邦画ブラボー

おすすめ邦画(日本映画)のブログ。アイウエオ順(●印)とジャンル分け(★印)の両方で記事検索可能!歌舞伎、ドラマ感想も。

「修羅雪姫・怨み恋歌」

2006年03月16日 | ★イカス!映画たち
タランティーノも惚れこんだ、
修羅の道をゆく修羅雪姫。

「子連れ狼」の小池一夫・「同棲時代」などの上村一夫の劇画が原作。

シリーズ第二作目。
監獄で生まれた雪、通称修羅雪姫。
向かってくる敵をばったばったと斬り倒し(1対10人ほどを1分ほどで全クリ)
逃亡するも警察に包囲されついに獄中へ。

舞台は明治末期の東京。
裁判で極刑が言い渡されるが、
形場に向かう途中で何者かが現れ、馬車を乗っ取ってしまう。

向かった先は秘密警察の親玉(岸田森)の屋敷だった。
まるで劇画を見ているようにいかがわしさがいっぱいだ。

「顔面蒼白」とはどんな顔かと思った人はこの映画の岸田森を見るといい。
南原宏治は期待に答えた怪演で楽しませてくれる。

命を助けられた雪がスパイとして送り込まれたのは、
反政府主義者の徳永乱水(伊丹十三)の家だった。
伊丹十三は監督として有名だが、素晴らしい俳優でもあった。
汚れ役もなんなくこなしている。(顔汚れすぎかも?)

屈折した役どころの原田芳雄はこの頃一番ノっている。
どんな映画に出ていても原田芳雄なのがこのひとのすごいところだ。

同じくノッテル藤田敏八監督の、
血をびゅっびゅっ飛ばす残酷シーン、濡れ場(伊丹×吉行和子)、
貧民窟のシーンで真っ裸の子供を走らせるなど、
どっきり演出がさえまくっている。
だが、
主役梶芽衣子の神秘的な美しさが無かったら果たして
この異様なテンションの映画をこれほどまでに楽しめただろうか?

口からではなく、射るような大きな瞳でものを言う。
感情が抜け落ちた
どこかロボトミーのような修羅雪姫。
魂は母の胎内においてきたのだろうか。

殺陣はお世辞にもうまいとは言えない。
だがすべて許せるほど、壮絶に美しい。

ひと目見ればあなたも修羅雪姫にとどめをさされることでしょう。

監督 : 藤田敏八 原作 : 小池一雄 上村一夫
脚本 : 長田紀生 大原清秀
撮影 : 鈴木達夫 音楽 : 広瀬健次郎 美術 : 樋口幸男

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「寺内貫太郎一家」感想

2006年03月14日 | ★TV番組
リアルタイムで見ていたクチだが、
再見してみると、色々な発見があった。

まず、浅田美代子がうまかったことには正直驚いた。
田舎娘を生き生き演じた「ALWAYS三丁目の夕日」での
掘北真希にも負けない「味」があった。
樹木希林や加藤治子らのベテランを相手によくやっていたと思う。
歌はやっぱりへたくそだったけど(爆)、逆に可愛らしさをひきたてていた。

弱点も逆手に取ってチャーミングポイントにしてしまったのは
久世さんのプロデュースによるものだろう。
劇中に歌を入れるのも当時は無かったアイディアだった。

「ばあちゃん」の出番ってけっこう多かったんですね。

向田邦子の脚本が新鮮だ。
今のドラマには皆無の「父権」という言葉が浮かび、
涙ちょちょ切れるお父さんも多いのでは?

どこの家庭にもあるトラブルや小さな不幸も描きながら
バッチリ、ユーモアが効いている。
主人公に演技のど素人(小林亜星)を使うというのは
演出家に力がないとめちゃめちゃになるんだろうけど、面白かった。
いるだけで存在感ありますね。
それに伴淳三郎や左とん平、由利徹なんていう、
一言しゃべっても面白くて味があるベテラン喜劇陣がしめてくれますしね。

梶芽衣子に半纏をかけてやるシーンでは
伴淳が「ハンフリー・ボガード」に見えたのは
私だけでしょうか?

喜劇人といえば、最終回にちらっと出てきた財津一夫。
出てくるだけでドラマの流れをぶち壊すようなパワーがあって爆笑。
たぶんアドリブらしい台詞で、西城秀樹が下を向いて笑っているのがわかった。

それにしても久世さんは知性と、
並々ならぬセンスを併せ持った方だったのだなあとあらためて敬服いたしました。

淋しいです。

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「秘剣」

2006年03月10日 | ★ぐっとくる時代劇
松たか子のお父さんが主人公です。

孤児だった早川典膳(市川染五郎)は
細尾家に拾われ、少し年長の長十郎(長門裕之)とは兄弟のようにして育った。
剣の腕では道場一の腕前だったが、
剣術オタクで
せっかくの逢瀬にも剣三昧の話、婚約者をもドン引きさせる。

時は太平の世。腕に覚えがあるものは実戦に飢え、
通りがかりの乞食を試し斬りするていたらくだった。

そんな時、若侍たちの憧れ宮本武蔵が道場を訪れ、若者たちは熱狂する・
剣に生きる厳しさを全身にみなぎらせた月形龍之介の宮本武蔵
(いっぱい斬りまくった後のシニア武蔵です)が渋い!

