邦画ブラボー

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「近松物語」

2006年03月07日 | ★愛!の映画
近松門左衛門
「大経師昔暦」が原作。

大経師とは朝廷御用の、
経巻・仏画などを表装した職人の長。
賀茂・幸徳井両家から新暦を受け、
大経師暦(今でいうカレンダーですか)を
発行する権利を与えられた。(大辞林より)

格式ある家の女房と手代の道行き・逃避行の物語。

年の離れた美しい妻おさん(香川京子)を持つ
大経師以春(進藤英太郎)は
商売熱心だが吝嗇で、女中(南田洋子)にも手を出す脂ぎったオヤジだった。

実直で真面目な手代の茂平衛(長谷川一夫)は、
おさんの実家のために
店の金を操作して工面したのが運のつき。

不幸な偶然も重なり
誤解を受けたふたりは共に出奔するはめになる。

追い詰められていよいよ死のうとする時に
茂平衛の告白を受け、おさんの気が変わる。

ここは日本映画史上に残る夢のような名場面。
二人の熱演は見ごたえあります。

この後もあっと驚く展開が待ち受ける。
近松の原作を
終始緊迫した演出でたたみかけるように見せる溝口監督が素晴らしい。

死を覚悟した二人が家も親も捨て、
誰の言うことも聞かず、人の目もはばからずに
ぼろぼろの姿で抱き合う姿は
浪花千栄子でも目をそむけてしまうほど激しい。

まったく目のやり場には困りました。

香川京子は
浪花千栄子の家に泊まりこんでお引き摺りの着物を着た際の
所作、一切合財を教えてもらったそうだ。

直接的な濡れ場は無いものの、
二人が見つめあうだけでも十分色っぽい。
長谷川一夫が香川の脚に接吻する場面など
大いに戸惑ってしまうくらいエロチック。

溝口監督にはユーモアがないという説もあるようだが
おさんの兄役の田中春男が
の~んびりと素っ頓狂な調子で謡う場面など
緊張がばあっと緩んで私は爆笑しました。

邦楽を巧みに使ったすごい効果、
時代考証が完璧になされた美術、
江戸時代の人はこうであったかと想像させる
結髪、衣裳の素晴らしさ。

宮川一夫のカメラが撮る絵は
どの場面もまるで浮世絵が動いているかのようだ。
美しい勾玉のような作品。

当時姦通は市中引き回しの上磔、さらし首。
死を覚悟した人間のパワーに恐れ入る。

近松の三大姦通ものといわれる
「鑓の権三重帷子」は篠田正浩監督が岩下志麻主演で、
「堀川波鼓」は「夜の鼓」として有馬稲子主演で
今井正監督が映画化している。

監督:溝口健二

原作:近松門左衛門 劇化:川口松太郎 脚本:依田義賢 
撮影:宮川一夫 美術:水谷 浩 音楽:早坂文雄

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