思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

【読書メモ】2010年6月 ②

2019-01-28 13:52:56 | 【読書メモ】2010年
<読書メモ 2010年6月 ②>
カッコ内は、2019年現在の補足コメントです。

『北緯14度』絲山秋子
紀行エッセイですね。最初は私小説かと思った。
恋人へのメールが毎章ごとに引用されているけれど、この人、実在するのかしら。
フィクションだといいなあと思ってしまった。
いや、どっちでもいいんですけどね。
セネ飯が食べてみたくなった。

(著者のセネガルへの紀行文です)


『女の窓2』伊藤理佐
「妙齢お姉さん」とか「徒歩40分のふたり」とか名言が多い。

(伊藤理佐も吉田戦車も愛読していたので、まさかの結婚で叫びました。
 伊藤サイドの育児マンガ『おかあさんの扉』と
 吉田サイド『まんが親』を併読するとものすごくおもしろいです)


『阪急電車』有川浩
阪急の各駅にまつわるショートストーリー。
いつもは人物造型がラノベっぽい作者なんですが、
こういう体裁のショートストーリーだと登場人物が典型的。
なのに、なぜかうそっぽくて残念。

(個人の好みの意見です)


『リヴィエラを撃て』高村薫
話しが広大で、なかなか細部まで理解できたとは言い難いけれど、
一気に読んで楽しめた。
この人、文庫1冊サイズの作品はないのかしらん。

(世界中を舞台にしたスケールの大きいスパイミステリ。
 IRA、CIA、MI5、MI6などの海外組織が沢山出てきて、
 私はいろいろと疎いもので、組織の立ち位置や役割を把握するのに
 手間取った覚えがあります。
 何はともあれ、骨太で男臭くて、読んでいるうちに切なくなるけど
 読み応えは抜群のおススメ小説です。
 日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞受賞)


『植物図鑑』有川浩
読んでいて恥ずかしいくらいのラノベ系恋愛小説だけど、
野草の摘み方食べ方の丁寧な表現とかは、
自分でもやってみたいと思えて魅力的だった。

(デビュー作からこの作品辺りまで読んで、
 ちょっと満腹かな、と思い、有川作品を読むのをやめました)


『ねにもつタイプ』岸本 佐知子
すごくおもしろい!
翻訳が本業の方のエッセイですが、
ちょっとした空想や妄想のエッジが立っていて惹きこまれる。
翻訳系の雑誌で連載されていたみたいだけど、
そういう話しがゼロで、また、いい感じ。

(「翻訳系の雑誌で連載」されたのは、第一エッセイ集『気になる部分』。
 ちなみに雑誌名は『翻訳の世界』だそうで、私は永遠に縁が無さそうである。
 『ねにもつタイプ』は雑誌『ちくま』に連載されていたようです。
 第23回講談社エッセイ賞 受賞(2007))
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ウィングフィールド『夜のフロスト』シリーズ最強のブラック(勤務)!

2019-01-25 20:13:08 | 日記
R.D ウィングフィールド『夜のフロスト』読了です。

ブラック勤務の常習犯フロスト警部シリーズの
三作目です。

二作目『フロスト日和』
四作目『フロスト気質』

このシリーズ、
とにかくフロスト警部がブラック勤務をしまくるのですが、
タイトルが『夜の〜』となっている通り、
徹夜もどんとこい!ついでに早番も日勤も繋げるぜ!
って感じのシリーズ史上最強のブラックっぷりです。

働き方改革とか言っている現代日本に生きるすべての人が
読んでいる間、とにかく、「警部、休んで!!!!」って思うこと請け合いです。

あと、デントン警察のブラックの元凶はマレット署長だな…とも思います。

まあ、それがフロストシリーズのフレームではあるのですが。

今回もいわゆる「モジュラー型小説」ということで、
複数の事件が同時多発し、それぞれあちこち追い回しつつ
最終的におおむねシャンシャン、という良い感じのストーリーです。

しかし今回は死人が多かったな。
冒頭の大きめな案件である新聞配達中に失踪した15歳の女の子も
ちょっとずっしりくる内容だったし。

とはいえフロスト警部の事件に対する執着
(といったら本意ではないのかな?もはや本能の取り組みですよね)と、
「俺の勘」&しくじりっぷり&下品なジョークはキレッキレで、
相変わらず良い感じです。

