思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『白い雌ライオン』

2023-12-28 11:08:25 | 日記
『白い雌ライオン』
ヘニング・マンケル
訳:柳沢由実子

スウェーデンの警察小説
<クルト・ヴァランダー>シリーズの第3作。

1作目の『殺人者の顔』を読んだ時も
「ミステリではなく警察小説」と書きましたが、
今回の感想もそれに尽きるなあ。

舞台はスウェーデンの片田舎の警察署。
前作ではスウェーデンが抱える移民問題などで
大変勉強になりました。

今回は、南アフリカが抱える人種問題&社会問題とその歴史的背景。

……うむ。
勉強にはなるが、スウェーデンとの関係性が薄い気が。

ヴァランダー刑事も南アフリカの諸事情には疎いので、
一緒に勉強する感じですかね。
社会派小説かというと、ちょっと、
題材が唐突ですよね感はあるかな。

そして「ミステリじゃない」ので、
前半戦に出てくる伏線ぽいアイテムや人物は伏線ではないのです。
ずこー。

中盤あたりで、もう、謎解きとかどんでん返しとかは
ないんだなあとわかって失速します。
まあ、そういう小説だとわかった上で読む小説だと思うのだけれど。
私が海外小説にジェットコースター系ミステリを
期待しがちなせいかもしらん。
それはアメリカ作品の傾向で、北欧は違うんだと学ぶべきですね。

あ、ヴァランダー刑事は1作目に比べるとだいぶマシになってましたよ!
アル中じゃないし、元妻をストーキングしてもいなかった!
そして冒頭でいきなり空き巣に家財道具一式を盗まれていた!!
ちょっと愛せそうなダメ男になってきた笑
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『赤めだか』 落語界隈こわ〜ってなる良エッセイ

2023-12-22 14:00:58 | 日記
『赤めだか』
立川談春

立川談志の弟子である立川談春のエッセイ。
入門から真打になるまで。

10代で競艇選手になる夢が敗れ、
落語家として談志に弟子入りするところから始まります。

談志の自宅に電話して弟子入りのためのアポ取りするとか、
新聞配達で広告の折り込みもするとか、
ディテールに昭和が出ていて味わい深い。
(よくこんな細かいことを覚えているなあ、とも思った)

兄弟子には立川志の輔、弟弟子に立川志らく。
師匠の家元談志の理不尽さという個人的なアレも、
落語家世界の体育会的な上下関係も、
いわゆる閉じた社会の閉じたルールも、
こわ〜っとなります。

また、弟弟子の志らくに対する複雑な感情も
どストレートに出ていて、こわぁ〜っ!!となります。

なかなか激しい回顧録ですね笑

立川一門やべ〜と思いつつ、おもしろいんだな、これが。
とにかく文章にキレがある。ユーモアもある。
なんだかんだでご本人のキツめな性格が垣間見えつつ
辛いことも笑い話にしてやるという気迫を感じてしまう。
おもしろいけど、こわ〜ってなる笑

なんか褒めてなさそうだけど、
昭和の世界や芸の道をおもしろく読める、良いエッセイです。
タイトルもめちゃ良いよね!
(赤めだかは前半で象徴的に出てくる)
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『周期律』 ユダヤ人化学者の極小史

2023-12-21 19:13:50 | 日記
『周期律』
プリーモ・レーヴィ
訳:竹山博英

元素名を章のタイトルとテーマにした、
自伝的エッセイ。
何それ素敵。

作者はイタリア生まれのユダヤ人。
化学少年から化学者になった人。
1919年生まれ、ナチスが台頭した時代に
ファシスト体制で混乱しているイタリアで
生まれ育ったという人でもある。

第一章の「アルゴン」(希ガス)は反応性が乏しい性質。
という特性に絡めて、マイペースに生きた親戚や祖先の素描。
つづく「水素」は化学者に憧れた少年時代、
友人と一緒に水の電気分解をした思い出だったり。

なるほど、おもしろい書き方のエッセイだなあ、
と思いました。

子ども時代からナチスのユダヤ人迫害が本格化し、
イタリアでもあからさまな差別はないけれど
なんとなく不穏な空気を感じる。

章が進み、作者も大学生になると、一気に不穏な時代感に。
学生時代には人種法が発布されて、
学士号を得ることも就職することも難しくなる。

徐々にイタリアもナチス勢力に染まっていく様子も
よくわかります。
さらに戦争が進むとナチスのユダヤ人迫害の噂も届くけれど、
どこか遠い話しだと思ってしまったという。
それもまた、すごくリアルな空気感。

作者は最終章「炭素」で「この本は自伝ではない」と言い、
「何らかの形での歴史」「極小史」とも言っています。

1919年にユダヤ人としてイタリアに住み
大戦下を生きるということと、
化学少年から化学者になり思索を続けたということ。
それぞれ別軸なようで、融合していて、
それが作者の「極小史」として綴られている。

アウシュビッツの体験記はまた別に執筆しているので、
この本ではあまりページは割かれていません。
(そちらも読まねば)

