思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『アキレウスの歌』 ギリシャ神話入門にも良い

2024-01-30 18:08:29 | 日記
『アキレウスの歌』
マデリン・ミラー
訳:川副智子


ギリシャ神話やトロイア戦争でおなじみ
(と言いつつ、よくわかってないけど)、
アキレウスの物語。

名前は知ってるけど読んだことない古典名作の一、
ホメロスの『イリアス』(“イリオス(トロイア)の歌”の意)は
10年(!)にも及んだトロイア戦争の終盤、
わずか50日間(!)の物語。
だそうです(知らなかった!)

戦の終盤も終盤に活躍するのがアキレウスと、
その従士パトロクロス。
彼らの幼少期からを丁寧に丁寧に描き切ったのが
この小説。
(ここまで、ほぼ訳者あとがきの内容)

なるほど!

小説内ではアキレウスとパトロクロスは恋愛関係でもあり、
これは作者のオリジナル(というか古典では明言されていない)
のようですが、さもありなん、と思える距離感ではある。

で、ここからが凄いのですが、
その創作をコアにしつつ
他は意外と伝説に忠実な内容なんですよ。

アキレウスの父ペリウスと母であり女神テティスの
結婚のエピソードなどは、
「神、もうちょっと仲人やれよ」と思えるけど
伝説通りらしい。

女装して身を隠していたアキレウスが
行商の宝飾よりも武器を手に取ったため
男だとバレたエピソード(そりゃバレるだろ)なんか、
ペンタメローネ』で突っ込まれてますが、
この小説にも登場。
こんな不自然なエピソード、どう料理したら組み込めるんだ?
と思いますが、ちゃんと自然な流れで描かれている。
凄いな!

逆に、テティスがアキレウスを不死身にしたくて
踵をつかんで不死の川に浸けた「アキレス腱」エピソードは
ホメロス以降の挿話だそうです。
『イリアス』『オデュッセイア』を典拠として書かれているので
そういう無双エピソードは採用しなかったそうです。

ギリシャ神話の登場人物に関しては基礎知識があった方が
さらに楽しめるとは思うけれど、
この本をきっかけに調べるのも楽しいと思います。

トロイア戦争の発端である絶世の美女へレネは
中野京子さんの『名画の謎』で履修済みなので
卵2個から双子×二組爆誕(いろいろと多い!)なのも
バッチリです!

小説としてもおもしろく読めて、
名前しか知らないアキレウスの解像度も爆上がり。
良い本!
『アエネイス』は『ラウィーニア』のおかげでちょっと分かった。
こういう小説、ありがたいです。
『イリアス』『オデュッセイア』とかも書いてくれないかな。
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『民主主義とは何か』 参加と責任とファイト

2024-01-23 09:12:55 | 日記
『民主主義とは何か』
宇野重規

民主主義の歴史をなぞりつつ、
様々な観点からの「民主主義」を解説する一般書。
専門で学んでいる人には物足りないらしいですが、
「わかりやすい」ということで話題になった新書です。

と言いつつ、
政治経済が苦手すぎて右と左の違いもよくわからないのが
私。
これは、ガイド無しでは読めないな…。
と思ってましたが、
私のランニングのお供「コテンラジオ」が
民主主義を取り上げてくれたわけです。
読むなら今でしょ!今!!

コテンラジオの「民主主義」を聞きなおしながら読んだので
解像度が爆上がりじゃ〜。
ありがとうコテンラジオ!
コテンラジオなかったら読了できなかったよ絶対!!

