの帯)の代わりに二重周りのちりめんのしごきを使っている。それを褌とは思いついたな、ハハハハ。早く渡せ」と小競り合いを始めます。
 居合わせた客もやってきて、北八は外聞が悪くなり「当てずっぽうな事を抜かすと了簡しねえが証拠でもあるのか」と勇みます。僧「その褌が何尺何寸あるか知っている」北八「知れたこと、褌は六尺に決まっている」僧「それは六尺六寸ある。論より証拠、見せてみろ」と言われた北八は、顔を赤らめもじもじし始めたので、弥次さんは可笑しくなって北八に訳を聞けば、北さんは褌を取って弥次さんに渡し、一切を頼んで逃げて行ってしまいました。弥次さんは「夜具の間にあったのを見つけて、お前のとは知らずにとったらしい。お前に返すから是きりにしてやってくだせぇ」と謝罪して許してもらい、僧が「金玉の脂でもう色がこないになった」とぼやいているのを見て、可笑しさを堪えながら挨拶して北八の後を追って行きました。
  油断する人のこころはむらさきの あけがた奪いとりしふんどし
 こうして田村という所を過ぎ、北八が一人とぼとぼ行くのを見つけて、弥次さんは「ヲイヲイ待たねぇか。てめえはよく褌でミソをつける男だ。おれにまで恥をかかせやがって」と声を掛けます。北八は「イヤもう言いっこなしさ。悪いことはしねぇことだ」とつぶやきながら歩いて、早くも鴻巣宿に着きました。
 弥次さんが「今朝から虫がかぶってならねぇ。ちょっと休んでいこう」というので棒鼻の茶屋へ入ります。奥座敷に侍が2人居ました。2人とも腹の具合が悪い様子で、順番を譲り合いながら一人が上雪隠へ向かいました。ところが先客があったので仕方なく戻ると、雪隠が開いたので弥次さんがちゃっかり入ります。我慢できない侍は、下々の者が使う下雪隠へ行こうとしますが、もう一人が武士たる者下郎の雪隠へは入れないと言うので待ちます。上雪隠の様子を見に行くとまだ閉まっているので、近くに居た北八にどんな人が入ってるのかと尋ねると、北八は「とかく雪隠の好きな男で、どこへ行っても雪隠を見ると入りたがる。一度入ると中々出てこない」と冗談を言います。
 それは大変だと侍は台所の方の雪隠へ行きますが、下雪隠も塞がっていて戻ってきます。そうこうしていると、紙を揉む音が聞こえ、弥次が出てきました。侍が慌てて入り、もう一人の侍が「長かったな」と言うと弥次は「こっちの雪隠は__が敷いてあって居心地がいいからツイ長くなった」答えます。
 さて行こうとすると、弥次は紙入れを雪隠の棚の上に置き忘れたのに気付き、雪隠の中にいる侍に取らせてくれと頼みますが、長々待たされます。漸く出たと思ったらすぐにもう一人の侍に入られてしまいました。「じらした報いだろう」と北八が馬鹿にすると弥次はさっきの褌の件を持ち出します。侍が出てきて紙入れを取りに入った弥次さんは、急に腹が痛くなり苦しみます。茶屋の亭主が来て、娘が宿屋をしているから休んで行けと案内されます。27,8歳の色の浅黒い女房が出てきて、北八が説明すると奥へ通されます。女中に布団を頼みますが、こんな時でも女の値踏みをする弥次さん。北さんは女どころじゃないだろう、按摩でも呼べと言います。
 

 女房が隣りに女の鍼医で按摩も上手な人がいるからと、呼んでくれました。弥次さんは女の鍼医に体を撫でてもらったので痛みもおさまり、鍼医の手を取って痛む所を教える振りをして手を握ると、鍼医はにっこりしてうつむきました。北八が入って来たので弥次はもう良くなったと言い、鍼医に「晩ほどにまたお願いします。きっと間違いなく。承知か」と布団の中で手を握ると、鍼医は笑いながら承知して出て行きました。
 北八は、まだ昼前だし、天気もいいし、腹も痛くないなら午後から出発しようと言います。しかし、弥次さんは鍼医との楽しみがあるので渋ります。茶漬を食べ、弥次さんが鍼医なら自分はここの女房をなんとかしようと、北八は仕方なく宿泊することになりました。女房がお酒を持ってやってきました。さしつさされつしながら、この女房に祖父が一刀流の師範だったので剣術に長けていてお姫様にも薙刀の指南をしたなど、女に似つかわしくない武勇伝を聞かされ、呆気にとられる2人。北八は目算と違って腰が引けてしまいました。
 日が暮れて風呂に入り夕食を終えた頃、みちゃくちゃな顔の親仁が按摩に来ました。女の鍼医は急患が入って替わりに来た者でした。弥次は適当に済ませ、寝ることにしました。そこへ女房がやってきて、今夜宿場に胡散臭い者が入り込んでいるから気をつけてくれと通達があったことを伝えます。でも女房は自分がいるから大丈夫だ、自分は腕が立つから人を斬ったことがあるような人物でも泊めるから役人から目を付けられているだけだと言って去っていきました。
 弥次さんはあの女房だから大丈夫だろうと安心してますが、北八は「何だか気にかかる。ひょっとしてあの旅僧の仕返しじゃないか」と言い出します。弥次さんは相手にせず寝ます。暫くすると、外の戸を激しく叩き「急用だ、明けてくれ」という声が聞こえ、北八は顔色を変えてうろたえますが、隣りの鍼医と間違えた人でした。
 しかし、不安が納まらない北八は、旅僧がこの宿場であることないこと言いふらし、褌の仕返しを企んで、自分をこらしめようとしているという妄想にとりつかれ、女房に全てを告白して本当のところを聞こうと思うが、腕の立つ女だからどうなるかわからないので、自分の決意を表すために髷を斬って行こうと思うと言って、弥次さんの脇差を借りて髷を根元からふっつりと切り落とし、女房の部屋へ行きます。弥次さんは可笑しさを堪えながら、何かあれば助けに行くと言って行かせました。
 弥次さんがうとうとしかけた頃、北さんが戻ってきて、恥をさらしただけだったとうなだれます。弥次さんが、そうだと思ったと言うと、「弥次さんがここに泊ろうと言わなければこんな思いはしなかった。このことは死んでも忘れない」と負け惜しみを言う北さんでした。
  黒髪をおもいきりしは身の科(とが)の毛もなき証拠見えてたのもし
 北八は、髪を切らなければよかったと、漸く落ち着いて寝ようとするも、うつうつしただけで夜が明けるのを待ちわびていました。

『続膝栗毛十二編』中 終 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