思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『誓願』ディストピアを笑えなくなってきた

2022-04-28 13:35:14 | 日記
『誓願』
マーガレット・アトウッド
鴻巣友季子:訳

『侍女の物語』の続編です。
前作の語り部オブフレッドの逃亡から15年後、
ギレアデ国の末期が舞台。

前回は主人公である侍女オブフレッド(フレッド氏の所有物という意味。
超絶人格否定!怖っ!!)の一人称であったのに対して、
今回は3人の語り部がいます。

ギレアデでは特権階級である司令官の娘として育てられたアグネス、
逃亡侍女に連れ出されたカナダ育ちの少女デイジーの「証言」と、
体制側の女性トップであるリディア小母の「手記」が、
交互に紡がれる。
視点が複数あるので、前回のような暗闇の中を手探りしながら
ギレアデの実態を手繰り寄せるような恐怖感はないですが、
まあね、あっけらかんとね、眺めが良いくらいにね、ただただ恐怖ですよ笑

女性の人権がぜんぜん無くて、いわゆる「良家の子女」でも
文字を習えず、清廉であることだけを求められ、
14歳前後で結婚させられる。
絶望的ディストピア。
ギレアデの全貌が見えたところで、絶望しかないね!滅びろ!!

『侍女の物語』のときは「ディストピア怖い〜笑」くらいには
苦笑しながら読んでいたのですが。
今回は、ウクライナやウイグルの悲惨なニュースが
現代に、現実に、この地球上で起きていて。
なにかのきっかけ次第ではギレアデも誕生し得るぞと思って、
心底、ぞっとしました。
「ディストピア笑えねえ」である。

作者の言葉「人類史上前例のない出来事は作中に登場させない」も、
肯けてしまう。
怖い。

とはいえ、前作同様、最後はギレアデが消滅した数百年後の
歴史家によるシンポジウムで終わる。
(「証言」と「手記」が発掘されたという構成)
それだけで、ちょっとだけホッとする。
資料も思想も大して残せずに消えたか、ざまみろ。
いや、うまいこと歴史から消えたってことなのかな。
それだと腹立つな!

『侍女の物語』は1985年に出版、アーサー・C・クラーク賞受賞。
つまり当時はSFだね!という評価だったんですね。
それが、トランプ大統領就任のあたりからブーム再燃し、
ファンタジーじゃねえよ!怖えよ!!となります。
意外と笑えない。
『誓願』はイギリスの文学賞であるブッカー賞受賞。
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『エミリの小さな包丁』癒し系田舎料理物語

2022-04-27 11:43:59 | 日記
『エミリの小さな包丁』森沢明夫

失恋&失職した25歳の女子が都会から田舎に逃げて、
じいちゃんや地元の人と触れ合って、
新鮮なお魚料理をたーんと食べて、癒されるお話しです。

ん?前にも読んだか?
という、よく見るフォーマットではあるのだけれど、
ちゃんと癒されました笑

転がり込んだ先は、
龍浦(たつうら)という漁港近くに住むおじいちゃんの家。
良いなあ、海辺。

毎朝、犬の散歩をし、
近所のおばあちゃんに野菜をもらい、
毎日、食事用の魚を釣り、料理する。
冷汁やなめろう、アジの塩辛みたいなメジャー料理から、
サワラのママレード焼きみたいな珍しいものまで。
読むと魚を食べたくなります。
というか冷蔵庫に豚肉があったのに、夕食が急遽サバの塩焼きになりました。
魚と米は最強ですね!

そして、エミリは意外と立ち直るの早かったね!
(約2ヶ月で再び恋をし失恋し東京で再就職する。フットワーク軽いな!えらいぞ!)
田舎にずっと住んで、ゆっくり働いても、良かったんじゃないかな〜。
まあ、あまりウジウジされても困るんで、いいですけど。
(『太陽のパスタ、豆のスープ』は、もうちょっとがんばれ!と言いたかった)

ちなみに田舎で癒される系だと
『天国はまだ遠く』『神去なあなな日常』が好きです。
『食堂かたつむり』は全然好きじゃないです。
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【読書メモ】2016年3月 ②

2022-04-26 12:11:38 | 【読書メモ】2016年
<読書メモ 2016年3月 ②>
カッコ内は、2022年現在の補足コメントです。


『旧怪談―耳袋より』京極夏彦
「耳袋」を現代語訳というか、脚色してショートショートにした怪談集。
武士のNさん、とか、御家人のYさん、とかが
聞きかじりっぽくて良い感じである。

