邦画ブラボー

おすすめ邦画(日本映画)のブログ。アイウエオ順(●印)とジャンル分け(★印)の両方で記事検索可能!歌舞伎、ドラマ感想も。

「笛吹川」

2006年05月20日 | ★人生色々な映画
先日亡くなった田村高廣さんが出演している、
深沢七郎原作、木下恵介監督による時代物。

以前冒頭を見ただけで怖気づいてしまった。
全面ピンクの戦場に、累々と死体が横たわっている。
まるで地獄のような導入部なのです。

だが、地獄はこの世にあった。

戦乱の世に笛吹川のほとりに住む、
貧しい農民一家の五代に渡る物語。
愚かな試みは何代にも渡って繰り返される。
全体に流れるのは圧倒的な無常観だ。

白黒ベースの画面は
有るときは真っ赤、また或る時は真っ青にと彩られる。

1960年の作品だから、
黒澤明の「天国と地獄」における「ピンクの煙」より、
3年も前に作られたということだ。

領主のために戦に出ようとする子は、
必死に止めようとする親を振り切り
二度と帰ってはこない。
親子間の普遍的で皮肉なすれ違いがみえる。

戦で火をかけられた寺の中、
僧侶たちが「心身滅却すれば火、おのずから涼し」と、
読経する場面は恐ろしい。

木下恵介監督はなんと前衛的で激辛な監督なのだろうか。

だが同時に日本中を泣かせた「二十四の瞳」や
「喜びも哀しみも幾年月」も撮っているのだから
興味深い。

若き市川染五郎は粗暴な若造をやらせたら天下一品で、
この作品でも思い切り無茶をやってます。
肉親を殺され呪いに生きる女(荒木道子)の
隈取りメイクも斬新だった。
(黒澤明「乱」の仲代達矢のよう)

田村高廣さんはこのとき32歳。
高峰秀子と共に若者~老け役まで演じていて
すでに才能が華々しく迸っている。

改めてご冥福をお祈りいたします。

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「女房学校」

2006年05月17日 | ★痛快!な映画
「嵐を呼ぶ男」などの井上梅次監督。

夫に不満を抱くコケティッシュな美人妻三人。
お互いの夫がよく見えて・・洒落たコメディタッチの作品。

妻たちには山本富士子、叶順子、朝丘雪路。
その夫に森雅之、川崎敬三、川口浩。

ぽんぽん飛び交う台詞が楽しく、お色気ムードもバッチリ。
見たい見たくないは別として
朝丘雪路の「ベビー・ドール姿(脚丸出しのひらひらナイティ)」、
元ミス日本、山本富士子の水着姿も拝めます。

料亭を経営している山村松代(山本富士子)の夫(森雅之)は
金魚の研究に夢中。
ろくな稼ぎも無いのに居間を金魚の水槽で埋め尽くす夫に、
松代のヒステリーが爆発する!

山本富士子の芸の幅広さを物語るコメディエンヌぶりは実に見ものだが、
ぼさぼさ頭、グルグル眼鏡、よれよれ服、森雅之のとぼけた演技も
マニア必見。(何のマニアだか不明)

森が留置場で出会う精神分裂の男に
西村晃が扮し、大爆笑。
一場面だけだが、
エキセントリックで迫力満点の発作を見せつけてくれる。
今まで見た中で一番可笑しい●チガイ演技。
おたおたしながら西村に付き合う森のパフォーマンスも可笑しい。

他に小沢栄太郎、関敬六 大宮敏充(デンスケ)、山田周平など。

ラストは井上梅次の奥さん、月丘夢路
華麗にびしっときめてくれる・・・
と思いきや、
その後河辺公一の脱力音楽で締めくくられる。

華やかで、可愛い女たち。春の宵にぴったりの映画。

1961年 監督 : 井上梅次  脚本 : 斎藤良輔
撮影 : 中川芳久 音楽 : 河辺公一
美術 : 仲美喜雄

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ドリフの「楢山節考」

2006年05月09日 | ★TV番組

「楢山節考」を思うとき
ドリフターズの傑作コントが頭をよぎる。

前半は哀しげな音楽が流れ、しごく神妙な調子。

年老いたおっかあ(志村けん)を背負った息子(加藤茶)が、
うなだれながら険しい山道を登っていく。

カラスが飛び回る頂上には、累々と屍が横たわっている。
怯える母を残して泣く泣く家へ戻る息子。

と、その時
おっかあは脱兎のごとく走り出して、
あっという間に
家に駆け戻ってしまう!

