思惟石

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『夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く』

2024-07-22 15:18:37 | 日記
『夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く』
奈倉有里

ロシア文学専門の研究者である著者の、
ロシア留学時代エッセイ。
「ロシア」という国と文学に深く潜っていくような
不思議な思索。

著者は私と同年代。
ですが、重なるところはそれだけ。
20歳で単身ロシアに渡り、
語学を学びながら大学受験(一般受験!)して
モスクワの文学大学に入学。

入学の伝手も何もなく、現地で進路を選択し
学びを切り拓いている。
そこで出会った民族的なことや文学的な思想やらを
自分で手繰り寄せ、受け止め、考えている様子が伺えます。

同年代だってことが逆に申し訳ないな!
と思うくらい、自分にはない要素だらけの人生で
とにかくすごいな!と思う。

後半の、恩師との思い出と、最期の振り返り。
むう、人間関係での後悔も人それぞれだよなあ。
(こういうことに関しては、
私は「書かない(誰とも共有しない)」を選ぶタイプの人間だ)
でも著者の真摯に考えたあれこれが文章から滲み出ている。

余談ですが、この文学大学は旧貴族のお屋敷を利用しており、
巨匠とマルガリータ』に出るグリボエードフの家のモデルでもある。
え?あの内田百閒ばりグルメ列記攻撃かましたレストラン?
いいなあ、行ってみたい。

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『フォルモサ 台湾と日本の地理歴史』 18世紀のタモリさんかな?

2024-07-18 17:33:49 | 日記
『フォルモサ 台湾と日本の地理歴史』
ジョージ・サルマナザール
原田範行:訳

1704年にイギリスで出版された、
「架空の台湾誌」です。
奇書オブ奇書。

作者は「自称フォルモサ(台湾)人」ですが、実はフランス人。
この『フォルモサ』はイギリスで大ヒットし、
作者のサルマナザールはフォルモサ文化の講演会とか
フォルモサ語講習とかやっていたらしい。

ちなみに中身はホントに「架空」。
文化風習も、宗教や歴史も、フォルモサ語に至るまで
よくまあこんなに考えたなあと感心するレベルで
自由に書かれています。

以下、印象的なフォルモサポイント
・フォルモサ(台湾)は日本の植民地
・日本の当時の「皇帝」はクーデターで王位簒奪(え?皇帝?)
・フォルモサの農民ファッションは裸に毛皮のマントだけ。
 局部はベルトにぶら下げた板(!)で隠します
・フォルモサの通貨は「コンパン」(小判かな?真ん中に穴があるけど)
・何かと子供を生贄にする
・馬車は象さんが引きます
・欧米人が「フォルモサ人」「日本人」のフリしてもバレない
 (人種の違いを認識されていない)

自由に書きすぎ〜!と思いますが、
地理的な説明は結構、正確らしい。
(正確なのはそこだけとも言える)

とはいえフォルモサ語のアルファベット変換表とかあって、
がんばって書いたな!と、やはり感心する。

1700年というと、
ヨーロッパ各国が東インド会社を設立して
あちこちに拠点を確保していた時代。
一方で、「極東」のイメージは全然あやふやな時代。

フランス生まれの著者が「フォルモサ人」を名乗ったり
欧米生まれの神父が「日本人」のフリをしてフォルモサに密航する、
という、21世紀だと無理めな設定も
1704年のイギリスではスルーだったんだな。
というのが、一番面白かった。

「フォルモサ」は実際に「台湾」を示す言葉で、
ポルトガル語の「美しい島」という意味でもある。
が、この本では「タイオワン」と「フォルモサ」は違う島、
と言っている。
なんでそこだけ紛らわしい主張するんだよ…。

実はこの本は、イエズス会を批判するための
イギリス国教会プロパガンダ本。
3分の1近くがキリスト教教義のアツい主張
(だいぶ個人的な主張)なのだけれど、
当時のイギリス人も、現代の私たちも、
おもしろいと感じる部分はそこじゃない。
それで良いじゃないか、という本です。

大航海時代を土壌にした『カリバー旅行記』や
『ロビンソン・クルーソー』
が誕生する直前の奇書。
結局、サルマナザールは「嘘」だったことを白状するけれど
ありもしないフォルモサ語の講義などもバレずにやっていて
(英語とはまったく違ったソレっぽい発音だったらしい)
18世紀英国のタモリさんかな?と思う。

なんじゃこら、と思いながら読みましたが、
最終的には「多才な人だなあ」と感心してしまった笑
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『諸子百家』渡辺精一

2024-07-11 14:15:23 | 日記
『諸子百家』渡辺精一

私、「諸子百家」というのは
「三国志」「封神演義」みたいな中国古典文学だと
思っていました…。
違った…。

諸子百家:
孔子を筆頭に、老子、荘子、孟子、荀子、韓非子、孫子……など、春秋戦国時代の古代中国では、数多くの思想家が現れた。彼らは「諸子百家」と総称される。
(Amazonの商品説明より抜粋)


思想家の人々を指す表現だったのか…。

というわけで角川ソフィア文庫の『諸子百家』。
中国古典文学研修者の著者による、
諸子百家の有名どころ(孔子とか老子とかいわゆるな人)の
思想をわかりやすく解説した一冊です。
聖書を読まずに阿刀田高を読む私にピッタリの本だな!

