TheProsaicProductions

Expressing My Inspirations

diary of a genroku samurai 1

2013-07-14 | bookshelf
『元禄御畳奉行の日記 尾張藩士の見た浮世』神坂次郎著

 他人の日記というものは、何故か覗き見したくなりませんか。大概、個人的すぎて期待したほど面白くないのですが、稀に『アンネの日記』みたいに面白い内容のものも存在します。以前読んだ『幕末下級武士の絵日記』は、ヴィジュアルとして当時のお侍さんの日常が遺されていて、史料としても貴重だと思いました。
 私が江戸時代の庶民生活に興味を抱いたのも、幕末の豪商奥様グループが九州から伊勢神宮~東北~江戸を周遊した、旅行日記を現代の女性作家が編集まとめた本を読んでからでした。これは、日記の原文は大した内容ではないのですが、作家の想像力や想い入れで膨らませてあり、当時の女性の旅事情などが面白おかしく書いてありました。得てして、昔の日記は箇条書きみたいなものが多いらしく、それを現代の書籍にする場合、翻刻しただけでは一般読者には意味が伝わらず、編者が手を加えなければ読めません。同じように、現代の作家が紹介してその名を世間に知られ、ベストセラーになった日記があります。
 
 『元禄御畳奉行の日記 尾張藩士の見た浮世』は、江戸時代元禄期の尾張藩中級武士の1人、朝日文左衛門重章が17歳(数え18歳)から44歳で没する前年まで約26年間つけていた日記『鸚鵡籠中記』を、作家神坂次郎氏が独自の視点で編集解説した本です。原文を引用しつつ、赤裸々に書かれた朝日文左衛門の趣味・嗜好に焦点を当てて、小説風に仕上げてあるので面白く、ラジオドラマやお芝居、漫画になったりしています。おかげで、うだつの上がらなかった地方藩士が、現代でスポットライトを浴びるに至ったといっても過言ではないでしょう。ちょっとネットで検索しても、彼と彼の日記に関する事を書いている記事がたくさんでてきます。
 神坂氏の小説がヒットしすぎてしまったせいでしょうか、文左衛門=出世欲もなく、酒・博打・女遊び・釣りが趣味で、恐妻に悩まされた不良文学武士、というトホホなキャラクターという印象が多いようです。神坂氏の本では、文左衛門のそういうところだけを面白く強調してあるので、そんな風に読み取れます。特に、誰に警戒したのか、女遊びの箇所を暗号めいた漢字で記してあった所などは。
 引用してある原文はそれほどトホホな印象を受けなかったので、原著『鸚鵡籠中記』を読んでみようと、『名古屋叢書続編』第9~12巻を図書館で見てみました。翻刻はしてありますが、途中漢文で書かれていたり、とにかく膨大な量なので、一見して読破は無理だと諦めました。代わりに手頃な本がありました。『摘録鸚鵡籠中記 元禄武士の日記』という、原著から年代順に記事を選び翻刻編集したもので、こちらは編者の私情は入っていません。「摘録」といっても要点をまとめたものではないので、これで全てがわかることもないのですが、摘出の偏りが少ないようなので、日記の全体像と、朝日文左衛門重章の人間像も、その記述から捉える事ができました。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
«  music for the photos | トップ | diary of a genroku samurai 2 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

bookshelf」カテゴリの最新記事