なにはともあれ750ページ超えの極厚小説ですが
(上下巻にしてもよかったのでは)
ガーッと読めるしスカッと楽しめるし、
安定のおすすめ小説です。

シリーズ最終作、もったいなくて読みたくないなあ。
(とかいっていると10年は寝かす私である)

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熊谷達也『ウエンカムイの爪』サクッと読めるデビュー作

2019-01-18 12:14:06 | 日記
『相克の森』『邂逅の森』『氷結の森』の
“森シリーズ”(もしくは“マタギ三部作”)で知られる
熊谷達也のデビュー作です。

第10回小説すばる新人賞受賞作。
マタギ3部作の1作目である『相剋の森』に繋がる前段の話でもあるらしい。
って、私が唯一読んでいない作品じゃないですか。
読む順番を間違えずにすんで良かった…。

『ウエンカムイの爪』は、一日で読めるくらいのページ数。
舞台も現代なので、なんというか、中身もページ数もぶ厚い
マタギシリーズになじんだ身としては意外な感じでした。

とはいえデビュー作から、熊谷達也は熊谷達也であるともいえる小説です。

アイヌの言葉でいい熊は「キムンカムイ(山の神)」
悪い熊は「ウエンカムイ(悪神)」と言うそうです。

冒頭に主人公の吉村が出会ったヒグマはウエンカムイではないけれど、
彼(人間)の視点から描くヒグマの恐ろしさはリアリティがあって
ドキドキしました。

ついでに言うと第二章のヒグマ被害に遭う東京の能天気な学生の描写は
なかなかリアリティがなくてドキドキしましたが、
熊谷氏の描くべきはそういうとこじゃないので、良し!
解説の阿刀田高も述べていましたが、審査時もそういう話しはあったようです。

熊谷作品の中では「是非に!」と言う一冊ではないですが、
この作家のファンとして「これが熊谷作品の始まりか」と思うと
しみじみ読めます。
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梨木果歩『海うそ』一緒に島を歩いた気分に

2019-01-17 11:31:04 | 日記
梨木果歩『海うそ』。
岩波文庫版をパラパラっとめくってみたら
章のタイトルが地名と植物名らしき単語だったので、
『家守綺譚』みたいなお話しかな?と思い手に取りました。

そういった自然の描写の細やかさは通じるものがありますが、
こちらはさらに主人公が抱える喪失や内面への問いかけが濃いですかね。
ちょっと深くて考えさせられる物語です。

舞台となる九州の「遅島」は作者による架空の島ですが、
平家落人伝説や、修験道が盛んだったが廃仏毀釈で破壊され尽くされた寺、
民間信仰のモノミミ、狭い島ながらに気候差と文化差があること
などなど、設定の細やかさには驚かされます。

中盤は、主人公の秋野氏(30代前半の研究者)と案内人の青年
梶井くんの島内フィールドワーク。
道なき道をたどって山歩きをしつつ、
杣小屋に泊まったり洞窟を覗いたり、
珍しい植物や蝶に出会い、島の歴史を語り、
秋野氏が抱える喪失を振り返ったり、ちょっと不思議な体験をしたり。
ついでにヤギや伊勢海老を食べてます。

読んでいるうちに、一緒にフィールドワークをしている気分になれる
というか、遅島の自然と歴史に触れ、魅入られてしまうような、
不思議な物語です。

さらに最後の章として(というわりに長いけど)、
50年後、80代になった秋野氏が開発によって変わり果てた島を再訪し、
再び、何らかを感得します。

80代になった秋野氏は、
   喪失とは、私のなかに降り積もる時間が、増えていくことだ
と語り、作者はインタビューで
   人生は、喪失することの連続で成り立っているようなもの
と語っているそうです。
どちらも、それなりに長い時間を生きないと出ない言葉ではないかと。
許嫁と両親・恩師と死に別れたばかりの30代の秋野氏は、
遅島でようやく、その端っこに触れたのではないかと思います。