拍子抜けした息子はまた母を背負い山に登るが、
元気いっぱいの母親は息子よりも早く山を駆け下り、
家に座って待っている。

何度登っても登っても、母は戻ってくる・・・

「ダメだこりゃ!」チャンチャン♪

不謹慎ですが、
哀しいときでもこれを思い出すと
バカ笑いが止まらなくなって困ったことになります。

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木下恵介版「楢山節考」

2006年05月08日 | ★人生色々な映画
ゴールデンウィークが終わってしまいましたが
皆さんいかがお過ごしですか?
元気出していきましょう!

とはりきっていたのに、
この映画を観たおかげで
思いっきり無常感に襲われ、五月病です。

深沢七郎の「唄」のような物語を
見事に具象化した作品。

背景はすべて作りこまれたセット
(「雁」などの伊藤熹朔)、
長唄の14世杵屋六左衛門、浄瑠璃の野沢松之輔による音楽が
ぴたりと映像にあっている。

これが50年前に作られたということでまた衝撃を受ける。
ものすごい作品は
時空を超えてパワーを保ち続けるものなのだなあ。

真っ赤に染まったり、真っ青になったりする空の下、
ちょこちょこと動き回る人間はまるで作り物の人形のようでもある。

芝居そのものはリアルだ。
田中絹代の台詞は抑揚があって、歌っているかのように聞こえる。
よく働きそうな嫁、望月優子の優しさに救われる。

江戸時代、とある貧しい村。
70歳になった年寄りは口べらしのため、お山にあがらねばならない。

お山に行くときは村の顔役たちに申告するため
「やっぱりやめた」
ということは許されない。
親子を囲んで儀式が厳かに執り行われ、決まりごとが告げられる。
この場面、舞台演出のようで面白い。

いよいよ、
母を背負った息子が長く険しい道を登って行く。

たどり着いたお山はもはやこの世ではないものすごさ。

しきたりどおりに
息子の言葉にも答えず雪の中に黙って座る母は
すでに小さな「仏さま」のようである。

息子を演じた高橋貞二さんは33歳という若さで亡くなられたが
1950年代にすさまじい数の映画に出られていたようです。

カンヌで賞をとった今村昌平監督の作品も
リアリズムに徹していて素晴らしいが、
実験精神に溢れた木下版は深沢文学を映像化し得た
驚異的な作品として、もっと知られるべきだと思う。

1958年 監督 : 木下恵介

原作 : 深沢七郎
脚色 : 木下恵介
撮影 : 楠田浩之 
音楽 : 杵屋六左衛門  野沢松之輔
美術 : 伊藤熹朔 梅田千代夫

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「社長学ABC」

2006年05月07日 | ★痛快!な映画
女性が見てももちろん楽しいが、
大人の男性が
ゴールデンウィークにくつろいで観るのにぴったりなのが
「社長シリーズ」だ。

第32作目。
系列会社の社長に就任した森繁が
社長の座を専務の小林桂樹に譲り
「社長学ABC」を説くというストーリー。

この後の33作目「続社長学ABC」で、シリーズは遂に終わりとなる。

三木のり平が抜けている穴には藤岡琢也、
謎の国籍不明人にはフランキーのかわりに
小沢昭一が出演しているのです。

往年のゴールデンメンバーが揃っていなくて
少し淋しいかなと言う気もするが
社長婦人の久慈あさみ、
元気な加東大介の顔を見るとほっとする。

小林桂樹が社長になって威張っているのは
どうしても馴染めないなあ、と思ってしまう。
それもやっぱり秘書や専務役が上手すぎたからなんだけど。

今回の社長の浮気相手には池内淳子。
秘書の恋人役、内藤洋子が爽やか。
元マドンナ司葉子はすっかり落ち着いた大人の女性です。

いつも同じタイミングで浮気のチャンスを逃し、
妻にいやみを言われる社長。
わかっちゃいるけど見るのをやめられないのは
一貫したトーンにハズレがないことと、
サービス満点の達者な演技にひかれるからだ。

美術が成瀬映画でおなじみの中古智なんですね、知らなかった。

1970年 松林宗恵監督作品
脚本 笠原良三
撮影  長谷川清
音楽  宅孝二
美術  中古智

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