一本気で 変わり者の典膳は同じく変わり者の武蔵を相手に
大見得を切ってしまい、
それが藩のお偉方や仲間たちの反感を買ってしまう。
出る杭は打たれる運命にあった。

現松本幸四郎は若いときのほうが
断然よかったんじゃないだろうか?
なんて書くとファンの方に怒られそうだけど
芸風が変わったというか、別人みたいに見える。
この映画では(市川染五郎だった)
いちずに剣術を極めようとしてぶち切れる青年を
演じていてすがすがしい。
今が清々しくないっていうのではありませんけど。(弁解)
ストレートな演技で野性味にあふれている。

唯一この映画の難点は、
典膳と並ぶ剣の達人が長門裕之で
殺気あるシャープな染五郎に比べ、
どうしてもそんなに強く見えないところ。
黒澤映画だったら仲代達矢あたりを持ってくる役柄ですね。

1963年 稲垣浩 監督作品
原作 : 五味康祐
脚色 : 木村武・稲垣浩
撮影 : 山田一夫 音楽 : 石井歓
美術 : 植田寛

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「近松物語」

2006年03月07日 | ★愛!の映画
近松門左衛門
「大経師昔暦」が原作。

大経師とは朝廷御用の、
経巻・仏画などを表装した職人の長。
賀茂・幸徳井両家から新暦を受け、
大経師暦(今でいうカレンダーですか)を
発行する権利を与えられた。(大辞林より)

格式ある家の女房と手代の道行き・逃避行の物語。

年の離れた美しい妻おさん(香川京子)を持つ
大経師以春(進藤英太郎)は
商売熱心だが吝嗇で、女中(南田洋子)にも手を出す脂ぎったオヤジだった。

実直で真面目な手代の茂平衛(長谷川一夫)は、
おさんの実家のために
店の金を操作して工面したのが運のつき。

不幸な偶然も重なり
誤解を受けたふたりは共に出奔するはめになる。

追い詰められていよいよ死のうとする時に
茂平衛の告白を受け、おさんの気が変わる。

ここは日本映画史上に残る夢のような名場面。
二人の熱演は見ごたえあります。

この後もあっと驚く展開が待ち受ける。
近松の原作を
終始緊迫した演出でたたみかけるように見せる溝口監督が素晴らしい。

死を覚悟した二人が家も親も捨て、
誰の言うことも聞かず、人の目もはばからずに
ぼろぼろの姿で抱き合う姿は
浪花千栄子でも目をそむけてしまうほど激しい。

まったく目のやり場には困りました。

香川京子は
浪花千栄子の家に泊まりこんでお引き摺りの着物を着た際の
所作、一切合財を教えてもらったそうだ。

直接的な濡れ場は無いものの、
二人が見つめあうだけでも十分色っぽい。
長谷川一夫が香川の脚に接吻する場面など
大いに戸惑ってしまうくらいエロチック。

溝口監督にはユーモアがないという説もあるようだが
おさんの兄役の田中春男が
の~んびりと素っ頓狂な調子で謡う場面など
緊張がばあっと緩んで私は爆笑しました。

邦楽を巧みに使ったすごい効果、
時代考証が完璧になされた美術、
江戸時代の人はこうであったかと想像させる
結髪、衣裳の素晴らしさ。

宮川一夫のカメラが撮る絵は
どの場面もまるで浮世絵が動いているかのようだ。
美しい勾玉のような作品。

当時姦通は市中引き回しの上磔、さらし首。
死を覚悟した人間のパワーに恐れ入る。

近松の三大姦通ものといわれる
「鑓の権三重帷子」は篠田正浩監督が岩下志麻主演で、
「堀川波鼓」は「夜の鼓」として有馬稲子主演で
今井正監督が映画化している。

監督:溝口健二

原作:近松門左衛門 劇化:川口松太郎 脚本:依田義賢 
撮影:宮川一夫 美術:水谷 浩 音楽:早坂文雄

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「妻は告白する」

2006年03月06日 | ★愛!の映画
若尾文子ファンなら地団太踏むこと間違いなし。

彩子(若尾文子)は薬学部の学生時代に
教授(小沢栄太郎)に無理やり犯され、愛のない結婚をする。

嫌々夫の趣味の登山に付き合ったある日
アクシデントで夫もろとも険しい岸壁に宙吊りになってしまう。

思わずザイルを切って助かった彩子に
保険金殺人の疑いがかけられ,
同行した幸田(川口浩)との間に愛人関係が噂される。

果たして故意の殺人なのか、不可抗力だったのか。
法廷シーンでは検事(高松英郎)が容赦なく彩子を追い詰める。
ドライな弁護人には根上淳。みんなで彩子をいじめすぎ!
サスペンスタッチの演出で先が読めない。増村監督うまいです。
ゴールデンコンビと云われる由縁もよくわかる。
若尾文子の魅力の引き出し方がさすがだ。

憎たらしい夫には、
「雁」でもいやらしさ全開の小沢栄太郎が、
同情から次第に婦人の求愛にほだされていく優柔不断な男を川口浩が好演。

判決も出ないのに
二人で海に行っちゃったりして唖然。

しかしこんな美しい人妻の猛烈アタックに
果たして耐えられる男子がいようか?

とも思うが。

棄てられそうになった彩子が、
ずぶぬれで幸田の職場に現れる場面は秀逸でした。

愛のためには大胆にも、
ヤケクソにも、捨て身にでもなんでもなろうという彩子が可愛い。
これですよ。

感情移入している
私の気持ちを代弁するかのように
元婚約者(馬淵晴子)が幸田をなじる。

いい脚本とメリハリがきいた演出で楽しめる、
若尾文子いじめな一本。

1961年 監督 増村保造 原作 円山雅也 
脚本 井出雅人 撮影 小林節雄 音楽 真鍋理一郎

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