なにしろ冒頭で語られた民主主義の危機のひとつ、
「ポピュリズム」もよくわかっていなかった。
「ブレグジット」(イギリスのEU脱退)も何それ食えんの状態。
勉強って大切よね…。

古代ギリシャのアテナイから始まる民主主義の歴史は
とてもおもしろいです。
アリストテレス(なんでも分類したがる)の
「君主制」「貴族制」「民主制」は、
「僭主制」「寡頭制」「衆愚制」という堕落形態になる。
民主制にプライドを持っているアテナイと、
その一方で古代ローマは「共和制」を採用する。
システムの改善をし続けるのも人類の歴史ムーブだなあと思える。

アメリカが民主主義を一般に広めるために書いた『フェデラリスト』。
アメリカのタウンシップを評価したトクヴィルの
『アメリカのデモクラシー』。
ワイマール共和国のシステム(憲法)を
まったく活かせない強権大統領制
(この章の小見出しが「マックス・ウェーバーの苦悩」だ。切ない)。
ハンナ・アーレントの「モッブ」(モブキャラの語源。
あらゆる階級社会から「取り残された」存在)の話。
大変勉強になりました。

宇野先生によると、
民主主義とは「参加と責任のシステム」であり
政治とは「公共的な議論による意思決定」。
その「システム」をどうルールづけて、
どう運用するかは、その時代、その場所によるよなあ。
(特にワイマールを見ていると、切ない)

最後にコテンラジオのおまけ知識。
僭主(せんしゅ・古代ギリシア語でティラノス)は
ティラノサウルスの語源。

あとヤンヤンが、民主主義を意地するには
「がんばるしかない」的なことを言っていました。
それな。
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『残酷な王と悲しみの王妃』 王家って大変だな...!

2024-01-22 11:55:12 | 日記
『残酷な王と悲しみの王妃』
中野京子

そういえばこの本は去年読んでいたのですが、
「感想を書くこと」そのものを忘れてました。
(大小様々なことをすぐ忘れる…)

この本は、集英社の文芸サイト『レンザブロー』に
『王妃たちの光と闇』というタイトルの連載を元に
文庫化したものだそうです。

タイトルを変えたのは、
「王妃を描くこと即ち王を描くことでもあったから」
つまり、王妃と王の、夫婦の物語でもある。

というわけで、以下、目次。

第1章 メアリー・スチュアート
第2章 マルガリータ・テレサ
第3章 イワン雷帝の七人の妃
第4章 ゾフィア・ドロテア
第5章 アン・ブーリン

第1章のメアリと、第5章のアン・ブーリンは
イギリスのクズすぎる離婚王ヘンリー8世の一族でおなじみ。
ヘンリー8世の長女もメアリですが(エリザベス女王の異母姉)
メアリ・スチュアートは王の妹の孫(そこそこ遠い)であり、
スコットランド女王。

どうでもいいですが、夫がヘンリー8世だったら、と考えると、
コナンくんと金田一と同じ旅館に居合わせるくらい
生還ルートが見えませんよね…。ムリムリ。
そりゃ、このタイトルの本には登場必須ですよ。

第2章のマルガリータ・テレサは、
本人はそんなにエッジーな人生ではないのですが、
肖像画が最も有名な王妃ではなかろうか。
表紙にもなっているベラスケスの『ラス・メニーナス』他。

第3章のイワン雷帝の話は、
名画で読み解く ロマノフ王家12の物語
にも詳述されています。

第4章のソフィア・ドロテアは、
ドイツ・ハノーヴァー家に嫁いだかわいそうな美人。
夫はイギリス王座がいきなり転がり込んだジョージ1世。
ハノーヴァー家は後継者をサイコロで決めたりする
どうかしてるぜ系の血筋だそうで、
代々、父王と長男(皇太子)がクレイジー闘争を行うことで
おなじみ。

イギリスの「おなじみ」、なかなかな怖いですね…。
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『カラー版 名画を見る眼Ⅱ』 シャガールみたいな青い夜〜

2024-01-19 15:19:35 | 日記
『カラー版 名画を見る眼Ⅱ
──印象派からピカソまで』
高階秀爾


カラー画たっぷり、とってもお買い得な新書
カラー版 名画を見る眼』の第2巻。

副題の通り、印象派からピカソまで。
めちゃくちゃ幅広い画風の作品が収録されていますが、
どれもこれもたった数十年のうちの近接した作品なのです。
そしてほとんど全員が、期間の差こそあれ
パリに集っていた。
すごい時代と、すごいパリ笑

特に前半は、1890年前後のパリで描かれた作品が多い印象。
1910年、すでに画家として独り立ちしていたシャガールも
パリに来た。
「当時芸術の太陽はパリにしか輝いていなかった」
「自分にはパリが必要だということをはっきり知っていた」

