邦画ブラボー

おすすめ邦画(日本映画)のブログ。アイウエオ順(●印)とジャンル分け(★印)の両方で記事検索可能!歌舞伎、ドラマ感想も。

新藤兼人の「狼」

2006年04月01日 | ★人生色々な映画
身もふたも無い話を撮らせたら(書かせたら)
右に出るものがいない新藤節がここでも炸裂。

保険会社の外交員募集会場には様々な事情により
職にあぶれ、生活に困った男女が集まっていた。

原(浜村淳)、三川(殿山泰司)、
矢野(乙羽信子)、藤林(高杉早苗)、吉川(菅井一郎)もその中にいた。

会社のお偉方(東野英次郎・三島雅夫・小沢栄太郎)
の猛々しい訓示をおずおずと聞き、
昼食として支給された卵丼を遠慮がちにたいらげる・・・

「親類縁者に頼ってでも、石にかじりついてでも!
一軒でも多く契約をとりつけてきてください!」

彼らが向かうのは、高い保険に加入済みの裕福層ではなく、
新規契約が見込まれる一般の商店やサラリーマン家庭である。
生活は豊かではないので門前払いの連続だ。
契約成立は困難を極め・・にわか外交員たちはひとり減り二人減りしていく。

途方に暮れる5人の男と女はそれぞれに問題を抱えていた。

一件も契約を取り付けられず、切羽詰った彼らはとうとう、、、
「強盗でもやりますか」
夏のじりじり暑い昼間、ついに決行!

新藤監督の容赦ない演出でひとりひとりの不幸が
「これでもか!これでも足らんか!」とばかりに暴かれていく。

全員共通しているのは極貧の生活環境なのだが、
一番悲惨なのは障害を持つ息子の手術費のために加わる乙羽信子だ。
貧しい家で一人健気に留守番し、回らない舌で唄う息子。むせび泣く母。

くく・・・暗すぎるよう。

最悪の経済状況ではこんなに善良な人たちも
悪事を働かざるを得なかったのか!とまで、
観客を有無を言わさずひっぱっていく。(おいおい・・)

とことんまで行くのが新藤兼人なのである。

心ならずも悪事を働き、
つかの間の金持ちになった彼らがその夜取った行動は
見るものの涙を絞りつくすだろう。
あまりのことに開いた口がふさがらないかもしれないが。
とにかく、とことんいくのです。

羊のように弱い彼らが、集団で狩をする「狼」と
報道されてしまうのも皮肉であった。

結末も追い討ちをかけるように激辛です。
菅井一郎が演じるのは元売れっ子の脚本家。
新藤自身を投影しているのかも。

哀れすぎる話に、
もうやめて~と思いながら最後まで見てしまうのはなぜだろう。

1955年 監督 :新藤兼人 脚本:新藤兼人 撮影:伊藤武夫 
音楽:伊福部昭 美術: 丸茂孝

ブログランキングへ
おかげさまでじりじりと・・ありがとうございます