思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『日本の近代建築 上: 幕末・明治篇』 近代建築史のバイブルです

2024-06-28 10:29:41 | 日記
『日本の近代建築 上: 幕末・明治篇』
藤森照信

近代建築の名著と言えばこれですよ。
すさまじい取材力と知識量で綴られている
建築史の決定版。

コロニアル様式の東西ルートと冒険商人の関係。
イギリス派とドイツ派の違い、
(マンサード屋根のボリューム感とか
 何回見てもわからないんだ)
クラシック様式とゴシック様式の差。

学生時代の私は「なるほど!」「すげ〜わかりやすい!!」
と感動しながら、結局、何も覚えていないダメ学生でしたが
読んだ時のときめきだけは鮮やかに残っています。
ありがとう藤森先生!

何度読んでもオーダーの構成比が覚えられないけれど、
ドーリア式・イオニア式・コリント式の柱頭飾りだけは
覚えました藤森先生!!

というわけで20年ぶり(!)に読み直しています。

うん、相変わらず
「ドイツ派の武張ったフォルム」とかわからない。
辰野金吾がデザインあまり上手くなくて、
妻木頼黄の調和を生み出すデザインバランス力の差もわからない。
写真を見比べてもわからない…。

(でも私は妻木派です。
辰野と喧嘩して議事堂のすったもんだして負けちゃって
代表作は「橋」(日本橋)って感じの不器用さを応援したい)

学生の頃に読んだときは、海外から来たコロニアル様式や
(東回りルートのヴェランダ式と西回りルートの下見板張りがある)
その後に続く擬洋風建築が好きで、
西郷従道邸(明治村に移築されている)や
開智学校(現存してる、というか国宝になってる!)を
観に行ったものです。

今ならコンドル先生の作品巡り
(鹿鳴館、三菱一号館、岩崎久弥邸、等々)
がしたいなあ。
あと片山東熊(唯一のフランス派)巡り
(奈良帝室博物館、京都帝室博物館、赤坂離宮)もしたい。

ちなみに私、コンドル晩年の作品・旧古河邸(古河庭園)
の近くに2年弱住んでいたことがあり、
定番の散歩コースでした。
(なにしろ150円で広大な庭園に入れるのだ)
贅沢な散歩コースだったな。

幕末・明治の動乱とともにあった大型建築の役割
(イデオロギー的な)なんかも
再読すると昔とは味わい方が変わるものですね。
伊東忠太の交友関係が心配だよ。

そんなこんなで、下巻に続く。
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『異国トーキョー漂流記』 人間関係が愛しくなるエッセイ

2024-06-27 14:08:39 | 日記
『異国トーキョー漂流記』
高野秀行

毎度おなじみ(すごい勢いで読んでいる)辺境冒険家の
高野秀行さんの、なんと、国内に関するエッセイ。

と思ったら、日本国内で出会った8人の「外国人」とのエピソード。
さすがのコンセプト。

まず、出会い方も高野さんらしい。
辺境を旅するために語学学習の目的で外国人に声かけたり
紹介してもらったり。
他にも帰国する飛行機で出稼ぎ(大したツテもなく)に来た
自称日系人を拾ったり。

私だったら一度遭遇したとしても
以降の付き合いが続かないだろうなという始まりから、
高野さんは高野節で人間関係を築いて行くんだよなあ。
明確な目的があるわけでも、打算があるわけでもなく、
自然な感じで人と接している。
うらやましいなと思う。

めちゃくちゃ仲良し!というわけでもないけれど
コンゴの実家に伺ったり、
わざわざフランスで再会したり、
高学歴無職イラク人のバイト先を探してあげたり。
いやもう、なんかうらやましい。

8人それぞれクセつよな個性を持った性格で
個人的に仲良くなれるかは自信ないのだけれど(失礼)、
このエッセイを読んじゃうと、好きになっちゃうんだよな。

ちなみに、高野さんが10年以上住んでいた
三畳間(野々村荘)がちょこちょこ登場します。
こちらも『ワセダ三畳青春記』を読んじゃったので、
好きなんですよ笑
人間でないどころか、貸間だけど。
「お、元気か?相変わらず三畳か?」とか思っちゃう。

ちょっと元気がない時に読むと元気になれるし、
人間関係に疲れた時に読むと、多分だけど、
人間のめんどくささもちょっと愛しくなると思います。
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『敦煌』 莫高窟に埋まった経典のお話し

2024-06-25 13:34:19 | 日記
『敦煌』
井上靖

映画も有名な井上靖の西域小説。
1959年初出だそうです。
時代を感じるなあ…。

世界遺産として有名な敦煌・莫高窟から出土した
「敦煌文書」が如何にして埋められたか。
を描いた時代小説。

舞台は11世紀、宋(北宋)の時代。
チベット系のタングートが「西夏」を起こした頃。

主人公の趙行徳(ちょうぎょうとく、読みやすい)は
宋の首都開封で科挙の試験に昼寝して落ちる。
どんまい。
そして流れ流れて(この主人公、流れすぎである。
林檎ちゃん並みにころころ転がっていく。親が泣くぞ)
気がついたら宋と敵対する西夏の漢人部隊で参謀みたいになってる。
おい。

とはいえ、意志薄弱というわけでもないし
(兵士にぶん殴られても言いたいことを言う)
自分の意思で行動を選んでいるし、
好感が持てるような、でもダメ男のような…。
不思議な人物である。