以下、個人の解釈です。

孔子。
レジェンド。

老子。
なるようにしかならない。「運命論」の人。

荘子。
夢見がち。

孟子。
「孔子いわく〜」と言いがち。性善説。
おかあさんが教育ママ。
熱弁おじさん。

荀子。
孟子にめちゃ怒ってる。
性悪説。
理屈っぽい。

韓非子。
例え話がうまい、故事成語メイカー。
兄弟弟子に妬まれて投獄される。

孫子。
孫武か孫臏かどっちやねん。
孔子や荘子が君主に理想論を語る同時代に、
兵法家として戦にめっちゃ勝つ。
思想的には老子と被る。

みんな面白い人たちだな!という感想です。
中国史っておもしろい。
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『医学の歴史』 門外漢でも楽しいし、世界史としても面白い!

2024-07-10 16:28:42 | 日記
『医学の歴史』
梶田昭

講談社学術文庫
Amazonの解説には「人間味溢れる新鮮な医学史」とありますが、
人間味というか、おもしろ知識エピソードが溢れている笑

この先生、元医科大学教授なんですが、
めちゃくちゃ広範囲の知識が豊富で(読書量もえげつなかろう)
医学に限らず、歴史や古典のエピソードがたくさん出てきて
門外漢でも楽しめる「医学史」になっています。

始まりが「古代の治癒神」な感じからして、
この本、当たりだな!ってなりますよね。
古代中国は伏犠、神農、黄帝(ここらへんはギリ知っている)
エジプトはイムホテプ(知らない)
ギリシアはアスクレピオス(知らない…、
でも杖と蛇が絡み合ってる医学シンボルは知ってる〜!)
と、つかみが強い笑

で、ギリシア科学の発展があって
(ギリシアの植民都市イオニアの繁栄は、科学・哲学・数学と幅広い)
ヒポクラテス(前460−375)が生まれて、
(ちなみにソクラテスと同時代人だって。へえ〜)
ローマ帝国が栄えてガレノス(129-199)が生まれる。
ガレノスは、ギリシア医学の最後の華にして、
ヒポクラテスを神聖化した人である。

わかりやすくておもしろい!

ビザンツ医学、中世のペスト禍、仏教と中国医学、
中国のヒポクラテス(扁鵲(へんせき)「韓非氏」に出る)、
ペルシア領の繁栄(ジュンディーシャープール)、
解剖学が進化したのは戦争で火薬が使われるようになったから
(イタリア戦争には有名な外科医パレ(フランソワ1世)も
解剖学者ヴェサリウス(カール5世)も従軍している)、
近代ヨーロッパの科学者にはプロテスタントが多い
(ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義』)、
等々。

楽しい!

感染症が解明される前夜は、
ミアスマ(瘴気)説と、コンタギオン(接触伝染)説の対立があり。
パストゥール(1822-1895)が低温殺菌を発見し、ワクチンを命名し、
コッホ(1843-1910)が細菌の発見と特定、
そして「微生物の狩人」の時代へ。
(北里柴三郎も活躍した時代。ところで新札に全然出会えない)

いやあ、医学の歴史って、人類の歴史ですよね。
そりゃそうだ、ではあるけれど。

『砂糖の世界史』や『疫病と世界史』を読んだときも思ったけど、
歴史を見る角度をちょっと変えてみるのって
面白いものですね。
現代の中東や南米の小中学校で習う「歴史」って
どんなストーリーなんだろう?
知りたくなってしまった。

ちなみにこの知識無双で縦横無尽な梶田先生、
著作があまり多くないんですよ。
そして、この本の原稿を推敲する前に亡くなってしまったそうです。
もっといろいろ読みたかった。
合掌。
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『日本の近代建築 下: 大正・昭和篇』藤森照信

2024-07-08 15:48:12 | 日記
『日本の近代建築 下: 大正・昭和篇』藤森照信

そんなこんなで下巻です。
大正・昭和になり、
国内の建築家が育ち始めます。

ざっくり言うと
歴史主義派と、
歴史主義から脱却した派に分かれます。

脱却派はさらにいろんな主義に別れる。
表現派とかモダニズムとかバラック装飾社(MAVO)とか。

モダンデザイン変遷は以下。
19世紀末:アール・ヌーヴォー(植物的、官能性)
→10年代:キュビズム、初期表現派(鉱物性)
→20年代:バウハウス(白と直角、幾何学)
→デ・スティル、コルビュジェ(ピューリスム、コンクリ打ち放し)
→ミース(ガラスと鉱物の均質空間)

個人的には横河民輔(1864-1945)が好きですね。
まだ歴史主義全盛の時代の辰野門下で、
卒業設計は官公庁や金融系の象徴的な大建築を扱うものなのに
「町屋」をテーマにして辰野先生を絶句させたそうです。
かっこよ。

卒業後に渡米して鉄骨技術を学んだことで
地震大国日本に鉄骨造建築をいち早く導入。
元々がエンジニア気質&実業家らしく、
エレベーターや空調のために横河電機研究所、
鉄骨橋梁を専門とする横河ブリッジ、
家具用の人造皮革を開発する横河化学研究所など
創業しまくった人。
そして本職の建築デザインには特に興味がないので
逆に優秀な建築デザイナーが事務所で育ったそうです。
かっこよ!

あと小ネタですが。
関東大震災(1923)によって耐震性に優れた
鉄骨造・鉄筋コンクリート造が普及します。
鉄骨造だと火災で鉄が溶けることもあり、
鉄筋コンクリートの方が評価は高かったそうで。
コンクリでできた壁や橋を「万年壁」「万年橋」と呼ぶのは
耐久性への期待感からだそうです。

「文化包丁」「電気ブラン」みたいなネーミングで、好き。
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