思惟石

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『ピカルディの薔薇』と『虚無への供物』

2017-10-05 14:20:15 | 日記
日本探偵小説の三大奇書って、ご存知でしょうか。
夢野久作『ドグラ・マグラ』(1935年)
小栗虫太郎『黒死館殺人事件』(1935年)
中井英夫『虚無への供物』(1964年)
と言われています。

それぞれクセが強い上に、それぞれ結構なページ数を誇っています。
私は20代前半のあたら若い時間を棒に振って読破してみました。

三冊ともそれなりに楽しく読みましたが、
まあ、読まなくても人生何も困らない三冊でもあります。
身も蓋もないな…。

そういう話しではなく。

津原 泰水『ピカルディの薔薇』を読みました、という話しです。

怪異と怖い女ばかり寄ってくる猿渡くんというダメ男が
何かと酷い目に遭うという短編シリーズです。
シリーズ第一作の『蘆屋家の崩壊』は
ホラーのなかにミステリ的な要素もあったのですが、
第二作の『ピカルディの薔薇』は
幻想怪奇小説の趣が濃くなっています。

この本に収録されている表題作『ピカルディの薔薇』が、
『虚無への供物』へのオマージュ作品らしいのです。

もちろん、ポンコツな私は、一読して気づきませんでした。
安定のポンコツ感!

というわけで『虚無への供物』を見返してみると、
モチーフがふんだんに盛り込まれているようです。

以下、『ピカルディの薔薇』のネタバレってほどでもないですが
詳細に触れます。

作中で人形作家の星くんが育てている薔薇の品種名
「オフランド・オゥ・ネアン」は
『虚無への供物』で氷室紅司が育てていた試作品の薔薇の名前。
正確には、咲いたら命名しようと考えていた名前ですが、
彼は連続殺人の被害者になってしまうので
作中では未完成だったはず。
猿渡くんのいる世界では品種改良は成功したようです。
良かったね。

また、作家である猿渡とその編集者である奈々村女史が
バーで「1954年」のできごとをテンポよく列挙しあう
くだりがあるのですが。
1954年は『虚無への供物』の舞台となった年ですね。
洞爺丸の事故についてだけ会話が踏み込んでいるのも
意識してのことでしょう。
もちろんバーで聴いてる音楽はシャンソンです。

ちなみに編集者の奈々村女史は、『虚無への供物』に出る
素人探偵・奈々村久生の姪という設定のようで。
珍しい苗字だと思ったら、そこから来ていたのか。

という感じで『虚無への供物』とのリンクが面白いので、
こういうときに三大奇書なんぞというものを
読んでおいて良かったな(20代の花ざかりに!)と思います。
思うようにしています。

星くんの思考はイマイチわからなかった。

短編作品としては白鳥社長の出る二本が良かったです。
『籠虫花』と『フルーツ白玉』。
蛭のエピソードを伯爵が一言で台無しにする感じ、
共感を覚えます。

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