そしてラストは敦煌で勝ち目のない戦となり、
莫高窟に経典を埋めるために奔走します。
おお、こんな感じで埋められたのかあ、というワクワク感。

もうちょっと西夏、沙州、吐蕃あたりのことを
体系立てて知りたいな。
なにか良い本はないものか…。
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『日本の建築』 隈研吾の建築論と、「ぼく」話し

2024-06-21 10:41:33 | 日記
『日本の建築』隈研吾

超絶有名建築家の最近の本ですね。
岩波新書、2023年初版。
執筆8年だそうなので、
61歳から69歳にかけての建築論となります。

タイトルのイメージから、古代とか中世あたりから
話しが始まるかと思ったけど、近代建築史の本だった。
初期モダニズム建築リーダーのブルーノ・タウト来日から
始まります(1933年)。

建築学科を出た人間にとっては、
タウトと言えば桂離宮。
桂離宮と言えばタウト。
(そういえば観に行ったことないな…)

ちなみにタウトはモダニズム建築代表の
ミースとコルビュジェのことを
フォルマリズム(形態主義)と言って批判していた人。
フォルム(建築のカタチ)優先で
場所と建築を「繋ぐ」ことをおろそかにしている、という批判。
モダニズムは「切断主義」だとも言っている。

確かに、サヴォワ邸やバルセロナパヴィリオンは
「庭付き一戸建て」じゃないよな。住みたくない。
どこにでもポコっと移築できそうだし。

あとは、建築って何かと二項対立するよね、という話しが
とてもおもしろい。

タウトの、桂離宮(雅!)vs日光東照宮(キッチュ!)。
これは王朝文化vs武家社会でもある。
関西vs関東とか、ヨーロッパ的なるものvs日本的なるものとか。
他に、縄文vs弥生論争とかあるんだけど、
私的にはどっちがどっちやねん、です笑
藤森照信先生の縄文建築ファンではあるけれど、
こういう二項対立の話しではなかった気がするので
私も「縄文派」とは言いたくないな。
建築の思想的な話し、なにかと「どっち?」って選ばせるムーブ、
やめた方がいい。

とはいえ、二項対立あるあるで言ったら、
私は猫派でありたけのこ派である(断言)。

学生時代はあまり流派とか建築スタイルとかよくわからなくて
(今もよくわかってない)、
でもなんとなく伊藤忠太と藤井厚二(聴竹居)は好きだったので
二人が師弟だったという話しは良かった。

あと清家清の「私の家」が好きなんですが。

そういえば、この本の後半ではレーモンド自邸の複製
(パトロンである井上房一郎邸)が紹介されています。
小さな家が二棟に分かれていて、真ん中にパティオがある。
屋根はあるけど、壁はない。
風通しの良いほぼ「外」空間。
ビビッときた。
この空間が好きだ。

私は多分、半外空間が好きなんだな。
バルコニーは違うんだ。どちらかというと土間の方が近い。
「私の家」の土間も良いけど、移動畳が最高に良い。
実家の縁側も好きだった(猫もいたし)。
良い歳にして自分の好みがようやく理解できたぜ。
マンション暮らしだけど。

あ、あと団地も好きなんだ。
51Cはほんと、好き。
田の字プランも好き。
都営団地に住んでみたい(風呂はベランダにつくる)。

という感じで、戦前戦後を通じての日本の近代建築史を
概観したあと、隈先生は「ぼく」の建築話しで本をまとめます。
めっちゃ有名な建築家だと思っていたけれど
大型建築の発注がない10年間(90年代)とかあったんだなあ。
と、いきなり等身大の話しにしみじみする。
うまいこと本を畳んだなっとも思ったけれど。

でも良い勉強になる本。
名建築巡りにでかけたくなりました。
(そういえば隈研吾設計の富山のガラス美術館は
吹き抜けから見る断面が良かった。
構造に関係ないルーバー(固定)は意味が気になった)
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『ハワイの歴史と文化: 悲劇と誇りのモザイクの中で』

2024-06-17 15:54:59 | 日記
『ハワイの歴史と文化: 悲劇と誇りのモザイクの中で』
矢口祐人

そういえば「ハワイ=楽園」以外の印象とか
歴史とか、考えたことなかったな…。

と、突然気付かされるタイトル。
思わず読んでしまった。
空前絶後の円高なのに。(だからか?)

アメリカ文化研究が専門の先生による、
ハワイ文化入門書です。
4部構成ですが、まずは「移民」から現代に向かい、
最後に「ネイティブハワイアン」の歴史へ戻る。
あえて時系列ではない構成、珍しいなと思いつつ、
これがなかなか読みやすかったです。

日系移民の話しは完全なる他人事でもないというか
導入としてやはり強いですよね。
ピクチャーブライドという単語は知らなかったけれど、
写真だけでお見合いして異国に嫁いだら全然違うじゃん、って
中世貴族が絵画交換してお見合いしてた頃と
変わってない。

官約移民の悲劇だと、小説『ワイルド・ソウル』を思い出す。
こちらはブラジルだけれど。

あと、元々は自生していた白檀をアメリカが
中国に輸出していたというのは知らなかった。
採り尽くしちゃった後に、サトウキビを移植したそうです。
元々サトウキビが生えていたわけではないんだな。

戦争中の日系人や韓国系の人々の辛い立ち位置も
改めて読むと考えさせられる。
日本人ではあるけれど日本国民ではない、という意識は
なるほどなあと。
いろんな国の歴史をこつこつ学んでいけると良いなと思います。
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