ところで、島の自然や歴史の設定もすごかったのですが
家屋に於ける民族建築的な設定もリアリティがあって。

南方系の居住棟と炊事棟が別々になっている(分棟型・多棟型)
流れから二ツ家(分棟が屋根で繋がっている)や
カギ家(L字型)ができたのでは?という説が
主人公の考察としてもっともな感じに書かれており、
なんだかフムフムとなってしまいます。
(二ツ家は、九州の方に実際にある形態だそうです)

もちろん細部もとてもすてきです。
獺(かわうそ)に対してアシカを「海うそ」と呼ぶとか。
島の地名のひとつひとつに由来がある感じとか。
島がたつのおとしごの形をしていて、
秋野氏が最初に逗留した場所が龍目蓋(タツノマブタ)とか。
山奥なのに「波音(ハト)」という地名がある謎とか。
立ったまま凍死するカモシカの話しは
心打たれるものがありました。

作者の『家守綺譚』系が好きな人にはおススメです。

が、テーマは主人公(と、時の流れという大きなもの)の
「喪失」であり、それが主軸でもある物語です。
「若隠居(ほぼニート)の綿貫くんの愉快な日常」的な
要素はありません、ということだけ付け足しておきます。

あ、でも、タライに乗って湖を渡るじいさんとばあさんの描写は
すごく良いよね!
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2018年の読書ふりかえり

2019-01-16 17:07:38 | 日記
2018年も安定のポンコツでしたが、
それなりに読書を楽しめたので良い一年でした。

しかし年々、純文学を読む忍耐というか読解力というか
何かが失われていっている気がしないでもない。
文章を追いながら、別のことを考えたりもするし。

まあ、そんなポンコツ感も安定と言えば安定である。


◆2018年ベスト!!!
火星の人』アンディ・ウィアー
事故により火星に一人取り残された宇宙飛行士(兼、植物学者でエンジニア)
マーク・ワトニーの、ガチ火星サバイバルです。
ワトニーかっこいい…。
第46回星雲賞海外長編部門 受賞
「SFが読みたい! 2015年版」ベストSF2014海外篇1位
等、賞歴もありますが、とにかく文句なしにおもしろいので、おススメです!


◆2018年次点!!
『泣き虫弱虫諸葛孔明』酒見賢一
酒見先生によるありがたくも時々眉唾な孔明論。
私は『三國志』を人生で読んだことが無かったので、
ものすごく興味深く且つ面白く読みましたし、
めちゃくちゃ勉強にもなった!とありがたい想いでいっぱいです!
が、『三國志』に造詣の深い友人に薦めたところ、全くハマらなかった…。
やはり好みがわかれるようです。
でも私は好きです!壱部から参部までが特に楽しいです!
第壱部
第弐部
第参部
第四部
第伍部


◇2018年読んで良かった!!

犯罪』フェルディナント・フォン・シーラッハ
「犯罪」にまつわる短編集で、
作者はベルリンで刑事事件担当の弁護士として働いていた人物。
どれもこれも、文学でいて写実っぽい。なんだか妙に深い。
ページ数も少ないので、だまされたと思って読んでみてほしい一冊です。


平成大家族』中島京子
2018年は中島京子さんの良さを再発見できた年とも言えそう。
この作品が一番好きですが、『妻が椎茸だったころ』も同じくらい好きかも。
全作品読破できていないので、今年も楽しませていただきます。


雪沼とその周辺』堀江敏幸
連作短編集として谷崎潤一郎賞を受賞しています。
良い文学体験が味わえる、静かでキレイな一冊です。
気もちが凪いでいる時期に美味しいお茶と一緒に読みたいです。
(しかし残念ながら、始終ざわつき気味な私である…)


スペース金融道』宮内悠介
『ナニワ金融道』宇宙版みたいなエンタメ小説です。
が、SF的なガジェットや、宇宙だろうが変わらない金融関連の知識は
とてもおもしろいです。
あと主人公が何かと酷い目に遭う愛すべきダメ男で、
猿渡くんが好きな人には特におススメです!
(そういうジャンルあるのかな…)


◇まだお時間おありでしたら、こちらもおススメです

スタッキング可能』松田青子

ルピナス探偵団の当惑』『ルピナス探偵団の憂愁』津原泰水

スウィングしなけりゃ意味がない』佐藤亜紀

ぼくのともだち』エマニュエル・ボーヴ


というわけで、今年も楽しい読書がたくさんできるといいなあ。
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