(タイトルは「ふるいかいだん」と読みます。
 短編よりも短い掌編なので、ちょこちょこ読むのも楽しいかも。
 怖い!というよりも、江戸時代らしい大らかで不気味な「不思議な話し」。
 杉浦日向子大先生の『百物語』の趣きがあります。
 褒めすぎか?
 wikiを見ると、『嗤う伊右衛門』『覗き小平次』などの長編作品を
 <江戸怪談>シリーズと銘打っているのに対して
 こちらは<現代怪談>シリーズらしいです。
 なんで?耳袋なのに?
 続編ぽいやつ(『幽談』『冥談』他)が現代物なのかな?
 機会があったら、読んでみようかな。どうかな)


『12番目のカード』ジェフリー・ディーヴァー
<リンカーン・ライム>シリーズ。
アメリカの歴史とか、いつものおやくそくなハラハラ感とか、
今回は読むのがめんどくさくなってしまった。
と文句を言いつつ、おもしろくは読みました。

(<リンカーン・ライム>シリーズ6作目。
 特に襲われる理由がなさそうな女子高生が執拗に狙われ、
 意味深にタロットカードなんかが置かれちゃいます。
 さらに突き詰めると140年前の公民権運動が関わってる?
 といういきなり社会派ミステリ展開!
 お約束のドキドキジェットコースター感!
 シリーズ内ではあまり評価が高くないみたいですが、
 安定のおもしろさだと思います。

 ちなみにシリーズ内で評判良いのが、
 『ボーン・コレクター』『ウォッチ・メイカー』
 『ソウル・コレクター』『スキン・コレクター』
 って、語尾伸ばしがち。語尾がrになりがち〜!!)
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『一人称単数』8本ぜんぶ良い短編!

2022-04-25 15:59:01 | 日記
『一人称単数』村上春樹

『文學界』で発表された短編を一冊にしたもの。
2020年7月に刊行。
って、コロナになってから出版された作品だったのか。
もうちょい前、『騎士団長殺し』と同じ頃に出たイメージが
あったんだけどな。
しかもまだ文庫にはなってないみたいですね。

個人的な嗜好で申し訳ないが、
単行本の表紙がとてもとても気に入らなくて。
(メタファーを描こうとすんじゃないよ!!!おらぁっ!!!と思ってる)
文庫で表紙が変わりますように、と祈りながら待っていたのだけど
結局、単行本で読んでしまった。

収録作は8作。
「石のまくらに」「クリーム」「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」
「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」「『ヤクルト・スワローズ詩集』」
「謝肉祭(Carnaval)」「品川猿の告白」「一人称単数」

どれもこれも良い〜!
初出順に収録されているのだけれど、
最初の2作は比較的つくりこんだ短編で
3作目あたりから、作者本人に近しい設定になる感じがある。
神戸とか、1960年代の思春期エピソードとか
(ビートルズが来日したり学生運動の機運があったり)、
作家としての描写とか。
肩の力が抜け始めたのか、
設定を設定するのがめんどくさくなってきたのか。
いずれにせよ、良い感じである。

『ヤクルト・スワローズ詩集』に至っては、
もはやエッセイですよね笑
村上ラヂオっぽい、好きなトーン。
とはいえ作中の詩集の存在は創作っぽいですね。
思わず調べてしまった笑。
「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」の
伏線回収と言えなくもない。

品川猿の登場も、往年の短編っぽさがあって良かった!
なんで猿が?と言いつつ、受け入れるの早いんだよ笑

象徴的に音楽が登場するのも多くて、
ピアノクラシックが聴きたくなりました。
シューマンのCD買おうかな。
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『その名にちなんで』ABCDという存在の物語

2022-04-22 15:44:18 | 日記
『その名にちなんで』
ジュンパ・ラヒリ
小川高義:訳

インド・カルカッタ出身のベンガル人夫婦がアメリカに渡り、
アメリカで生まれ育った息子の物語。

父が若い頃に出会った事故のエピソードにちなんで
「ゴーゴリ」という珍しすぎるファーストネームになったことが、
主人公の人生の複雑さのコアになる。

というか、異国の地で故郷を想いながら暮らしている両親を持つ
2世の悩みということだと思う。
その象徴としてゴーゴリという名前がある、というのが良い感じ。

ゴーゴリが主人公と言いつつ、ほぼ親子2世代の物語でもある。
母親アシマの苦労や悲しみの方が、人間臭くて、
ちょっとおろかしいところもあって、私は好きだ。

この本でABCD(American=born confused deshi:
アメリカ生まれで混乱したインド系の人間)という表現を
知ったけれど、
大人になってから異国の地で生活を築くのも、
異国の風習を大事にする両親に育てられる2世というのも、
どちらも混乱を抱えるものなのだろうな。

興味深く読んだし、ラストは胸に来た。
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