思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

堀江敏幸『その姿の消し方』蚤の市へ行こう

2021-09-30 15:32:06 | 日記
『その姿の消し方』堀江敏幸

主人公がフランス留学時代に
蚤の市でたまたま買った古い絵葉書。
そこに書き込まれた「詩」と、
書いたであろう人(有名な詩人ではなさそうだ)を巡る長編小説。

Yomyomと新潮に交互に掲載されていたみたいです。
掲載誌を読んだ人はストーリーの骨子
(この詩は何?この廃屋がどうした?)に
ついてこれただろうかと、余計な心配をした。

まあ、
堀江氏の文章はキレイで読んでいて気持ちいいし
「良い短編を読んだな!」という気分になるんだろうな。
それで良いと思う。

というか、
私も第一章『波打つ格子』を読んだ後、
良い短編を読了した気になった。
そしたら第二章『欄外の船』で話が続いていたので、
若干、驚きました笑
そうだ、長編小説だったわこれ。と。

十章目に収録されている表題作『その姿の消し方』は
特に、主題である「詩人」の影が薄いんですよね。
長編に組み込まれなかったとしても、
この一編だけで良質な短編になったのではないか。
と思う一方で、
やっぱり言葉の解釈に向き合うお話しなので
この長編の10番目にちょうどいいのかな、とも思う。

「黄色は空の分け前」とか
「葡萄酒の点眼薬」とか
詩人の言葉は不思議でおもしろい。

『発火石の味』では、
詩人の難解な表現の対比として
ユゴーの『お爺さんになる方法』が紹介されています。
その「難解な表現はひとつもない」と評される
ユゴーによる素直な詩も、すごく良かった。
ただの好々爺じゃん。
孫って可愛いんだなぁ(しみじみ)。

第69回野間文芸賞(2016)受賞。
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梨木香歩『椿宿の辺りに』行きたいです

2021-09-29 08:47:28 | 日記
『椿宿の辺りに』梨木香歩

ちょっと不思議で自然豊かな世界で
小難しい思考を巡らせる男性ががんばる、
この作者らしい物語。
「痛み」が象徴的に描かれる長編小説です。

主人公の佐田山幸彦(名前!)が
自分のルーツとちょっと不思議な人々と
そして謎の「痛み」と、向き合うお話し。

古事記の海幸彦山幸彦の兄弟物語も、
この小説の重要な軸となっています。
(とはいえ孫に「やまさちひこ」って名付けるか、祖父よ!)

で、祖父・佐田藪彦氏の故郷である
「椿宿(つばきしゅく)」の辺りに向かうわけです。

山幸彦の三十肩(自称)の痛みも辛そうだけど、
従姉妹の海子(本名は海幸比子である。祖父の命名!!おい!!)の
痛みとの取り組みも大変そう。
なのに、二人とも飄々としている。
粛々と「痛み」と取り組んでいる。

うらやましくはないけれど、
そうありたいな、と思う人たちである。

『f植物園の巣穴』の続編、もしくは兄弟作品と言える
物語らしい。
f植物園、一応10年前に読んでいるんだけど、
リンクする箇所が全然わからない…。
再読しますか!
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『サーチライトと誘蛾灯』櫻田智也

2021-09-27 15:17:32 | 日記
『サーチライトと誘蛾灯』櫻田智也
昆虫マニアで定職についてなさそうなトボけた30代男子
魞沢(エリサワ)くんが主人公の連作短編集。

表題作が作者のデビュー作で、
且つ、
第10回ミステリーズ! 新人賞受賞作。
おもしろかった。

最初に読んだ際は
会話のすっとぼけたやりとりが気になったんですが
これが持ち味なんだと気づくと、
クセになる。
さすが元DPZライター。
関係ないかもしれないけど。

収録作は
「サーチライトと誘蛾灯」
「ホバリング・バタフライ」
「ナナフシの夜」
「火事と標本」
「アドベントの繭」

第二集が『蝉かえる』です。
続編も期待。
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『遊覧日記』武田百合子

2021-09-24 13:39:54 | 日記
『遊覧日記』武田百合子

武田百合子は夫・武田泰淳が亡くなって久しく、
娘の花ちゃんも妙齢となり
ひとり悠々自適生活を送る年頃に。
そんな彼女が都内のあちこちをうろうろ遊覧したエッセイ。
超素敵。

『富士日記』での別邸生活に親しんだ口なので、
都内を歩き、描写する百合子氏は新鮮。

ほとんどの遊覧にH(娘の武田花氏)が同行しているのも
あの親子らしくて、とっても良い感じである。

内容は、本当に「うろうろしてる」という感じなのだけど、
さすがの武田百合子節である。
浅草でお風呂に入って天丼を食べるだけなのに、
読んでいて楽しい。
剥製屋に何度も通う姿も良い。
川沿いで桜を見ながらお酒を飲むのも、
ビアガーデンらしき屋上で飲んでいるのも、良い。

武田百合子になりたい。

この『遊覧日記』は、小原流機関紙『挿花』に
昭和61年の12カ月間に連載されたものらしいです。
武田百合子に連載を頼む華道団体…、
凄いな。うらやましいな!
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『四畳半タイムマシンブルース』相変わらずで好きだ。

2021-09-22 10:43:35 | 日記
『四畳半タイムマシンブルース』森見登美彦

<四畳半>シリーズの最新作でもあるけれど、
アニメ版の脚本担当である上田誠が
劇団ヨーロッパ企画で書いた戯曲を
モリミーが腐れ大学生文学にリライトしたとも言える。

というわけで
上田誠・企画原案/森見登美彦・作
なわけである。

ちなみに
舞台『サマータイムマシン・ブルース』初演は2001年。
小説『四畳半タイムマシンブルース』の刊行は2020年。

こちらの四畳半小説版では、相変わらずの
下鴨幽水荘に住むくされ大学生である主人公と
小津と明石さんと樋口氏と羽貫さんと城ヶ崎氏。
みなさん元気そうで何よりです!

クソ暑い(なにしろリモコンが壊れたむさ苦しい四畳半が舞台だ)
夏の物語。

相変わらずのメンツの相変わらずのお話しで、
最高におもしろくて、とにかく愛しい。

新作が読めて良かったですありがとうございました!

ちなみに樋口氏がこだわる「俺のヴィダルサスーン!」は
上田氏による舞台のネタらしい。
ヨーロッパ企画のオリジナルも観に行きたいなあ。
早くおでかけできるようになるといいなあ。
(来週は、ようやくワクチン2回目だ!)
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