たまに「蒸留はすてきな作業だ」と言ったり、
化学分析が好きなんだなあと思えて、良いですね。

稀有な一冊だと思う。

ところで、超絶余談ですが、
ものの例えに「フン族」が出てくるんです。
(p314.やっかいごととはフン族のようにだく足でやって来るのではなく、疫病のように、静かにこっそりと忍び寄ってくるものなのだ)
ワニの町へ来たスパイ』でも、ごく自然に
アッティラの例えが出ていたんですが。
(アッティラ並に虐殺するな!的な)
海外ではフン族って必須教養なのかな。
私、最近まで知らなかったのでお恥ずかしい…。
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『黄色い雨』

2023-12-19 10:47:25 | 日記
『黄色い雨』
フリオ・リャマサーレス
訳:木村榮一

スペイン山奥の廃村。
村に残った最後のひとりの、朽ちゆく日々。

冒頭でもう、いきなり、末期です。
いきなりエンディング!
と思ったら、その後150ページかけて
村から去った人々や去った日々をきれぎれに思い出し、
徒然なるままに語るのです。
すごい長い走馬灯である。

しかし読んじゃう。
引き込まれちゃう。
なんだか不思議な小説だった…。

少しずつ確実に崩壊していく村、
去っていく知人・友人・家族。
とっくに終わっているのだけれど、
それでも続く「余談」のような日々に
タイトルの「黄色い雨」がちょこちょこ現れます。

時間は執拗に降りつづく黄色い雨であり、(p59)

今では苦痛が苦くて黄色い雨のように私の肺を浸しているが(p88)

突然黄色い雨が降り注いで、粉挽き小屋の窓と屋根を覆い尽くした。
それはポプラの枯葉だった。(p98)

命が尽きようとし、窓辺に降りしきる黄色い雨が
死の訪れを告げている今になって思うのだが(p141)

時間はゆっくり流れてゆき、黄色い雨がベスコース家の
屋根の影と月の無限の輪を消し去って行く。(p145)


主人公が妻の死を伝えたリンゴの木は、
その後狂ったように花をつけ、
秋には「大きくて肉の厚い黄色いリンゴ」の実がなる。(p143)

そして、だんだん、「黄色」そのものが死を象徴して
主人公の内外を侵食します。

今、死がこの部屋のドアのまわりをうろつき、
大気が私の目を少しずつ黄色に染めている。(p112)

雨は日毎私の記憶を水浸しにし、私の目を黄色く染めてきた。(p145)

そしてある朝、ベッドから起き上がって窓を開けると、
村全体が黄色く染まっていた。(p146)

雌犬の影もまた黄色くなっている(p147)

やがて自分自身の影も黄色くなっていることに気づいたのだ(p147)

黄色いねえ。
終始、黄色が印象的な物語です。
怖いというより、孤独。で、悲しい。

表紙の黄色い風景画も印象的で素敵です。
ニコラ・ド・スタールという
ロシア出身フランスで活動した画家の作品だそうです。
あ、スペインの人ではないのか。
でも良いな。良いセレクトだな。

ちなみにこの廃村「アイニェーリェ村」は
スペインのブレプエルトと呼ばれる地方に
実在する村だそうです。
おお、急にちょっと怖くなるのはなぜだろう。
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『ジゴロとジゴレット: モーム傑作選』 傑作しかないね!

2023-12-13 18:29:36 | 日記
『ジゴロとジゴレット: モーム傑作選』
サマセット・モーム
訳:金原瑞人

モームの描く「人間味」がすごく好きだ。
これは良い。
良い傑作短編集!!!

とにかく出てくる登場人物みんな、
血が通った人間!って感じでビックリします。
モームの人間観察力、怖〜っ。

いわゆる主人公や、テーマとなっている中心人物以外も、
もうね、人間味がすごい。
すごすぎて、すぐに感情移入しちゃう。
その人物に夢中になっちゃうので、
途中から主人公が「遅れて登場だぜ!」みたいに
スポットライト掻っ攫うんですけど、
「ええ〜!!」となります。

でもやっぱり主人公の方が魅力たっぷりだから
乗り換えちゃうのよ。
ごめんよ。
「前座も良かったよ〜!」とか言って。

なんだこの贅沢な短編。
すごいわ。
ってなります。

すごいわ。

以下、収録作!

『アンティーブの三人の太った女』
これ、すごくわかります笑
なんで問題が解決した後(リナが去った後)に食っちゃうのよ笑
って思うけど、共感しかない笑

『征服されざる者』
訳者あとがきにもありましたが、これだけ異色作。
モームにしては救いが無いお話しですが、
でも、主人公の男の言動はあり得る気もするなあと思ってしまって
怖い。モームの観察眼が怖い。

『キジバトのような声』
これは若手作家のお話しかな、おもしろい奴だな、と思ったところで
「主人公登場〜」って感じでスポットライト掻っ攫われ案件。
最高におもしろいです。好き。

『マウントドラーゴ卿』
こちらも精神科医は狂言回しですが、深みが凄い。
本人もよくわからないけど「名医」なのだ。なんだそれ〜。

『良心の問題』
これも好き。あんなに愛した妻を殺してしまう過程が、共感しかない。

『サナトリウム』
これが一番好き。(感想、「好き」ばっかりだな)
中盤の、あんなに愛した妻を疎んでしまう気持ち、共感しかない
(さっきも同じようなこと書いたな)。
そして、モームは読者の共感ゲット程度では終わらない。
ラストが秀逸。

『ジェイン』
奇抜なファッションが気になってしょうがない。

『ジゴロとジゴレット』
これも、ラストが好き。最高。
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