という回想こそ、まさにその時代の空気を捉えている気がします。

印象派の色彩分割についてなどは、
安定のわかりやすさで大変勉強になります!
(先生ありがとう)

印象派が人物をどう捉えるかの分岐点で、
モネ(光と風景に人物は溶けていく)と
ルノワールが対比的に登場しているのも良かった。
ルノワール絵画の、印象派・アングル(描線が硬い)時代を経て
生命力溢れる「触りたくなる」人物への昇華。
どちらが優れてるとかではないですが、おもしろいですね。
(個人的にはルノアール派)

ゴッホやスーラも印象派の影響を受けた時期があり、
その後に自分の画法を極めたみたいです。
なんというか、
「逆に印象派ってすごくないか!?」と思う。

学生の頃は「印象派ってぼやけてるな」と思ってたけど。
(難易度高めのジグソーパズルにハマった時期に
モネ『日の出』の2000ピースパズルを買いました。
涙が出るほど難しかった…)

あとモンドリアン=バウハウスで記憶していたのですが、
モンドリアンはバウハウスに参加していたわけではないようです。
いつも通りですが、記憶が混戦していたぜ…。

収録作は以下。

モネ「パラソルをさす女」1886
ルノワール「ピアノの前の少女たち」1892
セザンヌ「温室のなかのセザンヌ夫人」1891
ヴァン・ゴッホ「アルルの寝室」1888
ゴーギャン「イア・オラナ・マリア」1891
スーラ「グランド・ジャット島の夏の日曜日の午後」1884
ロートレック「ムーラン・ルージュのポスター」1891
ルソー「眠るジプシー女」1897
ムンク「叫び」1893
(怖さで言ったら「思春期」の方が怖いよね。
 と思ったら『怖い絵』ではそちらがセレクトされていた)
マティス「大きな赤い室内」1948
ピカソ「アヴィニョンの娘たち」1907
(フランスの教皇庁「アヴィニヨン虜囚」を思い出す。
 が、こちらはバルセロナの娼婦街の名前だそうです)
シャガール「私と村」1911
(ジッタリンジンの「シャガールみたいな青い夜」を連想してしまう)
カンディンスキー「印象・第4番」1911
モンドリアン「ブロードウェイ・ブギウギ」1942
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『図説 英国メイドの日常』 ビジュアルパワー!再び。

2024-01-11 16:48:05 | 日記
『図説 英国メイドの日常』
村上リコ

ビジュアルパワー!でわかりやすさMAXの
<ふくろうの本>シリーズ。
図説 英国執事』の姉妹本です。

英国執事篇では、男性の職業であるフットマンなど
「知らなかった〜」という内容がたくさんですが。

逆に、こちらのメイド篇は親近感が半端ない。
見知らぬメイドさんですが、見覚えがある!ありすぎる!!のですよ。

あの小説、あのマンガで登場したメイドの「あの子」の姿が、
あちこちに散見される本なんです。
(最近だと『小さなことばたちの辞書』のリジーの
身の上を思って応援してしまうな)
(日本が舞台だけど『小さいおうち』のタキちゃんとか
 『彼方の友へ』のハツちゃんとかも思い出しちゃう。がんばれ)

雇用事情とか、お給金や恋愛事情を読むたびに
「がんばれよ!!」「くじけるなよ!」となります。
もう他人事じゃない笑

それはさておき、英国の事情も様々。
30人以上も雇っている超名門のお屋敷から、
メイド一人しか雇えない中の下のお屋敷まで、
幅広いなあとしみじみします
(どちらが良いとかないけど。どちらも大変そう)。

19世紀前後のヴィクトリア時代の品行方正な空気と、
続くエドワード7世時代の華やかさも、
メイドの働く環境に影響している。
おもしろいですね。
衣装がちょっと派手になったり、休暇にダンスを踊ったり。

時代の変遷をおもしい角度で観察できるのも良い。
こういう図説シリーズは本当に好きだなあ。
他の<ふくろうの本>も読もう。
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